815手間
書簡の返事はすでにクリスがしたため送り出した、雪崩で遠回りをせざるを得なかったジュデッカ侯爵の兵たちともワシらが送り出した者と接触し先触れを送り返してきた。
彼らが言うにはその中にジュデッカ侯爵の嫡子が同行しているという、本来はジュデッカ侯爵本人が来る予定だったのだが雪崩のせいで怪我をして急遽その息子が来ることになったらしい。
怪我と言っても先触れの者が言うには巻き込まれた訳では無く、雪崩に驚いた馬が暴れて馬車が転倒したためらしいが、幸いなことに腕の骨を折った程度で命に別条はなかったそうだ。
「暇じゃの、こういう暇なとき、騎士らはどうやって暇を潰しておるんじゃ?」
「あぁ、うん、これといって暇な時ってのはないかなぁ……特に下っ端なんかは雑用までさせられるから」
「ふぅむ」
「あ、暇つぶしって訳じゃ無いだろうけど、結構賭けをしてることが多いかな。賭けといってもお金じゃなくて、支給される嗜好品なんかをだけど」
「ほほう、どんなモノを賭けにするのじゃ」
「そう大したモノでも無いさ、例えば今日の訓練で一番最初に誰がへばるかとか、模擬戦で誰が誰に勝つかとか」
クリスと二人お茶を飲みながら他愛もない話をする、普段であれば何の労苦もなく手に入るものであるが、ここ最近は得難いものになってしまったと、ほうと息を吐く。
「ところで、聞いたよセルカ、あの男を脅してきたんだって?」
「仕方ないじゃろう? キンキンと金切り声が煩かったのじゃ、そこに丁度奴を黙らせるに良いモノが届けば、誰だってそうするじゃろ」
「そんなに煩かった?」
「あやつの声が妙に牢へと反響でもしたんじゃろうな、何を言うておるか分からんがキンキンとのぉ。例えるならばそうじゃな、耳元でひたすら金属をこすり合わされとるようなもんじゃろうか」
この地域に蚊は居ないので別の物で例えたが、クリスも何となくではあろうが理解してくれたようで、なるほどと頷いている。
「しかし、今度こそ大丈夫だろうね?」
「書簡を見る限りは大丈夫じゃろう。じゃが、もし言を違えるようならば……滅んでもらうだけじゃ」
「そうか……」
そこまで来たら流石にもう甘い顔をする訳にはいかない、大半の関係の無い民たちには悪いが、愚か者が立つ下に生まれたことを恨んでもらう他ない。
どうやって滅ぼすか? そんなの簡単だ全力で魔手を振るえばいい、そうすれば文字通り跡形もなく全てが消え去るだろう。
「セルカ、そんなに怖い顔をしないで。書簡と一緒にとりあえずあるだけって感じで集めた贈物を出してきたんだ、流石にそう変なことはしてこないと思うよ」
「であれば良いのじゃがのぉ」
正直あんなのがのさばっていた国だ、他の者もさして変わらないのではないかという疑念は尽きない。
クリスの言う通り吟味したというよりも、手あたり次第に目に入ったものをかき集めたといった印象の金銀財宝を書簡と共に贈って来ており、その書簡自体も王からのではなく臣下からのといった平身低頭を感じる内容だった。
ぽふぽふとクリスに頭を撫でられて機嫌を直したワシは、折角だからその金銀財宝を見に行くかとよっこらしょっと腰を上げるのだった……。
 




