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女神の願いを"片手ま"で  作者: 小原さわやか
第三章 女神の願いの片手間に
66/3300

63手間

今回より新章突入、そして二話連続投稿です。


 カカルニアを出て半月ほど、比較的のんびりとしたペースではあったがカカルス領を出て東多領、南との玄関口たる街へと到着した。なぜ東から回るのかといえば、アレックスらは主に西を中心に活動してたからという至極単純な理由だ。

 この東西多領はその名のとおり多数の領地の集まりだ。南北の領地を首都を中心に形成された単一国家だとすれば、さしずめ都市国家群による連邦といったところだろうか。

 気候は一定で過ごしやすいと女神様には教わっていたが、最近では(といってもここ数百年程を指すらしい)火のダンジョンの影響で暑くなる月がある。といっても元日本人としては湿度も高くない暑さなど、精々プールに入ったら気持ちよさそうだな程度で済む気温でしかなかったが、それでも現地の人にとっては堪らない暑さらしい。

 そしてこの東西多領は気候に影響の出るダンジョンなどが無く、南と北に近い領地に多少は影響が出る程度で、基本的に殆どの領地は女神さまの言った通りの安定した気候のため、治安さえ良ければ住むにはとても良い所だろう。治安さえ良ければ…。


「はぁ…着いて早々強盗に会うとは思わなんだ、前来た時も度々襲われたが、よくこんな処で居を構えて過ごす気になるのぉ」


「伝手やコネのない奴に大抵の人にとっちゃ、居を移してそこで暮らしてくってのは手首切って生き残るかどうかってのと同じだからなぁ…それに元々よそ者に厳しい土地柄な上、昔っから談笑しながらテーブルの下でお互いを蹴りあってる様な所だからな、治安が悪くて当然だぜ。その分護衛依頼とかが多くて、ハンターとしちゃ食いっぱぐれは少ないんだけどな」


「戦争をしとらんだけマシという事かの」


 四人と少し離れて歩いていたため一人と思われたのか、突如襲ってきた強盗二人組を返り討ちにし衛兵に突き出して後、また襲われても面倒だと今度は一緒に歩きながらそう愚痴る。

 そんなこんなで街をぶらついている最中、子供数人と遊んでいた女性の獣人が此方を見つけるや否や猛然と駆け寄りワシ目掛けてジャンプしてきて…。


「おぉおお久しぶりでございます!セルカさまぁあああああ!」


 叫びと共に落ちてきた女性は目の前でピタリと頭を下げた状態で片膝だけを立て、左手は後ろに回し右手は左胸につけるという独特のポーズで跪く。ジャンピング土下座とかスライディング土下座とかは漫画で見た気がするけど、ジャンピング跪きは初めて見た。

 そんな奇行をしてきた赤毛の猫耳&尻尾な獣人の女性に、左足を一歩引いた感じでドン引きしていると。


「セルカ?」


「様?」


「セルカ様はセルカ様ですよ!九尾!九尾ですよ九尾!これを敬わずに誰を敬うっていうんですか!」


 アレックスとジョーンズの言葉に女性はガバッっと顔を上げ、キラキラした目でそんな当然のことをなぜ聞くのかと言わんばかりの剣幕でまくし立てる。


「な、なぁセルカ。どうやら知り合いらしいが色々教えてくれない…か?」


「あ…あぁ。一人で旅をしたときに知り合った奴での、シェーラという名なのじゃが…。こやつの出身の里では尻尾が多いほど偉いという風習らしくての、それのせいか妙に懐かれてしもうてのぉ…」


 アレックスに質問されたことで、突然のことでフリーズしていた思考が元に戻り、外見だけであれば美人でモテそうなのにことごとく残念な行動をしてくるシェーラを憐みの目で見る。ちなみに彼女の尻尾は二尾のいわゆる猫又だ。


「私の様な二尾は比較的よく生まれますが、それでも生まれたら里の要職は確定でその代は安定、バカ里長ですら三尾なのにですよ、セルカ様は九尾!三倍!里長の三倍ですよ!もうこれは神の御使いですよ神様ですよ!」


 シェーラは一息で言い切ると跪いた姿勢のまま手を胸の前で組み、空を仰いでトリップし始める。


「このざんねっ…んんっ、美人なねーちゃんは話聞く限り里のお偉いさんっぽいんだが、こんなとこに出てきててもいいのかよ?」


「それはじゃの、話の通り、此奴の出身里は尻尾が多いほど偉いという考えの里なのじゃ。獣人はどのような姿であれ長短あろうと尻尾は必ずあるしの」


「うん?それで?」


 ちらりとシェーラを見るが未だにトリップしている様で、耳には届いていないのか微動だにしないので代わりにワシが答える。


「お主らにはちと気持ちの良い事ではないのじゃが、尻尾が多ければ偉いという考えじゃからの…逆に尻尾の無い種族なぞ家畜以下じゃという思想なのじゃよ。家畜などにも大抵尻尾はあるからのぉ…実際、彼女の里には他種族の者もおったらしいが、その者らの扱いはそれは酷いもんじゃったそうじゃよ。まぁ、そういう差別主義が嫌で彼女は里を飛び出してきたというわけじゃの」


「差別主義ってのは初めて聞いたが、何となく意味は分かったぜ。確かに胸糞の悪い話だな」


「彼女はそう思うとらんからの、ただの残念な子じゃよ」


 まだトリップしているシェーラを生暖かい目で見守りながらふと思いつきトリップから引き戻すため彼女の肩をたたく。


「のうシェーラや、ちょっと良いかの?」


「はい!何なりと私めに出来ることであれば仰ってください!」


 そういって再度手を最初の形に戻し頭を垂れる。


「楽にしてもよいよい、今更じゃが往来でする話でも無しそこの食堂にでも入って話でも…の?」


「お心遣いありがとうございます。セルカ様!私であればこのままでも一向にかまいませぬ!」


「ワシらは先ほどこの街に着いたばかりでの、とりあえず腰を落ち着けて話したいのじゃよ」


「そっ!それは気付かず申し訳ございませんっ!!お詫びと言えるかわかりませぬが、お食事の代金はすべて私が!!」


「あーおぬし、以前は貧乏で大変だとか言っておったろ?さすがにそんなものに出させるわけにはいかぬよ。それよりも…」


「いえ!セルカ様のためであればひと月ふた月露を飲んでしのぐ事など誉であります!」


 言葉をきってどこぞの仙人修行みたいな事を言っているシェーラの背後を指さす。


「その子らはおぬしの子かの?ほっておくわけにはいかんのじゃろう?」


「はっ!えっ!あっ!!!ご、ごめんね、セルカ様を見かけたからつい…ほ、ほら家に先に帰ってなさい、おねえちゃんはセルカ様とお話ししてくるから」


 おねーちゃんと不安そうにシェーラを見上げる、実にかわいらしい三人の獣人の子を見てはこのままおねえちゃんを借り受けるのは罪悪感を感じる。


「ふふふ、そう大した話でもないしの。おぬし等も一緒にご飯を食べるかの?ワシのおごりじゃ」


 しゃがみこんで話しかけると一瞬ビクッっとしてシェーラの後ろに隠れてしまうが、ごはんという言葉に目をキラキラさせて身を乗り出してくる。


「ごはん!いいの?」


「いいとも、もちろんおねえちゃんも一緒じゃよ」


「セ、セルカ様にそんなことをしていただくなど恐れ多くてそんな…」


 やったやったとはしゃぐ子供たちとは対照的にシェーラはひどく狼狽している。


「何、気にすることはないのじゃ。子供たちやワシの事を気にかけてくれる者に報いるのは、上の者の務めじゃろう?」


「さ、さすがセルカ様…‼︎うちの里のアホどもにも見習ってほしいです。」


「ア、アレックスや!そやつを頼むぞ!」


 またもトリップし始めたシェーラを尻目に、実に現金なものではやくはやくと手を取ってせかしてくる子供たちに引っ張られ、アレックスにシェーラの事を任せて食堂へと向かうのだった。


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