847手間
ようやく、ようやく神都へと帰ることが出来るようになった。
振り返ればそこまで長く滞在した訳では無いが、やはり煩わされたという事もあってか、その分長く感じた気がする。
今しばらくこの砦に駐留するらしい騎士たちの、若干羨ましそうな視線を背にワシとクリスは、いそいそと馬車へ乗り込み砦を後にする。
「ようやくじゃなぁ」
「そうだね」
「帰ったら、しばらくのんびりと過ごしたいものじゃ」
「あー、セルカ。帰ったら結婚式の準備なんかがあるから、のんびりしてる暇は無いんじゃないかな?」
「おぉ、そうじゃったのぉ」
「それに、帰り着くまでも日数が掛かるし、その間ゆっくりと休めばいいんじゃないかな?」
「それはそうなんじゃがのぉ」
確かに、のんびりとした馬車の旅といえば聞こえがいいかもしれないが、やはり一所に落ち着いてのんびり過ごすのとは違う気がする。
車窓からの景色を楽しむにしても、流石に一月二月、似たような景色が続いては如何に綺麗な風景でも辟易してしまう。
それに周囲を騎士たちが囲っているので、景色がよく見えないというのもある。
「ところで、ワシはこっちの結婚式の儀礼など知らんのじゃが」
「普通は聖堂で司教の見届けの下で、宣誓書に夫婦になる二人で署名するだけだけれども」
「けれども?」
「今回は特別に教会で式を挙げれるんだけど、もしかしたら違うやり方になるかもしれない」
「そうなのかえ?」
「さぁ、僕も詳しくは無いからね。帰ったらその辺りはちゃんと教えてくれるんじゃないかな?」
「ふむ、それもそうじゃな」
ワシは一度経験してるとはいえもう六百も前の事なので、その時のことはよく覚えていても儀礼の内容までは覚えていない。
その上たぶんその儀礼も全く違うのではないだろうか、何せ宗教が違うようなものなのだし。
何にせよここにはその手のことに詳しそうな者は居ない、一番知っていそうなアニスは今回同行していないし、フレデリックも独身な上に結婚に関して完全に興味を持ってなかったので知らない可能性が高い。
「結婚といえば、フレデリックの相手はまだ見つかっておらんのかのぉ」
「あぁ、それも考えないとねぇ、父上が良い相手を探してくれてるとありがたいのだけれど」
ワシとクリスは自分たちの事は棚に上げ、これはよい暇つぶしを見つけたとばかりにフレデリックの結婚相手だけでなく、結婚式はこうしたらいいのではないか等、本人が居たら頭を抱えそうなことを馬車の中でひたすら話し合うのだった……
 




