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女神の願いを"片手ま"で  作者: 小原さわやか
第三章 女神の願いの片手間に
78/3467

75手間

56手間が二話ありそれ以降、数字がズレていたのを訂正しました。

 カルン達四人と一緒に朝食を摂っているがアレックス、ジョーンズ、インディの顔色が優れない。

 ここで顔を合わせる時は毎回のように三人とも憔悴しているような気がする。


「なんじゃおぬしら、体調でも悪いのかの?先ほどから食が進んでおらぬではないか」


「あぁ…朝からというかさっきから物凄い胸焼けがな…」


「三人ともかの?ワシはカルンと二人で食べとったから見ておらんが、どうせメニューは同じじゃったはずであろう?歳かの?」


「ちげーよ!原因おめーだよ!っていうかおめーらだよ!なんでピッタリ寄り添って食ってんだよ!」


 アレックスが辛抱堪らずガタガタッと椅子を鳴らして立ち上がり、ワシらを指さして叫ぶ。

 指摘された通りワシとカルンは、一つの椅子でも使ってるのかというくらい寄り添って座っている。


「何でと言われてものぉ…夫婦じゃからとしか言えぬの」


「くそっくそっ、このバカップルどもめ!周りを見てみろ!何人の独り身を殺せば気が済むんだ!」


 アレックスが右手を勢いよく振り周りを示すので見回すと、何人ものハンターがテーブルに倒れ伏している。


「なんじゃ、それなりのハンターであればモテるのじゃろう?他ならぬおぬし自身が言うとったではないか」


「とどめを刺すんじゃない!」


「さっさとくっ付けばいいとは思っていたが…まさかセルカがここまでデレッデレになるとは思わなかった…カルンは一体何をしたんだ?」


 胸を押さえて座ったアレックスに代わりジョーンズが嘆く。


「何って…のぉ」


 そういってカルンの腕を取りしなだれかかる。


「くそ!このままじゃ魔物より被害が出かねん。さっさとギルドへ行くぞ」


「被害云々はどうでもいいですが、確かに早々に向かって問題を解決しませんとね」


 カルンが腰を上げるのを感じ、渋々腕を離して一緒に立ち上がる。


「そうじゃな、人の恋路を邪魔する輩に正義の鉄槌を下さねばの」


「はぁ…いっそ魔物が哀れだぜ…」


 アレックスが頭を押さえて嘆息してるのを尻目にギルドへと、もちろんカルンと手を繋いで向かう。


「そう言えば、カルンの両親がカカルニアに居るという事は、そこに家もあったわけじゃろ?」


「えぇ、そうですね。両親と二人の兄が一緒に住んでます」


「じゃったらなんで宿に泊まっておったのじゃ?家におれば良かったのではないのかの」


「あー、それはですね。三男なので家の仕事を継ぐこともまず無いですし、下手に魔法の才能があったものだから、ハンターになるって言って飛び出しちゃって帰るに帰れなかったんですよね」


「初めに会うた時はあれほどおどおどしておったのに、随分と剛毅な事をしておったのじゃのぉ」


「もうあの時の事は忘れてくださいよぉ、確かに自分で思い出しても情けなかったし…今でも頼りになるかはわかりませんが」


「ふふふ、安心せい。カルンがたくましい男じゃと骨身に染みておるからの、一切疑っておらぬわ」


 恥ずかしそうに頬をかくカルンもいいのぉとその横顔を眺める中、後ろから舌打ちなどが聞こえるが気にしない。

 そうこうしている内にギルドへ着くと、外でギルド職員であろう男に豚の獣人が食って掛かっていた。


「なんじゃ、あの獣人は見たこと無い奴じゃのぉ…」


「獣人?確かにひどい面だがあれヒューマンじゃないのか?」


 もし聞こえていたら確実に矛先がこちらに向かってくるであろう会話の内容だが、幸いなことに食って掛かるのに夢中で聞こえていないらしい。

 その豚の獣人もといヒューマンはでっぷりと醜く肥え太り首と髪は無く、その肌は暫く掃除をさぼっていた換気扇のようにべたべたてらてらと光っている。

 そしてその脂を包むのは、絢爛豪華な装飾をこれでもかと盛り込んだ、一言でいえば実に趣味の悪いもの。さらに指にはああいう飴のお菓子もあったなぁというくらい安っぽくでかい宝石がついた指輪を何個もはめている。

 その姿は数ある悪役貴族の中でもギャグマンガに出てきそうなテンプレ悪役豚貴族だ。


「もしかして、シェーラの言っておった悪徳貴族の一人ではないのかのぉ」


「貴族の名が聞いてあきれますね」


 珍しくカルンが怒りを不快感を露わにした顔をするが、そんな姿もまた…イイっ。

 見惚れていたら豚がこちらを見つけたのか、ドスドスと駆けよって…駆け…おそっ!


「貴様らハンターだな?ハンターなら、私のものをとりもどせ。さっさとな!」


 大声を出さなくても多少声を張れば届きそうな距離なのに、わざわざ汗を流して駆け寄ってきた豚が開口一番そう言った。


「具体的には…なんじゃ…?」


「バカか?私のものは私のものだ」


「いや、知らぬのぉ。お主もお主のものも」


「これだからハンターは、私を知らぬとは無知にも程がある。私の名前はアカブ!ここから東にあるアカブニアの領主だ!」


「…知らんのぉ?そんな名前も町の名も」


 全く記憶に無い名前に首を傾げる。おそらく東の街の貴族なのだろうが、あの街に名前は無い。便宜的に領主の名前で呼ばれる事はあり、例えばワシが領主であればセルカの街、といった風になる。

 東の街はワシが居た時は確かルイシアとかいう名前の貴族が治めておったはず、しかも領主は世襲で名を継いでいくので名前が変わることはまず無い。


「たぶん勝手に名乗っているのかと…」


 こっそりとカルンが耳打ちしてくる。

 あぁ…人のものに勝手に自分の名前つけて悦に入っちゃってるのね…。


「東の街であれば、確かルイシアとかいう爺が領主ではなかったかの?」


「ふん!あんなじじいより私と私の名の方が領主に相応しい。あのじじいより私の方が民から金を絞ることができるからな!」


 ルイシアという領主も相当だったがこやつはそれに輪をかけてひどい、堂々と民衆から搾取し叛意ありと喧伝してる正真正銘のバカだ…。


「まぁよい。私のものを取り戻せ、報酬は私の為に働けるという名誉だ、これ以上の報酬などなかろう?ん?貴様、生意気だがよく見たら…よし、貴様は今より私のものだ。夜にここの領主の館に来い」


 言うだけ言って豚は近くにあった馬車に乗って去っていった。


「のう…魔獣が街の中におるようじゃが…退治しても良いよな?」


「待って!落ち着いて!セルカさんはセルカは僕のだから!」


 魔手を出して馬車を追おうとするがカルンに後ろから羽交い絞めにされて止められる。


「ぐぬぬぬ、豚め!カルンに土下座して感謝するがよいぞ」


「結果的にあいつの言う通りになるのは癪だが、氾濫は東の街から来てるんだし、なんにせよ東の街の様子を見無い事には問題は解決しないんじゃないか?」


「はぁぁぁぁ………ふぅ、そうじゃの…アレックスの言う通りじゃ。さっさといってさっさとぶっ潰すのじゃ!」


 深呼吸をしてアレックスの話に同意する、ついでに魔物どもにこの鬱憤を晴らしてくれる。


「けど、下手したらあれが一緒に着いてくるって言いかねませんか?」


「カルンや、その時は魔物のエサにでもしてやればよい、魔物でも食わぬかもしれぬがな。金に目が眩んで勝手に魔物の群れに突っ込んだとでも報告すればよいのじゃ。害獣駆除にもなるしワシの鬱憤も晴れるし一石二鳥じゃ!」


「胸張って堂々という事じゃねーよ?だがその考え乗った!」


 くくくとジョーンズと共に黒い笑いをしていたらギルド職員が近づいてきた。


「私個人としてはそれに同意ですがね。話は聞かせていただきました、ギルドから馬車を貸し出しますので東の…ルイシアの街の様子を見てきてくださいませんか?勿論、他にも何組かハンターを同様に送りますが。報酬は持ち帰った情報次第、万が一解決できるようであれば追加で報酬を出します。こちらの街はこの状態なので、報酬は別の街のギルドでの受け取りになりますが」


「ふむ?その話受けるのじゃ。豚の与太話より現実味があるしの。それで出発はいつになるのじゃ?」


「そうですね…馬車を用意する時間が必要ですので、明日の現時刻より早い時間に東の門にお願いします」


「ルートはワシらが勝手に決めてもよいかの?」


「お任せします、衛兵や斥候のハンターによれば、魔物達はここと向こうの街の間にある森を突っ切って一直線に向かってきているようですのでそこさえ気を付けていただければどこでも」


「南回り一択ではないか…」


「ははは、それでは明日よろしくお願いします」


 そういってギルド職員は去っていった。今すぐにでも出発したい気分だがワシらの馬車は隣街にあるし、用意はしてくれるというのだそれぐらい待とう。

 もちろんあの豚のいう事など実行するはずもなく、夜はカルンと一緒だった。










バカ貴族もバカップルも書いてて楽しい。

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― 新着の感想 ―
[一言] 体が小さいエルフ女の子に転生したってだけで、元男性であったことへの比較が出てこないのであれば、TSカテ設定にせず思春期の恋愛ストーリーでいいと思う。過去の記憶が反映されなければ、普通の"誕生…
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