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女神の願いを"片手ま"で  作者: 小原さわやか
第三章 女神の願いの片手間に
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80手間

 屋敷の防壁が崩れた場所から一行が街に出ると、最初に街の中で感じていた不快感は無くなりいつもの空気へと戻っているのが分かる。

 街中ではいまだに大量の魔物が存在していたのだが、なぜか一様に苦しんむようにふらふらとしており此方へ一切の興味を示していない様だった、中には体が崩れているものもいた。


「う~む、なんじゃこれは…。しかし、襲ってこんのならば好都合。さっさと抜けてしまうのじゃ」


 今は襲ってこないが下手に刺激して反応されても困るので一切手を出さず慎重に、しかし倒しながら進むよりは圧倒的に早く西の門へと向かう。

 その後も特に襲撃されることもなく馬車の下まで戻ると、各々馬車へ乗り込みさて帰るかとなった段でマッケンがワシらの馬車へと乗り込んできた。


「ちょっと邪魔するぜ、帰りはすまないが俺もこっちの馬車に乗っていく。ちょっと話したいことがあったんでな。既にこっちに乗って帰るとは言って来てるから問題はないぜ」


「乗るのはかまわんのじゃが、話をつけて来ておるのならばまぁ…よいか。アレックスや出しておくれ」


 既に出発していた他の二台から少し遅れて、廃墟の街を後にする。


「それで態々こちらに来てまでの話とはなんじゃ?」


「いや何、街で見たことの情報整理って奴をだな。一番重要なのは魔物の発生原因ってやつだが、あの噴水が原因又はその一つといった所なのは…」


「そのぐらいはの、目の前で生まれ出てきておったし確実じゃろう。ワシとしてはあれが原因で間違いないはずじゃ、多少濃い穢れのマナが溜まっておる程度では今回ほど異常に発生することは無いと思うのじゃ」


「それに確たる証拠があるわけでは無いのじゃがの、噴水を破壊した後の魔物の様子…あれは明らかに異常じゃった。街中に溜まっていた穢れたマナは、噴水が生み出しておった未熟な魔物が存在を維持するための空間を作っておったのではないか思っての」


「未熟な魔物?」


「んむ、要するにゆりかごだったのではないのかとの…。外で活動できるようになるまであの街で過ごし、そしてある程度まで育ってから外に出てくる。そう考えればあれだけの魔物が街中に留まっていた(・・・・・・)のもうなずけると思うての。氾濫であればあれほど数がおっても不思議ではないが、それでも一所に留まり続ける事はないからのぉ」


「確かに…あれほどの数が居るのに少しずつしか出てこなかったのは…そう考えれば辻褄は合うな。しかし、そういう事も考えつくとは…長命種は流石と言うところか?」


 なんてことは無い。マンガや映画でよくある異星人が地球に侵略してくるストーリーで、自分たちの惑星の環境を再現する機械とかを主人公に破壊された途端苦しみだす、みたいなシチュエーションに似てるなーと思っただけだが。


「なに、ふと思いついただけじゃ。確実に正しいとは限らぬ。ところでじゃの、ワシはお主に長命種と言った覚えは無いのじゃが?」


「いやな、宿であいつらが騒いでるのを聞いただけさ」


 そういって御者台に座っているアレックスらを顎で示す。ちなみにカルンは女性四人に囲まれて何やらいろいろ聞かれているようだった。


「それはそれとして、街の状態だがどう思う?」


「街のぉ…。建物自体はさほど被害は受けておらんかったが、問題は住民が戻ってくるかどうかじゃのぉ」


「なるほどな…ま、恐らく詳しい調査が行われた後に放棄されるだろうな。で、あの街の貴族なんだが何人かは生き残って避難している。特に問題が無ければ恐らく他の街の下っ端貴族になると思うんだが…」


「あやつらは問題しか無さそうな気がするがのぉ、住民を門の外に締め出した挙句街を棄て逃げるような輩じゃ。後ろから刺されても当然と思えるほどじゃよ」


「まて、門の外に締め出したってどういうことだ?」


「東の方にスラム街があるのは知っておるかの?」


「あぁ、おれも何度かあの街に行ったことがあるから知っているが…まさか?」


「そのまさかじゃ、言うたであろう?東の門は閉まっておったと、それだけであれば普通じゃ、襲ってきた方の門を閉めるのは当然じゃからの。門の下にドス黒い跡さえ無ければの…」


 魔物は倒されたら塵となり、魔獣も肉やどす黒い血は残りはするが暫くしたらぐじゅぐじゅに溶けて消えてしまい跡さえ残らない。それが残っているという事は…。


「全く度し難いな…。それも報告に追加だな…報告はあんたに任せようと思ってたが、流石にそんなことを見た目だけとは言え少女にさせることじゃないな」


「気遣い感謝す…ん?見た目だけ?おぬしは何を言うておるんじゃ?」


「女性の歳について聞き耳を立てたのは悪いと思ってるんだがな、さっき言ったようにあいつらが三百は見た目がどうのこうのって言ってたからな。実際はそれ以上なんだろ?いやーすごいな!偶に見る獣人もせいぜい俺達と同じくらいか、逆に短い奴しか見かけないからな。一部のヒューマンの間じゃ、長命種の獣人を見た奴は寿命が延びるって言われてるくらいだ」


 最初はすまなそうにしていたが、段々と興奮してきたのか熱く語り始めたマッケンの頭に向かって拳骨を落とす。


「ワシはまだ十五じゃ!見た目通りじゃ!ただ三百はこのままの姿というだけじゃ!」


「うっ、そりゃ悪いことを言ったな…だが殴るこたぁ無いんじゃないか?…あ!意外とその見た目なのを気にしているのか?ごっ!」


 マッケンがなぜか寝てしまったのでカルンに癒して貰おうと近づけば、シアンら四人組に捕まりずっとこのぷにぷにお肌とか羨ましいだの、カルンとの馴れ初めは何だの、いい人がいないだのと街に着くまで延々と拘束され続けたのだった。

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