ある男の悩みと…
僕は三男として生まれた。僕の家系は非常に珍しい、ほぼ確実に宝珠が代々現れる家だった。
寿命が長いほうが仕事がしやすいからそうなったのか、宝珠が現れるのに血筋は関係無いとされるけど実は関係があるのかも、でも今はそんな事どうでもいいか。
それでもたまに宝珠無しとして生まれる人が居るらしいけど、我が家では宝珠が無ければたとえ長男でも家は継げない。
無しに比べて二倍も三倍も生きるし、元気に働ける期間はそれ以上だから仕方ないか。病気もし難いしね。
幸い上の兄二人は宝珠持ちで体も悪い所は無い、だから僕にお鉢が回ってくることは無い。不慮の事故でもない限りはね。
昔は戦争に駆り出されたり、兄弟で家督を争って殺し合いなんてのもあったらしいけど、僕は兄二人を尊敬してるし兄二人も仲が良い。戦争なんてものも過去の話だ。
だから僕は家を飛び出した。
父には見聞を広めるためと言って、母には内緒で…。
だって飛び出した理由が…。
「あの子ももう少しで成人だし、お宅の娘さんのお相手にどう?」
なんて母が話しているのを聞いてしまったからだ…。
確かに父も母もお見合いって言うんだっけ?
お互いの家の紹介で成人前に結婚したって言うのは聞いたし、今も仲がいいのは知ってるよ。
でも、その人の家の娘さんって、この間生まれたばかりで名前もまだついてないよ!
流石にそんな子と結婚なんて嫌だって理由で飛び出してきたとか死んでも言えない…。
上の兄二人と同じように、僕も宝珠持ちで中でも魔法の才能があったから家を飛び出してもハンターとしてやっていけた。
最初はいろいろ慣れないことも多くて大変だったけど、それにも慣れて一巡りほどで四等級になれた。
僕くらいの歳の人としては結構早いらしい…けれどその後二巡りほどかけても三等級には上がれなかった。
ハンターに同世代の人なんてあまり居ないから声もかけ辛いし、ずっと一人でやって居たのが原因かなぁ。
そう思っていた時に偶々ベテランの人の話が聞こえてきた。たぶん同じパーティの四等級の人に聞かせてたんだろう、同じ四等級でも僕よりずっと年上だったけど。
そして聞こえてきた話はこうだ。
「三等級からは護衛依頼などを受けることが出来るが、何より重要なのは氾濫の討伐に行けるって事だ。もちろん周りに被害を出さないため倒すってのがお題目だし大量の魔獣や魔物を相手にするんだ、命の危険も相当にある。けれどな…その危険に見合ったどころかお釣りを払ってさらに豪遊できるぐらい稼ぎがいい。おっと、なんでかってのは秘密だ。稼ぎがいいからって勝手に五や四のひよっこが来て死なれても困るからな、三になってのお楽しみってやつだ。んで、その三になるためだが…お前たちに何が足りないか分かるか?」
そこまで一気に話したベテランの人の言葉に恐らく四等級なんだろう数人が首を横に振る、僕も頭をひねっている。
「まぁ…わかんねぇよな。それはだな…魔物の討伐だ。氾濫には魔獣や魔物が多く出てくるからな、その為にも氾濫産ではない純粋な魔物と戦わないとダメってわけだ」
そこまで聞いて確かに僕は今まで魔獣は結構な数倒してきた覚えがあるけど魔物はまだ一匹も無かった。
今まで一人だったから森の奥など魔物が出やすい地域には足を踏み入れてなかったが、それは盲点だったとばかりに急いで森の奥へと向かったんだ。
一人で碌に準備もせずに森の奥へ…ほんと浅はかだった…。
「大丈夫か?」
碌に魔法も効かず魔物に追いかけられて逃げまどって転んで、もう死ぬんじゃないかって思ったときに男の人が魔物と僕の間に躍り出てきた。
その人が魔物の一撃を受け止めると横から別の人が来て魔物の脇を刺し、魔法がいくつも飛んできて魔物の体を穿つ。
受け止めていた一撃を払いのけるとすぐさまその人も魔物に切りかかり、遂に魔物は塵になった。
すごい…僕の口からはそれしかなかった。
「大丈夫か?」
そういって手を差し出され、なんでこんな場所に一人で四等級の僕がここに居るのか聞かれた。
だから家を飛び出した事は伏せて、今までの事を話した…なんでここに来たのかも。
「ふ~ん、じゃあ一緒に来るか?」
僕なんかでいいのかって聞いたけど、ちょっと前…と言っても一巡り以上前だけど一人抜けちゃってその穴を埋める人を探してたらしい。
それこそ僕で?と思ったけど、同じ魔法使いの二人の話ではちゃんと頑張れば結構いい線いくと。
「それに新人の育成はベテランの務めだからな」
それから色々教えてもらいつつ魔獣や魔物を狩って行ったら一巡りもしないうちに三等級になれた。
僕は二巡りも三になれないなんてと落ち込んでたけど、普通はもっと時間がかかるものだと聞いてちょっと自信がついた。
けれど一緒に居る人の力を見ると、僕は全然ダメなんだなぁって思う。
一緒に周ってるうちに何度も聞いた、抜けた人の話を聞くとますますそう思う。
何度もあれは特別だ、あれはおかしいから気にするなとか言ってたけど。
初めは話を聞く度に自信を無くしていってたけど、いつからかその人に憧れを抱くようになった。
曰くハンターになったその日に三等級になったとか、魔物を一撃で倒したとか。
洞窟の奥深くに潜んでいた巨大な魔物を地面ごと抉るほどの一撃で倒した。
そして自身の名がつく鉱脈を発見したと…。
まさにハンターとしての理想をこれでもかと詰め込んだような人だった。
魔法は使わなかったと言ってたから剣士なのかな…魔物を一撃で倒す位だから筋骨隆々の、なんて考えを膨らませてた。
僕の中でその人はいつの間にか、筋骨隆々体中傷だらけの髭を生やした大男といった印象になっていた。
それからすぐだった、魔法使いの女の人が結婚してパーティを抜けたのは。
それからまた何度も魔物と戦ったりしたけど自分と抜けた人の力量差に自信を無くす日々だった。
その日も俯いたままギルドに入っていった。
何やら久々に会った人と話してたみたいだけど、ハンターにはよくある事だったので俯いたままぼんやりと話を聞いていた。
「おぉ、わりぃ忘れてたわ」
背中をぐいっと押され、さっきまで話してた人の前に出される。挨拶しろって言う事だろうか。
突然の事にびっくりして、そして何よりその人の容姿に見とれてまともに挨拶できなかった。
一目惚れだった。
「んむ。ワシの事はすでに聞いとると思うがセルカじゃ!」
胸を張り自信に満ち溢れたその少女が僕の憧れの人だった。
僕のあこがれはその日、全部恋心に変わった。
そんな人が僕の前で泣いている…。
今まで泣くどころか泣き言一つ漏らさなかった彼女が泣いている。
泣かせたのは僕だ、僕の言葉だ、僕の想いだ。
だけど僕を想って泣いてくれてる、僕の為に泣いてくれている。
きっとこれは僕の独りよがりなんだろうけど…ぎゅっと抱きしめる。
けれど僕の右手をぎゅっと握ってくれてるんだ…この位の独りよがりはいいよね?
いつの間にか泣きつかれたのか、僕に抱かれたまま寝てしまったようだ。
僕じゃ彼女を守るなんてことは出来ない。
だけれどいつかその時まで彼女のそばに居ることは出来るよね?
だから彼女の傍でずっと支えてあげるんだ、いつかその時がくるまで。
次回から間章としてカカルニアでのお話に。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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