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女神の願いを"片手ま"で  作者: 小原さわやか
第三章 女神の願いの片手間に
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77手間

 無事な家は一つとして存在しないスラム街の廃墟を進む。崩れた家々の建材は見たところ、植物の茎を混ぜ込んだ土と廃材で出来た支柱。そんな家なぞ魔物にとっては障害にもならなかっただろう。

 住人にとっては不幸だったがワシらにとってはそれが幸いし、建物の陰から奇襲を受ける心配もなく防壁まで目指すことができる。


「ふむ、門は閉まったままじゃが、右に大きく外れたところに大穴が開いておる。元から脆かったのかそれほどの力を持った個体がおったのか。どちらにせよ、アレが魔物どもの侵入を許した原因なのは明らかじゃな。」


 進路を門から指さした先にある大穴へと変更する。瓦礫の陰からちらりと見えた門の裾にはおびただしい量のどす黒いシミがあり、そこで何があったのかを物言わずとも雄弁に語っていた。


「そういえば、セルカさんはここに来たことがあるんですよね?」


「そうじゃな…、二巡りほど前じゃがの」


「ここの人たちって、なんでこんな生活をしていたんですか?」


「あまり面白いもんではないんじゃがのぉ。」


 瓦礫の山を避けつつ瓦礫の中を進むので穴まで時間がかかる。魔物も襲撃も今のところ殆ど無いのでいい暇つぶしにはなるだろう。


「と言ってもワシも聞いた事しか知らぬが、ここはそうじゃの…よそ者のたまり場だったんじゃよ。他の街に居れんようなった者、流れ者、脛に傷持つ者。そんなのが集まってできた地区だったそうじゃ。この辺りは元々争ってた領同士が渋々まとまったような土地じゃからの。よそ者に厳しい領ばかりでの、他の街との交易も多い内側に比べ、交流の少ない外側は特にその傾向が強かったんじゃ。」


「あ、それ私聞いたことある。景色が気に入ったからって定住しようとしたハンターが許可もらえなかったあげく追い出されたって話。」


「ふ~ん、西も似たような事情の土地だが、よそ者にもそこまで厳しくは無かったけどなぁ。」


 ワシの話にお姉さん四人組の内の一人とアレックスが反応する。

 東西の多領は似たような経緯で成ったものだが、その土地に住む者の気質の差なのだろうか。


「それはともかく、領主どもはここの者たちを街に住まわせようとしなかったし職も与えなかった。やらせたとしても他の者がやりたがらない仕事のみでな。じゃから、ここからはちと見えんが北の方に畑やらがあっての、そこで食べるものを育てて食い繋いでおった様じゃ。しかし、街の住民として認めておらん癖に税だけはしっかり取り立てておっての、建前としては我らの土地に住まわせてさらに畑の土地を提供してやっているのだから税をよこせと言った感じじゃ。理由自体は真っ当と言うかある意味当然の事ではあるのじゃが、やり方が酷うてのぉ…一巡りの内で出来たものの幾らかを税として持っていくのじゃが、収穫された内の大半を持って行ってしまうみたいでの、次の収穫まで食い繋ぐのがやっとの生活じゃったそうじゃ。酷いときには残った分からも取っていく有様、不作の時でもお構いなしでの。」


 この辺りは非常に気候が安定しているが、それでも不作の年というのはどうしても出てしまう。正直この話を聞いた時は、どこのテンプレ悪代官だと思ったものだ。


「そいつはひでぇな…。ところでその税が納めれなかった時はどうするんだ?俺達だと払う時にちと余計に払うことになるが多少は待ってくれるが。」


「んむ、その時は女子供関係なく適当に…これじゃ…。」


 そういって親指を立て首の前で水平に動かすと、話を聞いていた皆の顔が歪む。


「普通はそこまでやらぬがの…けれど税が払えぬ程の不作の時もそれのせいで結果的に口減らしとなり、生き抜くことが出来たというのじゃから皮肉なものよのぉ…。」


 しかし、この世界には市井の事を気に掛ける将軍も、各地を旅するご隠居も居ない。耐えに耐えた結果がこれとは何とも遣る瀬無い、今や瓦礫の山となった街を見渡し目を細める。


「さてと、無駄話はここまでのようじゃな。」


 話している内に大穴の前へとたどり着く。穴から我先にと魔物が飛び出してくるかと思ったが待ち伏せているどころか気配すらない。


「気配もねーな。俺が様子を見てくる、ちょっと待っててくれ。」


 ジョーンズがそう言い残し、近くで見るとトラックでも通れそうなほどの大きさだとわかる穴へと入っていく。

 防壁に空いた穴なのでトンネルと言うほどの奥行きは無いが、それでも人の背丈は越す程の厚みがあり、穴のすぐ前に建物があるために外からは中の様子を詳しく窺う事は出来ない。

 壁の反対側、こちらの死角になるところにジョーンズが姿を消してしばらく後、壁の内側からジョーンズの安全を伝える声が聞こえてきた。念の為二名ずつ中へと向かう。


「ふむ…中はそれほど建物などは崩れておらんようじゃの。」


「そうですね…その代わりと言っては何ですが、空気が重苦しいと言うか気持ち悪いというか…。」


 カルンと共に穴をくぐり、穴の前にある建物の陰から街の様子を覗くと、中には崩れている建物もあるがその殆どがまともな形を残して建っていた。

 しかし街中を魔物が闊歩し、薄暗く感じると錯覚する程の不快な空気、到底まともな状態で無い事を伝えてくる。


「これは…穢れたマナが溜まってるって感じだな。」


「ふむ、これがのぉ…防壁のお蔭か外に漏れ出ておらんかったという事かの。」


「それじゃ、この大きい通りをこのまま真っすぐよね?」


「そうじゃの。」


 お姉さん二人組を最後に全員が中に入ったのを確認すると大通りを中央に、領主の館目指して進む。

 西から入っている筈のパーティとそこで落ち合い、もし道中これ以上進めないと思ったら法術の光弾を打ち上げ即座に撤退する手筈になっている。


「さてと鬼が出るか蛇が出るかどちらかのぉ。」


「おに?」


「んー、何といえば良いかの物語の中の化け物かのぉ。」


「ふーん。」


 聞きなれない単語に反応した程度のリアクションのアレックスを尻目に、それほど大きくない街の為ここからでも無駄に豪奢な館が見える。

 それと同時に道中にいる魔物はこちらを捕捉したのか続々と駆け付けてくる。一部は反対方向に走っていくので、西側も無事入れたのだろう。


「さて、さっさと先に進ませてもらおうかの!」


 飛びかかってきた魔物を打ち払い、その言葉を合図に館へ向けて駆け出すのだった。

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