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女神の願いを"片手ま"で  作者: 小原さわやか
女神の願いで…?
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813手間

 輿の上からゴミでも捨てられるかのようにゴシャッと落されたのは、全身金ピカの趣味が悪いとしか言いようが無い鎧に身を包んだ痩せぎすの男。

 金の植木鉢のような兜が輿から落された拍子に外れ、露わになった顔は白髪交じりのくすんだ金髪の老人というにはまだ少々若いかといったところ。

 今はカニの様に口の端に泡を吹き、白目を向いてうち捨てられた趣味の悪い操り人形のような滑稽な姿だが、起きていても卑しいという言葉が似合いそうな、へらへらとした下品な笑みで揉み手をしている姿が想像に難くない。


「これがおぬしらの指導者、のぉ……」


「そ、その通りでございます」


 さっきまで輿を担いでいた兵が、跪いた姿勢でダラダラと汗をかきながらもガタガタと震え、ワシの言葉に首肯する。

 浅い息を繰り返し時折呼吸が乱れるその姿は、まるで凄まじく強い力で上から押さえつけられているかのようにも見え、流石にこのような状況で偽りをワシに言うほど愚かでも剛胆でも無いだろうと、皆に見えるように再びみぎてを空へと掲げ広げた手のひらをグッと握りしめて空の星を一瞬で消滅させる。

 途端、今まで水面下に沈められようやく息が出来たかのように大きく喘ぎ、それをワシに咎められるかと思ったのかブルリと体を震わせる。


「さてと、敢えて再び問うが、これがおぬしらの派閥の主で相違ないの?」


「……左様でございます」


 ワシへの返答に一瞬の間が開いたのは、息を整える為か、はたまた口から泡を吹いた浜辺に打ち上げられた、腐った魚のような無様な姿を己が頂くべき者が恥ずかしいからか。

 それにしても、さっきからつま先でゲシゲシと足蹴にしているのだが一向に起きる気配が無いのだが、本当に死んでないのだろうか。

 ゲシゲシ、ゲシゲシと幾度か蹴れば時折ビクンと痙攣したように跳ねるので多分死んではいないが、正直言って非常に汚くコレを起こしてどうこうと言うのはやりたくない。

 汚いといっても躾のなってないペットのように粗相をしている訳では無く、汗と涙と涎でべちょべちょになり口から文字通り泡を吹いてうち捨てられた操り人形の様に地面に転がされ、時折痙攣したようにビクンと跳ねる下品な顔の老人というにはまだ多少若い男。

 実に絵面が汚い、ばっちいとも言う、さわりたくない。


「ふむ、そうじゃな。おぬし、動くことを許す、コレを縛り上げい」


「はっ、はひぃ!」


 先ほどからワシの質問に答えていた男に言えば、まるで首に剣を突きつけられたかのように声を裏返し返事をする。


「な、縄を取ってまいります」


「うむ」


 僅かな遅れも逡巡もワシの不興を買うのではないか、そんな恐れが透けて見える動きで転がる様に走り出した男は、丈夫そうな縄を手にあっという間に戻ってきて転がる金のばっちい奴から金ぴかの悪趣味な鎧を手慣れた様子で剥ぎ取ってゆく。

 鎧下の肌着とズボンだけになった男は、金の鎧という最低限己の威厳を保っていた文字通りの鎧を剥ぎ取られたせいで、そこらのスラムで管を巻いているチンピラの様にしか見えない。

 そんな状態になってもまだ起きないとは逆に不安になって来るが今は好都合、くるりとうつ伏せにしたかと思うと両腕を後ろに回し左右の手で逆の腕の肘を握らせるような位置で腕を縛り、さらにそこから首に縄を巻き付け下手に腕を動かすと首が締まる様にして首から伸びる余った縄の一端をワシに恭しく跪いて差し出された。


「おぬしが持っておけ、無論ワシの許し無く放さぬようにの」


「はっ……」


 掲げていた縄の一端を、急に引っ張られても大丈夫なように男は腕に巻き付けてからしっかりと握る。

 その姿や動きから内心どう思っているかはともかく、今のところワシに逆らうつもりは一切ないようだと周囲を見渡す。

 騎兵たちは畏れを感じる所作で、歩兵たちは静かに頭を垂れ、農奴たちはそれこそ堂に入ったと言ってもいい見事な土下座をしている。


「ところで、おぬしらに援軍の用意はあるのかの?」


 ここに居るだけが全軍では無いだろう、何せ六千人も居るのだ、ちょっと日帰りでなどはありえないのでここにいる者たちを支えるだけの食糧や寝床などを確保せねばならない。

 つまるところそれを守るための兵力と言うのは必要で、当然彼らは自分たちの主が捕まってるとしれば取り返そうと動くだろう。


「後方の陣地に居りますが、最低限陣地を守るだけの兵と食事などを用意する者たちだけでございます、貴女様に逆らえるようなモノではとても……」


「数などどうでもよい、それこそ物の数ではない、というやつじゃ。問題なのはこれ以上ワシらに逆らうか否か、じゃの」


「も、もちろん逆らわせません、逆らいません。絶対に絶対にそのような事は!」


 正に即答、ワシの言葉にギリギリ被せないあたりで、それはもう見ていて可哀想だとちらと思ってしまうほどガタガタと震えながら。

 その姿に自業自得ではあるがちょっとショックを受けつつも、後の面倒は任せるかと待機している騎士たちを大きく手を振り呼び寄せるのだった……

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