884手間
騎士というか兵も含めての軍用門と言うべきか、そこへは街道から続く門から街の外周を四分の一ほど進んだ先にあるらしく、ゆったりとしたカーブを描く壁の外をなぞる道を進む。
流石に大きな街だけあって四分の一といってもその距離は長い、騎士たちに囲まれ先導されゆるゆると歩いていると、恐る恐るまるで見つかるのを怖がるかのようにシャーロットが声をかけてきた。
「あの、私が居ても良いのでしょうか、騎士様方の詰め所に行かれるようですし……」
『構わぬ、ワシが許可するのじゃからの』
「え? セルカさんって騎士様に許可を出せるほど偉いのですか?」
『そうじゃな、偉い偉くないで言えば偉いのじゃ』
「えっえっ、じゃあ私降りた方が、あ、いや、もしかして処刑とか」
ふっふんとワシが鼻を鳴らせばシャーロットがワシの背の上でわたわたと慌て始める。
『ワシが許可をしておるのじゃ、何の問題も無いから安心するがよい』
「だ、だけ、ですけど、騎士様は貴族で貴族にものが言えるのって貴族だけで」
安心させるように言ったのだが、それは彼女の慌て様に拍車をかけるだけで、声からもその狼狽ぶりが分かる。
どう落ち着かせるものかと思案するが、今の彼女にどうワシが声をかけても逆効果にしかなるまいと、自然と落ち着くのを待つことにする。
当然それだけ騒げば騎士たちも流石に気付くわけで、しかしそこは下っ端の悲しい所か、どうすることも出来ずに結局は何もせず指示通りに動くことにしたらしい。
まぁ、そう思ったかどうかは知らぬ、騎士なだけあって下手に騒がずちょっとこっちを窺って、困った表情をしただけなのだから。
そんな風に軽いパニック状態になっていたシャーロットが落ち着く、もしくは何かしらを諦めた頃、ようやく軍用門へとたどり着きちょっと尻尾の左右を壁にこすりながらも潜り抜ければ、何とも見慣れた砦の一角といった広場へとたどり着く。
そしてすぐさま騎士たちに囲まれ、その囲いの中から一人フレデリックがややワシから距離を取り、ワシに話しかける。
「先触れから話を聞きましたが、本当にセルカ様ですか?」
『んむ、そうじゃ、どう見てもワシじゃろう』
「えぇ、まぁ、確かにその尻尾とその物言い、セルカ様だとは思いますが」
『なれば何の問題もなかろう?』
「言いたいことは沢山ございますが、とりあえずその大きさのままなのですか?」
『む、これでも幾分か小さくした方なのじゃがの、もう少し小さくなるも容易いことじゃ。っと、その前に彼女を降ろしてやらねばの』
「彼女?」
『んむ』
シャーロットが降り易いようにワシが伏せれば、即座に騎士の一人がやってきて緊張の為か、降りるのに四苦八苦していたシャーロットの手を取り紳士的に降ろしてやる。
すぐさまシャーロットの腰に巻かれていたロープが解かれ、荷鞍もワシから外される、何も言わずともテキパキとモノをこなす騎士たちは流石の一言だ。
「改めてセルカ様、彼女は?」
『んむ、魔物が湧き出る原因を潰した後に、あの森を塒にしておった盗賊どもを見つけての、ついでじゃから潰した更についでに助けての、彼女の親が神前街に居ると言うのでついでに連れて行ってやろうとな』
「なるほど、セルカ様その盗賊のねぐらは後で教えていただくとして、神前街という事は彼女は平民ですね?」
『そうじゃな?』
「ひゃ、はひ、すううです」
騎士に手を取られぽけっとしていたシャーロットに話を振れば、急に自分に話が来て驚いたのか、彼女は素っ頓狂な声をだしぶんぶんと壊れた人形のように頭を縦に振る。
「そうなるとセルカ様のお傍に侍らす訳にはいきませんね」
『侍女や騎士の周りの下女として雇えば良かろう、多少給金も出せばなんぞあっても大丈夫じゃろう』
「それがよろしいでしょうね」
フレデリックは反対するかと思えば、意外とすんなりと彼女を雇うことに賛成した。
『おぬしにしてはやけに素直じゃな』
「困っている女性を助けるのは当たり前でしょう」
ワシに、というよりもシャーロットにだろう、胸に手を当て実に爽やかな笑顔でフレデリックが言い切る。
そういえばそういう考え方の奴らだったと、先ほどとは違う意味でぽうっと呆けたシャーロットを見て、ワシは苦笑いを浮かべるのだった……




