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女神の願いを"片手ま"で  作者: 小原さわやか
第三章 女神の願いの片手間に
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65手間

 慌ただしく動く職員や、焦った様子で話し合っているハンター達の合間を縫ってカウンターへと向かう。

 最初は東の領地で起こった氾濫の為かと思っていたが、馬車でひと月ほどの場所の事でこうはならないだろうし、何か別の問題でも起こったのだろうかと思い直す。


「ちょっとよいかの?一番東の領地で氾濫が起こったと聞いたのじゃが、何か情報ははいっとらんかの?」


「あっはい、失礼しました。それなんですが氾濫が起こったのは逃げてきた方から聞いて分かったのですが、それ以上の情報は無いんですよ」


 カウンターで何かをしていた受付の女性に話しかけると、慌てて姿勢を正して笑顔で話してくれるが氾濫が起こった以上に詳しい情報は無いという。


「情報が無いとはどういうことじゃ?馬車でひと月かかるとはいえ早馬なり、ギルド同士であればベルでの連絡も取れると思うのじゃが」


「よくご存じですね、それも含めて何も続報が入ってこないのが不自然なんですよね。一番遠いところにあるとはいえ何かしら規模や戦況など入ってきてもおかしくはないのですが…。あ、カードを見せていただいてもいいですか?」


 思い出したかのようにカードの提示を求めてきたので、二等級ハンターの証である金のギルドカードをカウンターへと置く、すると一瞬目を丸くしたがすぐに真剣な表情になりブツブツとベルを知ってるなら…とか二なら…とか呟いているかと思うと。


「これはまだ公表されてないのですが、実は当の領地のギルドと一切の連絡が取れてないんですよ、こちらからの呼びかけにも一切応答なしで何か緊急事態でも起こったのではないかと」


 カウンターから身を乗り出して手を口の横に当て、ワシの耳のそばで小声で話すものだから耳に息が当たってくすぐったかったが話の内容的に笑うわけにもいかぬと必死で我慢する。


「近隣の領地にあるギルドはどうなんじゃ?」


「魔獣や魔物の数が増えているとは聞いていますが、今のところ氾濫と呼べるほどの規模ではないと。あとそちらのギルドでも同様でした」


 近隣のギルドからの呼びかけにも応じないと…一番わかりやすい最悪な事態は氾濫によってすでにその領地が無くなっていると言う事だが、それにたってこの慌ただしさはどうなんだろうと思っていると、アレックスやジョーンズは既に他のハンターの人達と何やら話し合っていた。


「アレックスや、なんぞいい話でも聞けたか?」


「んー、いや氾濫が起こったって事以上はみんな知らないみたいだ。俺たちにとっちゃ稼ぎ時だから行きたいところだが、規模が分からないから下手に動けないって感じだな。あと情報が無いせいか、もう他の領地は飲み込まれてて氾濫はすぐそこまで来てるとか色々変な噂まで出回ってて、そのせいでギルド職員がてんてこ舞いだそうだ」


 なるほど、確かに襲われている人たちには悪いが氾濫はハンターにとっては稼ぎ時だ、けど危険度の判断ができないから如何しようかと話し合っていると。ギルド職員はデマや不確定情報で混乱が起きないよう東奔西走と言う事かの。


「ところで、セルカさんは何時までここに滞在する予定ですか?」


「ん?早ければ明日には出ようかと思っておる、北に向かう予定じゃが氾濫がそれに影響が無いか聞きに来たというわけじゃ」


 アレックスの方に向き直っていたため背後から受付の人に話しかける形になり、振り返りつつそう伝える。


「ギルドからの依頼という形で何かあった場合の為に少しこの街に滞在していただけませんか?報酬は毎日の宿代と言う事で。パーティを組んでいましたら人数と等級を、すでに宿を取られているようでしたら滞在先も教えていだたければこちらで負担します。馬車をお持ちでしたら、そちらもギルドの厩でお預かりさせていただきます」


「ふむ、ワシ以外にはそこにおるアレックス、ジョーンズ、インディ、カルンの四人じゃ。あやつらは三等級じゃの、宿は南の門近くにとっておる。アレックスや、馬車をこっちに廻しておいてくれんかの。ギルドで預かってくれるそうじゃ」


 どうせ急ぐ旅でなし、しばらく滞在するのも吝かではない。以前ここに来たときは狩りをしただけで、ちょうどいい護衛依頼があったからろくに観光する間も無く移動したしの。何よりシェーラと色々話したりできるだろう。


「わかった、それじゃちょっと行ってくるぜ」


「んむ、頼んだぞ。さて、期日としてはどのくらいかの?」


「そうですね、大体十日ほどでしょうか。その間にもし何かあればそちらの方で依頼させていただきますが」


「ふむ、十日か。それくらいであれば何の問題も無さそうじゃの。それではさっきの男…アレックスが来たらワシは宿に戻っておると言づけを頼むのじゃ」


「はい、確かに承りました。報酬ですが情報の受け渡しも含めまして毎日こちらに取りに来てくださいね」


「わかったのじゃ、それではの。聞いての通りワシは先に宿に戻っておく、おぬしらは夕飯までのんびりするとよいぞ」


 皆が頷くのを確認し、まだまだ騒がしいギルドを後にする。宿への道中で街の人を見てみたが特に混乱する様子もなく、ギルド職員の働きは報われているようだった。

 宿屋ではアレックスが馬車を取りに来たという報告を受け、それとなく氾濫の事を聞いてみたが氾濫が起こったということは知らず、増えた魔獣にびびって遠い東の領地の貴族どもがこっちにまで逃げてきたという笑い話として伝わっているようだった。

 そこからたまたま通りすがったお客さんも巻き込んで貴族への不平不満を言い始めたので、苦笑いでその場を辞して宿の部屋へと戻るのだった。



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