表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女神の願いを"片手ま"で  作者: 小原さわやか
第三章 女神の願いの片手間に
69/3449

66手間

 貴族への悪口合戦となったため思わず部屋へと引っ込んでしまったが、特にすることも無いのでフラフラと寝台へダイブしてうつ伏せの状態で大の字になる。

 長くて十日前後はこの街に滞在することになった為、シェーラとまた会えるなと軽く考えていたが「息災でな」なんてキザったらしく別れた手前、急に恥ずかしくなって顔を押さえてゴロゴロと寝台の上を転がる。


「あいたっ!」


「キュ!」


 宿屋の寝台がどんな体格の人でも大丈夫なように大きめに作られていたとしても、少女程度の体躯とは言えゴロゴロと転げまわっていれば当然寝台から落ちる。

 ドタンと落ちた衝撃で今まで寝てたのか大人しくしていたスズリが尻尾から放り出され、寝台から落ちた格好のままの状態のワシの顔を抗議のつもりなのか前足でぺちぺちと叩いている。

 さすがに爪を立てられていたら痛かっただろうが、足の長さゆえ痛いほどの勢いもついておらず、ただただカワイイその行為に思わず表情がだらしなく緩んでしまう。


「おぉおぉ、すまんのぉスズリ、びっくりさせてしもうたか?」


 その言葉に満足したのか叩くのを止めたスズリを体を起こして、赤ちゃんを抱きかかえるように持ち上げる。その状態のまま寝台に横向きに寝転がるとスズリは過ごしやすい場所を探すかのように胸元にすり寄ってくる。

 愛くるしい姿とすこしのくすぐったさに小さく笑うと、何?とばかりにこちらに顔を向けてくる。その姿に辛抱たまらず頭を撫でてあげると気持ちよさそうに目を細め元々眠たかったのかスズリはすぐに寝てしまった。


「おーい、飯くわねーかー?」


 ドンドンドンと扉を叩く音で目を覚ます。開きっぱなしだった落とし戸から外を見ればすっかり暗くなっており、いつの間にかスズリを抱きかかえたまま寝てしまっていたようだ。


「いまいくのじゃ」


 ゆっくりと起き上がったつもりだったが、パッっとスズリも目を覚まし頭の上へと昇ってくる。スズリが定位置に収まったのを確認すると、寝台から降り部屋から出ると待っていたのか廊下の壁にもたれ掛かったアレックスがいた。


「やっと起きたな、それじゃ飯が冷めちまう前にさっさと行こうぜ」


「まさか料理が出てきてから呼びに来たわけじゃなかろうの?」


「いや、お前を呼びに来る前に注文だけすませた。だからそろそろ出てきてるんじゃないか?」


「ワシの分もちゃんと注文しておるんじゃろうな?おぬしらほど食い意地は張っておらんつもりじゃが、流石にみなが食べておる中で一人待つのは嫌じゃぞ?」


「わかってるって、勿論注文してあるさ。しかし毎回思うがもうちょっと食ったほうがいいんじゃないか?デカくなれないぞ?」


「おぬしらが食いすぎなだけじゃ、ワシは小食な方とはいえ量はそこまで少なくはないぞ。それにあと三百ほどはこのままじゃと前にも言った気がするがの」


 そこまで言ったところで食堂へと到着する、まだ食堂の中は見えないが人の気配は十分わかる位置でスズリが尻尾に隠れるのを待ってから、すでにカルン達が待っている席へと向かう。

 まるでそれを待っていたかのようにちょうど席へと料理が運ばれてきて、アレックスらは待ってましたとばかりに食べ始める。


「さっきセルカが三百までそのままとか言ってたが、三百までゆっくりと成長するのか?それとも三百からまた成長しだすとかか?」


 いち段落ついたのか食べる手を緩め、思い出したかのようにアレックスがそう聞いてくる。


「さて、ワシも聞いた話からじゃからの。三百くらいになれば大人の姿にもなれるのじゃが、この姿にも戻ることもできるそうじゃよ」


「んっんー?確か一部の獣人は法術や魔法で人を化かすなんて聞いたことがあるがそれの類か?」


「いや、それは魔法などによる幻覚じゃから違うの、ワシの場合はきっちりと肉体が成長するのじゃ。それが負荷無く維持できる力を付けれるのが三百という話じゃったから、がんばれば今でも出来るんじゃないかのぉ…」


「おぉ!じゃあちょっとやってみせてくれよ!」


 アレックスが珍しく変身ヒーローでも見た少年の様な目で見てくる。


「いやじゃ」


「なんでだよ、体に負荷かかって無理ってのなら諦めるが、かなり疲れるくらいだったら頼むよ!幸いここは宿屋だし数日は特に何もすることないんだしぶっ倒れたら責任もって運ぶさ。カルンが!」


 アレックスが拝み倒し最後の言葉にカルンが「えっ僕が!?」なんて反応しているが、どうやらアレックスはワシの話をよく聞いてなかったとみえる。


「アレックスや、マナをかなりの量持っていかれるだけで危険な負荷は無いぞ」


「だったら…」


「じゃがの、幻覚の類ではなく肉体が成長するといったじゃろ?だから無理じゃ」


 アレックスは未だに理解できてないようじゃったが、カルンは思い至った様で顔を真っ赤にしている。その様子にまだ分かってないアレックスに説明するのが何となしに恥ずかしく思えてしまう。


「その…肉体が成長するという事はの…要はデカくなるということじゃ、今デカくなったらこの服はどうなるのじゃ?」


「あっ」と声をあげようやくどういうことになるか分かったようだ。


「そ、それではワシは先に部屋に戻っとるからの!」


 自分でももしこの場でやった場合の結末をつい想像してしまい、一気に恥ずかしくなって逃げるように部屋へと戻り鍵をかける。鍵といっても扉と壁にある二つの爪の上に棒を乗せる程度の簡易的なものだが。

 開きっぱなしだった落とし戸も閉め、最初にこちらに来た時に借りたタライの中へ法術を使って水を張り、チョーカー以外すべてを脱いで一糸纏わぬ姿となる。チョーカーはこの能力の事を考慮してか勝手にサイズが変わるので問題はない。


「やり方もわかる、戻り方もわかる。任意に戻れずとも大人の体を維持できるほどのマナが無くなれば勝手に戻るはずじゃ。おっとスズリは少し離れておいてくれんかの?」


 スズリが尻尾から出てこちらを伺うようにタライの傍へと行くのを確認すると、目を閉じ深呼吸をして息を落ち着かせると内に溜めていたマナを体中へと巡らせていく。

 当初予想していた成長痛のようなものも無く、ただ体が大きくなっていくという感覚だけが残る。大きくなっていく感覚が終わりマナが大量に消費される様子もなくなったのでそっと目を開ける。


「ほう、これは視界がたこうなって新鮮じゃのぉ」


 目線が高くなった以上に自分の出した声に自分で驚き左手で思わず自分の口に手を添え、そのまま体をなぞるかのように喉に手を当てる。誰かがその仕草を見ていたらその妖艶さに卒倒していただであろう艶やかさだ。

 思わずそんな仕草をしてしまうほど自分で驚いたその声は、元々は鈴が鳴るようなかわいらしい声だったものが幾分か低くなり、何とも言えない丸みを帯びたその声は、男であれば思わず従ってしまいたくなる様な妖しさに満ちたものとなっていた。


「いつまでこのままでおるとも分からん、さっさと姿を見ねばの」


 自分で自分の声に呆けている場合ではないとタライに張った水に自分の姿を映す。


「これは…なんとも…」


 自分の姿に見惚れるのも無理はないほどの美女がそこにいた。

 勝気に吊り上がっていた目元は少し垂れ、睫毛は化粧が不要なほどにまでその存在を主張し、唇はぷっくりとまるで紅を注したかのように光沢を放っている。

 耳は伸びさらにふさふさとなり、尻尾はさらに大きくモフモフとなっていた。髪の長さはそのままに見えるが、体が大きくなったことを考慮すれば伸びてはいるのだろう。

 胸にある二つのふくらみはすでに片手では支えきれぬ程となっているが、重力へと逆らうかのようにその形を保っている。

 腰はきゅっとくびれ、お尻はまさに完熟した桃を思わせるかのようなラインを醸し出している。


「ふむ、まさに傾国の美女と言った感じじゃのぉ。日本人がおれば十中八九、玉藻前と呼ばれそうじゃ。ふふふ、この姿でカルンをからかうのも面白…そう…じゃ…の…?」


 突如めまいがしはじめ、ふらふらと揺れる体を何とか寝台へと運んで倒れこむとそのまま意識は闇へと落ちていった。

ユニークアクセス一万越えありがとうございまう。

ここまで書いてこれたのも皆様に読んでいただいたお陰です。

ご意見ご感想あれば遠慮なく言ってくださればそれも励みとなります。

これからもこのお話をよろしくお願いします。



あ、安心してください次回にはロリに戻ってます。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 「その…肉体が成長するという事はの…要はデカくなるということじゃ、今デカくなったらこの服はどうなるのじゃ?」 「あっ」と声をあげようやくどういうことになるか分かったようだ それを分かってい…
[気になる点] 語気:スズリと その言葉に満足したのか叩くのを止めたスズリを体を起こして、 [一言] 寝起き頭にスズリが飛び乗ってくる前に、髪を梳く習慣が必要ですね。 小説なので、身長が何センチから…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ