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女神の願いを"片手ま"で  作者: 小原さわやか
女神の願いで…?
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867手間

 シャーロットを待つ、手持ち無沙汰な間に法術で体に付いた血などを洗い乾かして、今度はくるりと体を丸めるように座り尻尾に頭を乗せる。

 そうして目を瞑りどれだけ経っただろうか、随分と重さを増した足音にワシは立ち上がり目を向ける。

 そこにはこれから山籠もりでもするのかと思うほど、頭の上から飛び出るほど大きな背嚢二つを背負い、手に踏板の無いアーチ状の橋のようなモノの内側にクッションが付いた器具を持ったシャーロットの姿。


『それを持ってゆくのかえ?』


「はい、神都までどれほどかかるか分かりませんので、食料と道中で食料と交換したり売ったりするための物を沢山」


『そうかえ』


 彼女を背負えばクリスらと合流するのにどれ程かかるか分からない、備えあれば何とやら、悪い事では無いかと納得する。

 先ほどまで盗賊どもに捕らえられて居たとは思えないほどの逞しさ、どれだけここにいたか知らないが、そうでも無ければやっていけなかったのだろうと彼女を慈愛の瞳で見つめる。

 そんな風に見られてるとは露知らず、彼女は背嚢と手に持った謎の器具を下ろすとまたどこかへ行こうとする。

 

「すみません、飲み水と火口(ほくち)を取ってきますので――」


『あぁ、水と火は気にせずともよい、ワシが法術で出せるからのぉ』


 すぐにでも走って行きそうな彼女の言葉を、途中でかき消すようにワシの目の前に火と水の手の平ほどの球体を出してやる。


「魔法、すごい初めて見ました!」


『魔法では無いのじゃが……。まぁよい、おぬしの周囲には魔法を使う者は居らんかったのかえ?』


「はい、騎士様や貴族の方々は普段お使いになられないですし、爵位が貰えるほど大きな商会でも無いですから、学院にも縁がありませんでしたので」


『ふむ、普通はそんなもんなのかのぉ』


 マナの容量が少ない者からすればそれが普通かという納得も、彼女のキラキラとした新しい玩具でも見たかのような瞳に吹っ飛ぶ。

 

『それで、それ以外に荷物は無いかの?』


「はい、水も火も要らないのであればこれだけで十分です。それであの、少し伏せてもらえますか?」


『んむ、落ちんように気を付けるのじゃぞ』


「あ、いえ、これを着けて貰おうかと」


 そう言って彼女が持ち上げたのはアーチ状の謎の器具。


『それは何じゃ?』


「これは荷鞍(にぐら)といって、その、馬なんかに荷物を背負わせるための物で……」


『ほほう、確かにワシの背に乗って荷物を支えておくと言うのも大変じゃろうしの』


 今のワシはゾウ程大きさがある、その背から落ちたら大怪我は免れない、なれば荷をどうにかする必要があるかと、なかなか知恵の回る子だと感心する。

 ワシはなるべく低くなるように伏せると、失礼しますといってワシの背に彼女が荷鞍を乗せる。


「それじゃあ、お腹の下に紐を通すので少し立ってもらえますか?」


『んむ』


 すくっとワシが立つと、荷鞍のアーチの端から伸びるロープをワシの腹の下で彼女が結ぶ。

 その後再びワシが伏せると荷鞍へと、彼女が二つの背嚢を結びつける。

 

『ところで、ワシに乗るのに鞍は使わんのかえ?』


「えっと、荷鞍はある程度は幅? というか背中にクッションなんかで形を合わせることが出来るのですが、鞍はなんか木から削り出して作ってるらしくて調整ができないので……」


『そうかえ、では落ちぬよう気を付けて乗るがよい』


 ふと背に乗るのならば鞍があった方がと思ったのだが、どうやらそう上手いモノは無い様で、ワシの知り得ぬ事だし仕方あるまいと納得する。

 ワシが乗馬ならぬ乗狐を促せば、彼女は手早く荷鞍を取り付けただけあって馬に乗るのに慣れてるのだろう、ひらりとワシの背に乗りしっかりと捕まった旨が聞こえる。

 それを聞くとゆっくりとワシは立ち上がり、盗賊のアジトを離れ、今度こそクリスたちの下へと歩みを進めるのだった……


 

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