629手間
ワシが壁を殴った音を聞きつけたのか、ドタドタと何人もの騎士が部屋に駆け込んできた。
「フレデリック様、先ほどの音は一体」
「大丈夫ですので現状の報告、そこの死体の処理、それとそこで伸びてるのと降伏してる者の捕縛を」
「はっ!」
「いや、死人はワシがやるのじゃ。じゃからちと離れておれ」
倒れ伏す四人はピクピクと指が痙攣しているように動いているが、床に広がる血の量から既に事切れてるか生きてたとしても助けるのは不可能だろう。
ワシの言葉にフレデリックやカルロ、騎士たちが死体から離れたのを確認すると床に広がる血ごと狐火で焼き尽くす。
「さてこれで安全じゃろう、っとそうじゃおぬしらに聞きたいのじゃが」
「はっ、何なりとお申し付けください」
「あぁ、すまぬ。おぬしら騎士では無く、ほれ、そこで膝を突いておる二人じゃ。そこの祭壇のようなものなんぞに使うか知っておるかの?」
魔手を戻しカツンカツンと部屋の中央にある祭壇に歩み寄り、右足のつま先で祭壇を蹴りつつ聞いてみる。
ここを守っていた、かどうかはともかくこの場所に居たのだ、全容は知らずとも大まかな事は知ってるかもしれない。
「一度だけ、一度だけ魔物の肉と魔石をそこの台の上に載せてるのを見たことはあるが、何をしてるのかは知らない」
「ふむ……なるほどのぉ」
魔石と肉という組み合わせで思いつくのは、金庫の中にあった名状し難き物体が入った壺、如何にもこの祭壇で何か儀式をしているっぽいが、ただ単に台として使っているだけかもしれないしこの証言だけでは何とも言えない。
「それと、これより先に部屋か何かはあるかの?」
「無いはずだ」
「そうかえ、ならばワシらは地上に戻るとするかのぉ」
ここであの名状し難きモノを作っていると知ったからか、何となく祭壇を目に入れるとゾワゾワとした気持ち悪さが背筋を駆け抜ける。
どうやらこれより先は無いようだしと騎士たちにこの場の調査などを任せ、ワシはさっさと踵を返し地上へと戻るため廊下を早足で突き進むのだった……。




