778手間
へろへろになるまで遊んだワシとアイオは使用人の案内で、宮殿の一角に建てられたという犬小屋、もとい狼小屋へと案内される。ちなみにへろへろになっているのはアイオだけで、ワシは遊ぶ前と全く変わらずピンピンしている。
「こちらがアイオ様のお家となります」
「ほ、ほぉ。これは立派なもんじゃな」
連れていかれた先にあったのは犬小屋というにはちょっと大きい、いや、ちょっとどころでは無く普通に十人くらいが住んでいても余りありそうなほどの大きさの、ちょっとした屋敷がそこに建っていた。
明り取りと換気の為に高いところに小さな窓が幾つも着いた平屋の屋敷、入り口の脇には壁と一体化した水を貯め置く水槽と洗い場があり、その二つがこの屋敷が普通では無い事を知らしめている。
「それでは私どもがアイオ様をお洗いしますので」
「あぁ、うむ」
想像と全く違う犬小屋改め狼屋敷に呆気にとられているワシに使用人が声をかけ、アイオを洗い場へと連れて行く。
連れて行くといってもリードや何かで引っ張っていく訳では無く、アイオが素直に使用人の後に付いていっているだけだ、これもワシが居ない間に行われた躾けの成果なのかそれともアイオの頭が良いのか。
使用人は水槽から両手で作った円ほどの大きさの桶に縁から垂直柄がついた手桶で水を汲み、泥だらけとは言わないが土まみれのアイオを手慣れた様子で洗ってゆく。
当然アイオは全身びしょぬれになるのでそのままでは屋敷には入れない、別の使用人がタオルを持ってくるがそれではすぐには乾かすのは不可能だ。
「ワシが乾かすからちょいと下がっておれ」
使用人の一人がタオルで拭こうとしていた手を止め一礼をして下がると、ワシはアイオを法術でもって一瞬にしてふわふわのふかふかになるまで乾かす。
アイオが気持ちよさそうに鼻を鳴らし、ワシはアイオの頭から背中にかけてを撫で、自ら仕上げた毛並みの手触りに頬を緩める。
「うむ、完璧じゃな」
「ありがとうございますお嬢様、それではアイオ様こちらに」
ワシに向かって深々と一礼して、今度こそ使用人が扉を開けアイオを伴い屋敷の中へと入ってゆく。
遅れてワシも中に入るとそこは仕切りも何も無い広々とした一室だけの屋敷、よくよく見たら右手奥の壁際に扉があるのでもう一室あるのだろうが、それでもこの屋敷の大半はこの広々とした空間だけだろう。
殆ど家具も何も無い一室の一角にある、数少ない家具である大型犬が入っても余裕がありそうな底の浅い籠に、へろへろとした足取りのアイオが向かい中にはクッションでも敷き詰めてあるのだろう、飛び込んだアイオをぼふんと受け止め、アイオは体を丸めるとそのままスヤスヤと眠り始めてしまった。
「アイオ様のお傍には私ども専任の者が常に控えておりますので、お嬢様はどうぞご安心してください」
「うむ、ご苦労さまじゃ」
アイオが眠ってしまってはこれ以上遊ぶことも構うことも出来ない、スヤスヤと眠りアイオを一撫でし、そろそろクリスは話が終わっただろうかとアイオの屋敷を後にするのだった……。




