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女神の願いを"片手ま"で  作者: 小原さわやか
女神の願いで…?
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798手間

 もしもヘドロが喋ったらこんな声では無いか、そんな不快さを含んだヒステリックな声にワシは大きくため息を一つ振り返る。

 そこに居たのはワシよりやや高い程度の背とでっぷりとした腹回りを鎧に包み、油にまみれた餅を潰した様なやけに生白いてらてらした顔の、脂肪と油でよく分からないが恐らく壮年をやや過ぎた男。

 それだけで何ともいえぬ小物臭を漂わせているが、身に纏っている鎧、胸の部分だけではあるが鉄の小札の代わりに金の小札を縫い付けた、文字通り金のかけ方を間違った鎧が百人中百人が一目でこの男の人物評を大方同じに決めるであろう。


「何をしている! さっさと敵を蹴散らさぬか!」


「将軍……我々は、降伏しました」


 ぷひぷひと鼻を鳴らしながら苛立たしげに足を踏み鳴らし見苦しくがなる男を、(くず)れた兵が僅かに侮蔑がこもった声で窘める。

 今のやり取りだけで将軍と呼ばれた男が見た目通りの無能 ―少なくとも前線指揮官としては― であり、兵からの支持も絶無、砦の寝室などで不幸にも敵の流れ矢に当たったり、勇敢に戦って死ぬタイプの男だろう。


「えぇい、何のために魔導槍を用意したと思っている!! 四機も駄目にしおって! このままでは私の計画が」


「ほう、その計画とやら聞かせてくれんかのぉ」


「貴様ら如きが知る必要は、なっ!」


 地団駄というよりも貧乏ゆすりの様に片膝を揺らしていた男がもごもごと、脂肪に囲まれた口の中で「完璧な計画が」どうのこうのと笑止な事を呟くものだから思わず声をかければ、まるでワシの存在に今気づいたとばかりに顔の肉で細くなった目をこれでもかとばかりに見開くので、逆にワシが驚いしてしまう。


「き、貴様いつからそこに」


「いつからも何も、さっきからずっとおるのじゃが……」


 表情と声音から本当に驚いていると知り、呆れを通り越して同じく驚いているワシに代わり、周囲の兵たちが心底呆れ果てた溜息をこぼす。

 草臥れ果て思わず肩を叩いて労ってしまいたくなるほど消沈している者、親の仇を睨む目もかくやという射殺さんばかりの視線で将軍を忌々しげに見る者などいるが、一番多いのは恐ろしいモノを見る目で将軍を唖然としている者だろうか。

 それは将軍を畏怖している目では無く、折角拾った命を勝手に奪われゴミのように捨てられないかと恐怖している目だ。

 一方、そんな目を向けられている男は、流石、と言えば流石という言葉に悪いがワシに気付かなかっただけあって全く意に介することも無く、見開いていた目を今度は逆に品定めするように細め、見る者に怖気を走らせるようなねっちょりとした笑みを口元に浮かべている。


「ほほう、これはこれは……」


 男がねっちょりとした笑みを、にちゃぁっと深めれば、ブワッと尻尾の毛が逆立つのを感じる。

 ぴゃああっと内心悲鳴をあげ、悲鳴が口から漏れぬ様にへの字に唇を結び腐敗した死体の様な視線に耐える。

 今すぐ奴をこの世から消滅させたいが、狐火ですらあいつに触れたくないという生理的嫌悪と、計画とやらを聞き出さねばならない事から手が出せない。

 であるならば控えさせている騎士たちに丸投げするのが上策なのだろうが、こいつに一瞬でも背を向けるのは奴を調子に乗せてしまいそうで我慢ならない。

 どうしようかとぐるぐる考えていると、閃きとは正にこれだと言う考えに至りワシは、驚くことにワシを見てると言うに周囲の兵たちの死体が目に入らないのか、じっとワシを見る男にビシリと指を突きつけるのだった……。

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