816手間
見える人数は多く見積もっても千余名、しかしその威容は六千の軍勢にも引けを取らないとはフレデリックの言。
ワシからすれば人数が減ったなとしか思えないが、フレデリックだけでなく他の騎士たちやクリスまで何となく感じているようなので、騎士として訓練を受けた者かもしくは男のロマン的な何かなのだろうと首を傾げる。
「確かにマナの量はこちらの方が多いかの?」
「へぇ、セルカから見てもそんなに違う?」
「言われてじぃっと見てようやく気付くくらいかのぉ、朝露の一滴が昨日よりほんの少し大きいかとか、せいぜいその程度じゃ」
「それが分かるのも、それはそれで凄いと思うよ」
気のせいじゃないかと言われたら、逡巡する事も無くそれもそうかと納得する程度、それだけの違い。
「まぁ、よいか。して、ワシらの出番はいつかの?」
「彼の王が到着してからしばし寛いだ後になるかと」
ワシの疑問にすかさず後ろに控えていたフレデリックが答える。
これも全てこちらの方が上位者であるという格付けに必要だと、話によれば相手は武闘派という事だし一発ぶん殴れば理解するのでは無いだろうか。
「流石にそれは……」
「獣人ならばそれですぐ序列が分かるのじゃがのぉ……」
弱肉強食、強いモノが正しい、無論ある程度の秩序だっての下剋上でなければならないが、礼節でこうした方が上位者で云々と言うのは無い、強い奴が強い、シンプルイズベスト、力こそパワー。
脳筋とも言うが獣人の面倒を嫌う気質はここから来てるのだと思う、いや、面倒を嫌う気質だからこそこうなのか?
「まぁ相手がそれを望むようじゃったらワシが相手するからの、その時は容赦なく……いや容赦してやるとするかの」
「参考までにセルカ様、容赦されなかった場合どうなるのですか?」
「そうじゃな……山の上から落ちてきた巨石に潰された方がマシなことにはなるかの、たぶん」
要はミンチよりひでぇやって奴である、もしかしたらミンチにもならずに消し飛ぶかもしれない。
ただそこまで威力を出すとなると自分にも影響があるのでそこまでしない、無論ワシの体にではなく服にであるが。
「セルカ様に勝てるモノなど存在するのですかねぇ」
「単純に力でとなるとまず居らんのではないかの、口とかであればいくらでも居りそうじゃが。あとはそうじゃの、力でも下からすくい上げる様にするのには弱いのぉ」
「理由をお聞きしても?」
面白いことを聞いたとばかりにクリスまでも眉を上げるものだから、少し苦笑いしつつもフレデリックの問いに答える。
「簡単じゃ、ワシ軽いからの」
フレデリックはワシの単純明快な答えに納得したように頷くが、クリスは若干意味が分かっていないのか軽く首を傾げている。
「重いものと軽いもの、どっちが持ち上げるの楽かという話じゃな。今まで問題無かったのはソレが出来るようなモノがおらんかったからじゃな、ワシに挑む様なモノは大抵ワシよりデカいからの、すくい上げようとしてもワシからすれば横から殴っておるようなモノじゃし、理解しておっても下からよりも上から攻撃したほうが力が入るから、誰も無理して下からすくい上げようとは考えんからじゃの」
「なるほど。確かに下段からの切り上げは、牽制程度の威力にしかなりませんからね、そこを磨くならば上段からの振り下ろしを磨きます」
「じゃろう?」
剣の素振りだって上段から斬り下ろしばかりだ、下段からのものはワシの知る限りではそういう型か、攻撃というよりも引き戻しを重視したものばかり。
豚鬼や小角鬼相手に下段からの切り上げなんてするよりも、大上段からの一撃で倒した方が良いに決まっている。
何せ相手は力に飽かせた攻撃しかしてこないのだから、乱暴に言えば武術を極めるよりも如何に相手に当てて倒すかを極めた方が良い。
などなどワシの適当な持論を展開している内に相手を十二分に待たせたらしく、騎士が出番ですと、そうは言ってないが呼びに来た。
ワシは立ち上がりつつ今まで遇った者がモノなので、変なことをしたら一発ひっぱたいてやろうと変な決意を抱きつつ、クリスと共に騎士に案内され彼の王と会う部屋へと向かうのだった……




