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女神の願いを"片手ま"で  作者: 小原さわやか
第三章 女神の願いの片手間に
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64手間

 食事をしながら話を…と考えていたが子供たちが騒がしく、食事中に話をするなんて事はできなかった。

 今は食後に見た目は豆乳なのに味はコーヒーという不思議な飲み物を飲みつつ、シェーラの話を聞いている。子供たちは今カルンが相手をしていて、もみくちゃにされているところだ。


「なにから話せばいいのか…とりあえず、現在は私はここにいるんですよ」


「んむ、それは見ればわかるの。何故ここに居るのかと言う事を聞きたいのじゃ」


「いや、街から街への引っ越しが珍しいとはいえ、全く無い訳じゃないんだからそこは別にいいんじゃね?」


「こやつの以前おった街は貧富の差が特に激しゅうての、その日暮らしで何とかといった状態じゃったんじゃよ。ふた巡りやそこらで旅費と新しい住処を用立てるなぞ不可能と断言できる程だったのじゃ。普通の引っ越しだったなら良いのじゃが、別の事情という事ならちと心配での」


 引っ越しは厳しいが出来ないことではないとアレックスが言ってくるが、彼女は所謂スラム街で過ごしていて、しかも前にいた領地はこの広大な東多領の中でも最も東にあり、一つ隣の領地だったらまだ分かるが、なぜわざわざ一番遠いこの領地に来たのかが分からないのだ。移動するだけでも相当なお金がかかるし、彼女はハンターではないので護衛依頼という名目で移動するという手段も取れない。


「それはですね、実は前いたところの近くで大規模な氾濫が起きまして、それで避難する人達の馬車に紛れ込みまして。ついでに乗りこんだ馬車に積まれていた財宝をちょっと拝借しまして、そのお金で知り合いのいたここまで来たんですよ。今はその知り合いのお家で住み込みで働かせてもらってます」


「おいおい、財宝ちょろまかすとか大丈夫なのかよ」


「いいんですよ、どうせ私たちの税金や援助金で買ったものですし。財宝だけ積んで逃げようとしていた程の人のですし、私が使う方がよっぽど有効活用ですよ」


 アレックスが尤もなことを言うが、シェーラは悪びれもせず、むしろ憤慨した感じで腕を組んで鼻息荒く口をとがらせる。実にわかりやすい民から搾取し横領し、危機が迫れば真っ先に自分だけ逃げる悪役貴族。そんなのばかりが多くいたのが彼女の以前いた領地だ。


「氾濫より先に反乱(・・)が起きそうな場所じゃったがのぉ…しかし、氾濫じゃとギルドに何かしら話が来とるはずじゃろうし、後で寄ってみるかの」


「むー、セルカ様があんな奴らのために動く必要なんて無いですよ!死ねばいいんです、餌になればいいんです。確かに一緒に住んでた子たちが心配といえば心配ですが…氾濫なんてあってもなくてもいつ死ぬかわからないようなとこでしたからねぇ…」


 鼻息荒く貴族どもに身も蓋もない事を言っていたシェーラだが、誰かの事を思い出したり想像したのか耳もぺたりと力なく垂れしょんぼりする。


「氾濫の規模にもよるがの、ワシらは北のほうに向かう途中じゃしの。おぬしが居ったあたりの者も気掛かりではあるが、よほどの事がなければ大丈夫じゃろう。話を聞きに行くのもハンターの義務と旅に支障が出そうかどうかの確認の為じゃ。私服を肥やすブタ共の為ではないから安心せい」


 氾濫の話を聞いたらそれをギルドに持っていくのもそこで詳しい話を聞くのもハンターの義務、近場であれば強制参加になるだろうが、幸いなことにお互いの街は東多領の端と端という立地だ。急いだところで片道でひと月近くかかる。


「さてと、そろそろお暇するかのぉ。早ければワシらは明日にもここを出る予定じゃ。おっとそうじゃ、これであの子らに菓子でも買うてやるといい」


 そういって適当にミスリル貨数枚をシェーラに握らせる。


「ありがとうございます!セルカ様!やっぱりセルカ様が里長になりませんか?セルカ様ならあのくそったれな里を変えれますって!」


「前にも言うたであろう?ワシにそんな気は無いと。それにまだまだやるべき事もあるしの。ほれカルンそろそろ行くぞ」


 ほっとした顔で戻ってくるカルンとそれを至極残念そうに見送る子供たち、シェーラが帰りにお菓子買ってあげるからと言えばカルンの事など忘れたかのように笑顔になっている。


「それではシェーラ、息災での」


「はい、セルカ様もお元気で!毎日お祈りします」


 何にとは流石に怖くて聞けなかった。聞かなくても答えは一つであろうが。

 街を離れる、たったそれだけで今生の別れとなる事なぞ珍しくもないこの世界、何かこみ上げるものを抑えながら手を振って別れる。


「さて、氾濫という話じゃがかなり遠いし、ワシらの旅への影響はないじゃろうが、話を持っていく位はしておかねばらんじゃろうの」


「けどよ、さっきの話を聞く限り知り合いがほかにも居るみたいじゃないか。別に急いでるわけじゃないし、俺たちは寄っても構わないぜ?なっ!」


 そういってアレックスが振り返るとカルンやインディたちも首肯する。


「おぬしら…。いや、その気持ちはありがたいがの。あの街で特に親しくなったのはシェーラだけじゃよ。他はせいぜい軽く話を交わす程度じゃ。おぬしらを危険な目に合わせるのとでは割りに合わんよ」


「そう言ってくれるのは嬉しいが………いや、セルカがいいのならそれに従うさ」


 食堂から大して距離もなかったため、そんな少ししんみりとした雰囲気のままギルドの扉を開く。

 ギルドの中はそんな少ししんみりとした雰囲気を一発で吹き飛ばすほど、何かに焦っているかの様に誰も彼もがせわしなく動いていた。

 貴族が逃げ出すほどの氾濫、強制依頼…その言葉が脳裏を横切り、これは確実に巻き込まれる流れではないかと、一人冷や汗をかくのだった。





この世界、宝珠持ちと無しでは戦力格差が酷いので反乱は意外と起きにくいです。

例えるなら無双のプレイヤーとモブくらい。

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