741手間
クリスとの話し合いから数日、宮殿にある一室でクリスと二人、同じソファーに座り同じく目の前のソファーに座って緊張からか縮こまり顔を伏せているフレデリックをじっと見つめる。
「何故ここに呼ばれたか、わかるかの?」
「申し訳ございません、私には皆目……」
「他でもない、おぬしの今後についてじゃ」
ワシがそう言った瞬間、ガバッと顔を上げ目を見開いて驚いていたがそれも一瞬、何か自分の中で納得いったか結論が出たか、すぐに驚きは鳴りを潜め普段よりも少し眉根をひそめた表情になる。
「ですが、私がセルカ様にお付きするのは陛下直々のご下命ですので……」
「あぁ、そうではない。ま、確かにワシよりクリスにつけた方が、良いのではないかと思わんでもないが。今回ワシ、というよりもワシらが言いたいのは、公の今後では無く私の今後じゃ」
「は、はぁ……」
滅私奉公とはよく言ったもの、本当になにを言われているのか分からないという実に間抜けな表情で、フレデリックは首を傾げている。
「早い話、おぬし身を固めんか?」
「はっ? 私がですか? いえ、騎士道に殉じる心持ちですので生涯妻を持つことは、それに私は自分が器用なたちではな無いのは重々理解しておりますので。私は貴族の生まれではありますが五男ですので家は兄が継ぎますから、我が家の血が絶えるということもありません」
「それじゃそれ、まだ陛下には話しておらんがの、おぬしの今までの功績を鑑みて妻帯する気になれば家を持たすのはどうじゃろうかとな。おぬしほどの優秀な騎士の血を絶やすのはこの国の将来にとって不利益じゃろう」
「それは、私などには勿体なきお話ではるのですが……先ほども申し上げましたが私はそれほど器用な性質ではないので家のことにかまけ騎士の責務がおろそかに――」
「かっー、これじゃから男は! 家のことをやってくれる者が居るからこそ、騎士の仕事に専念できるというものじゃろう。侍女たちから聞いたが、おぬし昔から頻繁に貴族どもにうちの娘は、私をぜひなどとせっつかれて辟易しておるとな、それこそ騎士の仕事に支障が出るのではないかえ?」
「それは私だけのことですので……」
「今は、の。今度のパーティでワシが本格的に表に出るようになったのならば、ほぼワシ付きと言ってもいいおぬしに何とか自分の娘や己を嫁がせようと、ワシに向かってこぞって人が来ると思うのじゃが? 上からの命令ならば逆らえまいと思うてな……」
「うっ……」
貴族とはいえ五男だったからか、結婚というものの大部分を私に分類しているのだろうフレデリックはその場面を想像したのか、自分の私の部分のせいで仕えるべき者に苦労をかけてしまうと顔を歪める。
「無論、その程度の苦労、おぬしの働きを思えば然したる労苦でもない。しかしじゃの、おぬし自分が憧れられておる立場じゃと自覚せい。騎士としての仕事を全うするためには結婚はしないなどと、おぬしを見て若いのに決意されても困るのじゃ」
そんな酔狂な奴が居るかどうかは知らんけど。
「それを見て更に騎士になるには結婚は諦めなければならないと、結婚を諦めたり騎士になるのを諦めたりなぞ……物事を動かすならばまず上が動くのが必要じゃ。おぬしが結婚し家名を持つことが出来れば、騎士の責務を果たせばいつか自分も家名を持てると奮起する若者が増えるじゃろう」
「なるほど……確かに家名を、家を持てるのは、長男の控えや他家との渡りでしかない次男以降には福音となるかと。しかし新しい家を興すのはそう容易い事では無いので、そこに気が付けばやる気がそがれるのではないでしょうか?」
「そこはほらあれじゃ、後で陛下に言おうと思っておるが、騎士爵などの貴族であるが貴族では無い一代限りの名誉爵位を与え、怪我や歳なんぞで騎士を引退した後にも没するまで年金を与えるとかじゃな」
先ほどまで逃げたがっているように若干背を伸ばしていたフレデリックが前に出てきたのを感じ、これは行けるのではないかと横でクリスが苦笑いしているのを尻目にあれやこれやと話し合うのだった……。




