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女神の願いを"片手ま"で  作者: 小原さわやか
女神の願いで…?
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812手間

 もう少しで弓の射程かという所で足を止め、腕を肩の高さまで上げハの字に広げ手の平敵陣に向ける、落ち着けとジェスチャーしているようなワシの姿勢に何事かと頭を捻る雰囲気を感じる。

 ふわりとワシの肩にかかる一房の髪の毛が浮き、薄緑に淡く輝きだすとともに突き出した両の手の平に一つずつ、球体の中心へと吸い込まれ落ちるように渦を巻く蒼い火球が現れる。

 魔法を放つ、それ以外に見えぬワシの姿に敵陣がにわかに騒然とし始め、矢の雨がワシに降り注ごうと弧を描き飛んでくる。

 しかし、ワシが防ぐまでもなく手前で墜ちた矢が地面に刺さり転がり、まるで暴風に薙ぎ払われた麦畑のようだ。それを見て一射で矢が届かぬと悟ったのであろう、今度は歩兵が動き出す。

 だがその動きは遅きに失する、ワシを止めるならば最初の使者を送った時点で止めるべきだった。ゴウッと空気を弾き飛ばしながらワシの手の平から火球が一直線に解き放たれる。

 それは彼らが恐れたように敵陣目掛けて放たれたモノではなく、帯状に広がった敵陣の両翼の端をかすめるように地面を抉り焼き焦がしながら飛翔し、それぞれの射線上にあった丘に着弾する。

 チリッと肌を焼く一瞬の間を置いて着弾した地点を頂点に、丘が無ければ飛ぶはずだった方向に向かって放射状に爆発が起こる。

 爆風が瞬時に土埃すら吹き飛ばし現れたのは、無惨にも抉られ焼け焦げた二つの丘、火球が飛び抉った地点は所々ガラス化すらしている。

 突如現れた地獄の具現とも言える光景に、敵陣は恐慌すら許されぬとばかりに沈黙している。


「平伏せよ。ワシの慈悲を受け入れぬ貴様らにあるのはそれだけじゃ」


 チリチリと空気が焼け、グツグツと地面が沸き立つ音だけが聞こえる丘陵に、ワシの見下すような静かに憤怒する声が響く。

 ゆっくりと手を下ろすワシの動きに合わせ、前面の歩兵がふらふらとその場に膝をつく。

 だがしかし、愚か者の下には愚か者が集まるのだろう、敵陣に調子はずれの金切り声が響く。


「あっ、あんなもの、何度もぉ何度も撃てるはずがないっ! すすめぇ死にたく無ければ進めぇ!!」


 金切り声が聞こえた辺りから、何度か悲鳴があがったのち膝をついていた歩兵たちが悲壮感に満ちた表情で、頽れた時よりもゆっくりと立ち上がり今にも泣き出しそうな顔でワシへと歩きだす。


「憐れじゃな」


 ざしざしと両の足に鉛を流し込んだような重たげな足音の隙間から、ガラガラと車輪が転がる音が聞こえ眉をひそめる。

 敵陣の中で車輪があるものと言えば魔導槍しかない、それを今動かすという事は歩兵が射線に居ようがお構いなしに撃つという事だろう。

 さっとワシが左手を振り上げれば、先ほどの火球を拳大ほどにしたモノが九つワシの頭上へと浮かぶ。

 それを見た者たちはとうとう足を止め、この世の終わりだとばかりにくしゃくしゃに顔を歪め、両手を地面へと投げ出しすすり泣く者さえいる。

 掲げた左手を突撃を指示するように振り下ろせば、解き放たれるのを待っていた猟犬の様に火球が放たれる。

 狙うは魔導槍、何時でも雷を撃てるようにかマナが込められていたので、その姿が見えずとも狙いが過つことは無い。

 それぞれの魔導槍へと放たれた火球は先ほどと違い、着弾すると内側に向かっていた渦が反転するように外側へと膨らみ周囲を巻き込むドーム状の火球へと変化する。

 火球に巻き込まれた魔導槍を操る者、騎兵、後ろにいた歩兵たちは悲鳴をあげることなく、火球が消えるころには元々そこには誰も居なかったか何も無かったかのように地獄と化した地面だけが残される。


「何度も撃てぬじゃと? 愚かにも程がある」


「そっそんなわけあるかぁあああ、なんなものぎゃいくつもうててたまるかああ」


 先ほどの攻撃に運が良いのか悪いのか、巻き込まれていなかったのであろう先ほどと同じ金切り声が響くが、その声は恐怖の為か呂律がまわっていない。


「愚かもここまで来るといっそ愉快よのぉ、じゃがその愚かさのツケをその身で払う覚悟はあるかえ」


 右手で天を指差せば、現れるは敵陣を一飲みに出来そうなほどに巨大な火球、指し示す手を下ろし煌々と輝き地面を焼く熱を放つ星の下を悠々とワシが歩きだせば、まだ距離があるというのに歩兵たちはワシが歩くであろう道を開けその場にひれ伏してゆく。

 敵陣の前面を埋める歩兵たちは、遠目からもみすぼらしいと分かる礼儀も何も知らぬ者たちであろうに、ひれ伏すその姿は王を迎えるに相応しい。


「これが最後の慈悲じゃ、跪け、頭を垂れよ、ワシの前に愚物を差し出すがよい。これ以上逆らうのならば星が墜ちるは己の上だけでは無いと知れ」


 騎兵たちが下馬し歩兵たちと同じくひれ伏し、何故か馬たちまでもが膝を折り頭を下げるのに内心苦笑しているとワシの前に輿を担いだ者たちが現れ、その上に乗っているモノをまるで汚いものでも捨てるかのように、輿を斜めにしてワシの目の前へと落すのだった……

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