744手間
ワシにそんな都合の良い知り合いは居ないという意味でふるふると首を横に振る、クリスもその意味を分かったのだろう、少し困った顔をしてから眉根を寄せクリスも小さく首を横に振る。
「なんぞあったかと勘繰られるじゃろうが、フレデリックならば引く手あまたじゃろう」
「けれどもそんな人たちは確実にフレデリックを自分の家に入れるだろうから、簡単に見つかるだろうけどフレデリックが家を興すことは無理だろうね、家督は譲らないだろうし譲ったとしてもフレデリックと相手の子供にだろうからね」
「そうじゃろうのぉ……」
一瞬入り婿という言葉が浮かんだが、貴族社会であるこの世界ではそんな制度は存在しない。たとえ娘一人の家に婿入りしたとしてもクリスが言ったように本人は家を継がず、相手との間に出来た子供が継ぐことになるので意味がない。
もし入り婿など出来れば他の家が乗っ取り放題だからそんな制度が出来なかったのだろう、もしフレデリックに家を継がせるならば結婚では無く養子に取るだけになり、やはり意味がない。
「そういえばフレデリックの実家からは、何かこう無いのかえ?」
「縁談を、ですか?」
「そうソレじゃ、何ぞ言ってこんのかえ?」
「以前は何度もありましたが、最近は一番上の兄の子が出来たので少なくなり、今は殆どありませんね。といってもその縁談も先ほどクリストファー様が仰られたようなモノばかりですが」
「ふぅむ……お互い家にしがらみがない者同士が良いが、そうなると同じ境遇の騎士に、こう、良い相手は居らんかえ?」
「お言葉ですがセルカ様、我が国に女性の騎士は一人も居りません。鎧に加え防寒具も着こまなければなりませんので、力の弱い女性では騎士は務まらないのです。それに加え我が国の女性はあまり戦に向いた性質の者が産まれませんので、とは言え一般的に女性の方が魔法には長けておりますので研究などに進むか、家に入るかのどちらかでございます」
「ぬぅ、それは何とも。ん? いや、前に強い女性が尊ばれると聞いた気がするんじゃが?」
「だからこそです」
フレデリックの言うことを簡素にまとめれば、強い男性と普通の女性の夫婦より、強い男性と強い女性の夫婦の間の方が強い子が産まれやすそうと、そして強い女性が少ないからこそ尊ばれる……ということらしい。
なるほど、確かに強い女性が多いのならば強い女性が喜ばれるとしてもやはり基準が器量となり、あえて強い女性が尊ばれるとは言わないか……。
「となると侍女あたりかのぉ。クリスや、先ほどの書類を陛下に届ける際に身持ちの良いモノがおらんか聞いて来てはくれんかえ? それとアニスもそれとなく周りに身持ちがよく結婚願望がある者を聞いて来ておいて欲しいのじゃ」
「わかったよ」
「かしこまりました」
宮殿で仕えているような侍女はその全てが行儀見習いではなく生涯を侍女などとして仕えることを決めた者ばかり、しかしちらりと聞いた話では聖樹の邸宅に努めていた侍女でお役御免となった者も居るはず、そういう者たちならばとフレデリックの相手候補の選出を二人にそれとなく丸投げするのだった……。




