633手間
にわかに騒がしくなるといってもその音はワシにしかまだ届いてい無いようで、フレデリックは気にせずと言うよりも気付かずに話を続けようとする。
そこへ、タタタタと軽快に廊下を走る足音がここへと近付き食堂の扉の前で止まり、呼吸を整えているのか数拍置いてノックの音が部屋へと響き、話し出そうとしていたフレデリックの口が一度閉じ、再び開いて誰何の声を出す。
「外からの伝令の騎士です」
「そうですか通しなさい」
「はっ」
食堂の扉の脇に飾りの鎧かと思うほど静かに控えていた騎士が、少し扉を開け外の者と何やら話してからフレデリクに報告するとフレデリックは少し目を伏せ、考えを巡らした後に今来た者を入れるよう扉の脇の騎士へと指示する。
入ってきた騎士は惚れ惚れとするほどの綺麗な騎士の礼を取ると、少し緊張したような面持ちで話し始める。
「報告いたします。こちらへと近付く一団を、見張りものが発見しました。傭兵にその一団を確認させたところ、恐らく懇意にしている商会の一団ではとの事でしたがいかが致しましょうか」
報告された内容に、ワシらの視線が所在なげに食堂の隅に立っていたカルロに突き刺さる。
「えっと……ひと月ちょい遅れちゃいるが、たぶんフロイス商会の商人たちだ」
「それは本当かの?」
「あぁ、ここまでわざわざ来るのはフロイス商会の奴らだけだからな、他はみんな下の町にこっちが買い付けにいくしな」
誰もひと月ほどの遅れという言葉は気にしていない、というのも神都の反対側からという遠いところから来てるのだ、その位の遅れは当然あり得る、むしろ比較的遅れが少ない方では無いだろうか。
ただ、当然遅れた分だけその間の食料などなどの経費がかさむ、それが買った側か売った側かどちらの負担になるにしろ、誰だって無駄に高い金は払いたくない。
だからこそ普通であれば、そこでしか手に入らないモノでもない限り近くから買うのが普通であり、ひと月の遅れが気にならないほどに遠くから買い付けると言うのは、余程の理由がない限りまずしない。
書類上ではフロイス商会から買い付けているのは武具や鉄鉱石の類であり、わざわざ遠いところから買い付ける必要も無い。となるとどうだろう、武具や鉄鉱石というありふれた名前がご禁制の品の名前に思えてくる。
「フロイス商会のぉ、調べねばとは思うておったがまさか向こうから来てくれるとは、さしものワシも思わなんだのじゃ」
「そうですね、下手に逃げられても困りますからここに閉じ込めてしまいましょう。フロイス商会の者を中に入れたら、外に出られないよう門を閉じなさい」
「はっ、かしこまりました」
報告にきた騎士がフレデリックの指示を伝える為に出ていくのを眺め、何か情報が引き出せれればと思うものの、こんな辺鄙なところまで来るのだ切り捨てても問題ないロクな情報を持っていない末端の者たちだろうなと、フレデリックが淹れてくれたお茶を飲みふぅと一息つくのだった……。




