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女神の願いを"片手ま"で  作者: 小原さわやか
女神の願いで…?
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833手間

 今日も今日とてストレッチ兼兵や騎士たちの訓練代わりの運動をしていると、ようやくとワシが言うことではないが、例の晶石が運び込まれたとフレデリックが伝えに来た。

 正確に言えば運び込まれたと言うのは語弊があるか、ワシの爆発するかもという冗談まじりの脅しをクリスがよほど懇切丁寧に伝えたのか、砦より少し離れた位置に持ってきたので見に来て欲しいという。


「何の問題も無いと思うんじゃがのぉ」


「お言葉ですが、セルカ様にとっては大丈夫でも、我々にとっては大丈夫ではない場合も御座いますので」


 フレデリックの言葉に若干納得がいかないものの、それもそうかと頷きクリスらと馬に乗ってやって来たのは砦から丘一つ越えた先の、周囲を丘に守られるようにある小さな広場の様な場所。

 万が一爆発しても周囲に被害が広がりにくいようにという考えからなのだろうが、もし例の晶石が爆発したら丘があろうと何だろうと、諸共砦が吹き飛ぶと思うがそれは言わない方がいいだろう。


「ご足労頂き誠に申し訳ございません、殿下、座下」


「よい」


 クリスが騎士たちに鷹揚に応え、馬を降りるのに続いてワシも馬から降りる。

 跪く騎士たちの前にあるのは剣を運んだりするために用いる木箱、長物程では無いが両手持ち出来る剣が入る大きさ、なるほど確かにこれでなければ仕舞えぬならば、晶石はそれなりの重さになるだろう。

 厳重に封されこのままでは中を見ることは出来ないが、それでも何と例えれば良いだろうか、凄まじいまでの存在感が木箱の中からでも分かる。

 

「それの中か? 今見ることは出来るか?」


「はい、今のところ回収した物に異常はありませんので、すぐに御覧に入れます」


 騎士の一人が釘抜きを使い木箱の蓋を開けてゆく。

 そして恭しく二人掛かりで木箱の蓋を持ち上げ開けられた木箱の中には、剣が必要以上にガチャガチャと擦れないようにするための古布だろうかが敷き詰められみすぼらしい、しかしそんなモノが気にもならない程の物が木箱の中に収められていた。

 クリスやフレデリックまでもが息を呑むのが分かる、それほどの物、いや、一品と言った方が良いだろう。

 中に収められていた晶石の大きさは、縦が一振りの剣先から柄頭まで横幅は子供の胴もある両端が細長い楕円形、形状はラグビーボールに似ているだろうか、宝石に例えるならばマーキスカットのようだ、表面は適当に小刀で削ったかのようにデコボコしている。

 ここまでならばその大きさ以外は別段特筆すべきことは無い、しかし注目すべきは何よりもその色彩だろう。

 表面はまるで夜空の様な濃紺、内は淡く白く輝きその光の中に、七色などという言葉では到底言い表せない複雑なグラデーションを描くガス状の光が、外へ外へ行こうとしたところでまるで時を止められたかのように、晶石の内側にその光を閉じ込めている。

 あぁ、あぁ、まるで銀河や天の川の一部を切り出したかのような晶石は、見る者すべての息を奪い去るかのように美しい。


「これは、見事じゃのぉ」


「はい、今まで女性が宝石に夢中になる気持ちが微塵も理解できませんでしたが、これを見た途端なるほどと、世のご婦人が宝石に夢中になるのも頷けると理解したほです」


 それはそれで問題なのではなかろうか、ワシも今までの立場上、数々の名品と呼ばれる物を見てきたが、これはその中でも特上だ。

 これを見て宝石とはこの様なモノかと思ってしまったら、一般の品はもとより一級品の物まで、路傍の石と同程度に見えてしまうのではなかろうか。

 ま、その辺りはワシが気にすることでも無いかと、再び晶石をじっくりと観察する。


「ところで、これの周囲におったりして何ぞ問題は出ておるかえ?」


「いえ、見た目以上に重いという以外は今のところ何も、運ぶ際に触った感触も宝石というよりも、むしろ鉄の塊を触っているかのような強度でして」


 ふむ? と呟きながら晶石の両端、細くなった部分をすくい上げる様にして下から持ち上げる。

 確かに重い、しかしそれは見た目に反してであって持てない程では無い、雪玉の中にダンベルが仕込まれている様な、そんな見た目と重さの乖離さだ。

 だがそれよりも気になるのが持っている感触だ、確かに金属のような硬度を感じるのだが、持っている感じがしない。

 重さも硬度も感じるが、まるでそれが自分の体の一部かのように不思議と持っているという感覚が無いのだ。


「おぬしらはこれを持ち上げた時、変に感じんかったかの?」


「先ほども申し上げました通り、見た目と重さが違うのとその硬さに驚いた以外は特に……」


「ふぅむ、ちとクリスも持ってみてくれんかの」


 一度木箱の中に晶石を戻してからクリスに持ってもらう。

 クリスはややふらつきながらも腕と胸で挟むように晶石を持ち上げて、何度か重さや硬さなどを確かめるように晶石を上下させる。


「何だこれ重い、すごく硬いが、うん、それ以外は何も変なところは無さそうだけれど」


「ふぅむ、ワシだけという事かえ……」


 クリスが大きく息を吐きながら、晶石を木箱に戻すのをみてワシは首を傾げる。

 その状態でもう一度手を当てるとやはり触っているのにそこに無いかの様な、そんな不思議な感覚にもう一度首を大きく傾げるのだった……

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