804手間
ワシらが使者を送り出してしばし、ようやくと言ってもよいだろう奴ら側の使者がやって来た。
念のため、捕虜たちに使者が本物か確認させたところ、確かにアレは自分たちの指導者の副官であると複数の者が証言してくれた。
ただ、その時の嫌いなモノを見るような、そんな目が気になったが、あの豚の上司ださもあらん。
「この度は王太子殿下に御目にかかりまして、恐悦至極に存じます」
ニタリとした笑みを顔に張り付けた、やせぎすの力仕事なぞ一度もしたことが無さそうな男、それがワシが見た使者の印象。
その男はいま、クリスに向かい丁寧過ぎて逆にこちらをバカにしてるのではと思うほど、慇懃でへりくだった態度で接している。
そしてその男の後ろには、奴の護衛だろうか四人の屈強そうな男どもが一人一個、人の頭がすっぽりと入りそうな壺を抱えている。
「それで今日きたのは貴様らだけか? 我らの使者はどうしたのだ」
「あの方々は私どもで歓待させていただき、長旅でお疲れでしょうから私どもだけでこちらへ赴き、ゆっくりとお休みいただいているので御安心を」
「そうか」
「我らの携えお返事で御座いますは、ここは我らの誠意と申しましょうか、文面や言葉でなく我らの伝統的な方法でお伝えしたいと思う次第で御座います」
ニタリとした笑みを深め、奴が手を叩くと壺を持った男たちがそれを差し出してくる。
「それの中身が返事に関わってくると?」
「左様でございます、我らのように伝統が無くとも、中身を見れば直ぐにご理解いただけるかと」
「ほう……」
明らかにこちらを小馬鹿にしたような態度に、クリスは声を冷ややかなものにする。
しかし、中身が返事に関わってくるというなら見ないわけにはいかない、クリスは顎で騎士たちに壺を受けとるよう指示する。
「中身を改めます」
騎士の一人が受け取った、王族に贈るにはみすぼらし過ぎる赤茶けた土の色だけの壺を開け絶句し、ギリギリと奥歯を噛み砕かんばかりに鳴らし使者を睨み付ける。
それを不審に思った他の三人が同じような壺を開け、驚きの声をあげる。
「なんじゃ何が入っておったのじゃ、説明せい」
どう考えてもまともなモノが入っている訳がない反応、だというのに騎士たちはその中身に気をとられてるのか、一向に中身を教えてくれない。
焦れたワシは騎士の一人に近づき、壷の中身が見えるよう縁に指をかけて壺を傾け、見えた中身に騎士たちと同じく絶句するのだった……




