826手間
揺らめく蒼い炎を剣の形に切り出したかのような見た目だったものは、ワシがマナを込めてゆくごとに圧縮され、マーブル模様の蒼い大理石のような外観へと変化してゆく。
しかしまだまだマナの制御にも、込めるマナにも十分すぎるほどの余裕がある、普段であればここまでより前で既に放っている、それだけで眼前の魔物の群れは十分に屠れるだろう事は感覚的に判る。
今放てば蒼い剣が突き刺さった周囲は奴らが立っている大地ごとめくれ上がり、燃えるというよりももはや分解されると言った方が正しいほどの熱量でもって巻き上げられた大地ごと消滅するだろう。
「まだ行けそうじゃな」
この調子では制御にもマナの供給にも限界まで行くには時間がかかり過ぎると判断して、剣を更に四本追加してそこに同じ様にマナを注ぎこむ。
グングンとマナの密度を高められた五振りの蒼い剣の光量は、とうとう蒼を通り越して白く光り輝く、目も眩まんばかりの白銀の剣へと変じた。
「ここらが潮時かの」
感覚的にはまだまだいけるが放った後の被害を抑えるためにも、これ以上余分なことはしない方が良いだろう。
ちらりと剣を落す先を見ればゆらゆらと、蜘蛛の糸に群がる愚者か誘蛾灯に引き寄せられる虫か、魔物達が白銀の剣に向けて必死に手を伸ばしているのを見て、何故やつらがここに来たのかを理解する。
「どうやら奴らワシに、ワシのマナに惹かれて集まったようじゃな」
「一体どういう……」
「さてのぉ、ここのところ同じような場所で派手にマナをばら撒いておったからの、どれかは分からぬが風にでも運ばれたのを目ざとく嗅ぎつけて来たのじゃろうね、獣人でも無いのに何とも鼻の良いことじゃ」
これほどの数が集まったのには驚いたがそれはそれで丁度良い、小出しにされるよりも一気に来てもらって一気に殲滅する方がワシにとっては都合が良いのだから。
さてとそろそろ見ている方も焦れてくるだろう、掲げていた右手を振り下ろしそれに合わせ白銀の剣も地面に向かって一直線に途中まで飛び、緩やかなカーブを描いて五本の剣がお互いにぶつかりそこで止まってしまう。
「なんじゃっ!?」
ワシはカーブを描くように制御などしていない、一体どういう事かと片眉を上げた瞬間、白銀の剣は互いがぶつかった箇所を中心に、擬音を付けるならばゾルンとでもなりそうな粘度のある動き方をもって吸い込まれるように消えてしまった。
「セルカ?」
「なんじゃ? 何が起こったのじゃ?」
クリスが説明をして欲しそうにこちらを見ているのが、それは何よりワシが知りたい。
しかしワシは剣が消えた箇所から目を逸らさず、いや目を逸らせずにいた。何せ消えた筈なのに五本の剣の感触と言うべきか繋がりというのが正しいか、ソコにまだナニカがあるのだ。
些細な変化も見逃すまいと睨みつけるワシに答えを出すかのように、剣が消えた箇所の景色が歪みゴウッと背後から激しい風が吹き始める。
「ぬぅ、風が吹いてきたかの」
風が吹くという事はマナが激しく動くという事、何か変化があっても見づらいと目を細めるワシをあざ笑うかのように風は強くなり、目の前の魔物の群れから幾匹かの魔物が舞い上がると景色が歪んでいる場所に向け、水が排水口に流れるような動きで吸い込まれてゆく。
それを皮切りに次々に魔物が舞い上がっては吸い込まれてゆく、それはまるで掃除機に吸い込まれてゆくゴミのようで……
「まさか……」
「あれがセルカの魔法?」
「違う違うのじゃ、アレはワシの法術ではあるが、まずい、まずいのじゃ」
歪んだ景色、吸い込まれる物体、ワシのおぼろげな知識が正しいのならばあの現象は……。
まさかまさかとかぶりを振る間にもどんどんと魔物は吸い込まれ、歪んだ景色の中心に何も映していない虚ろな黒点が見えた。
あれが本当にワシの考えているモノならば非常にまずいことになると必死に停止させようと制御するが、握った綱が次々と手の中からすり抜けて行くような感覚を持ってワシの制御を受け付けてくれない。
ついには手の中から全ての綱がすり抜けプツンと黒点との接続が切れたその時、今まで吸い込んだ光全てを吐き出すかのような強烈な閃光に包まれるのだった……




