片手間1
本日二話連続投稿の第一弾の番外編!
時期としては火のダンジョンから街へと戻りカルンとのレストランデートまでの間くらいです。
無いとか以前に自分で言ってましたが…すまないあれは嘘だ。
番外編ですので読み飛ばしていただいても大丈夫ですが、楽しんでいただければ幸いです。
カカルニアの街に滞在している間は必ず通っている馴染みの服飾店。そこでこの世界にはあるはずのないものを見つけて唖然としている。
この世界はありえないと思っていたもの、気温は常に一定で年中過ごしやすい気候と女神さまには教えられ、安全面や宗教上の理由から自然に存在するところでは不可能だとこの世界の人達に教えられていた故に。
「水…着?」
「さすがセルカちゃんね、それに気を留めるとはお目が高い!」
この服飾店の店員で、いつもワシの接客をしておりほぼ担当と化しているフィーという名の女性が嬉しそうに話しかけてくる。
「それに水着を知ってるってことは、相当良いとこの生まれなのねぇ…うらやましいわぁ」
「ん?水着を知っとることと生まれの良し悪しがなんぞ関係あるのかの?」
「しかも、それをわかってないと来た。これはお姫様だったって言われても納得しちゃうわね」
一人ぶつぶつと本人は小声で呟いているつもりなのだろうが、距離が近い上に耳が良いのでばっちりと聞こえてしまう。いや耳が別段よくなくてもこの距離であれば誰でも聞こえるであろう。
「ワシはお姫様では無いのじゃが…。それよりも何故なのか教えてくれんかの?」
「そうね、まずは水着がどういう目的のものかは言わなくてもわかるわね?」
その言葉にこくんと頷く、水着の使用目的なんて一つだ。それを着て泳ぐ、それ以外に何があるという。
「水着を知らない人だと、ただの凝った下着だと勘違いして買おうとしちゃうのよねぇ…それでお値段みてびっくりみたいな?とと、それは今は置いておいて」
荷物を横に置くようなジェスチャーをしてから楽しそうに続きを話し出す。
「基本的に泳げるような場所は存在しないっていうのは知ってるわよね?というか私が教えたし」
「んむ、河川では野生の動物や魔獣などが危険で泳ぐことは出来ぬ、軽い水浴びくらいはするが泳げるほど深い場所には魔獣がいる可能性もあるから…じゃったかの?」
「そうね、聖域の水辺は安全だけど、恐れ多くて水遊びなんて事は出来ないしね」
聖域とは世界樹の周辺、魔獣や魔物は疎か危険な野生動物も出てこない地域の事だ。
「それでね、最近すっっっっごく暑くなってきたでしょ?」
「そうかの?このくらいであればまだ快適な部類じゃろう?」
すっごくのあたりで両手を握りしめ万感を込めて訴えてくる暑さを、別にと切って捨てる。
最近では…二年間の旅の後半あたりから街中ではポンチョをあまり出さないようにしてきた。ダンジョンの影響のある地域では見た目からして気候が変化しているのが分かるほどなのに、ポンチョの効果によって不快に感じるレベルの暑さ寒さは分からなくなってしまう。
しかし、それは年がら年中クーラーの効いた室内にいるような感じで不健康なのではないかと思い、いつ何時危機に陥るかわからない外では兎も角、安全な街中では自然な気温を感じて楽しむようにしているのだ。
前世は夏は暑く冬寒い そんな所で生きていたためか、多少の気温の変化なぞ過ごしやすい一定の範囲内だと思い込んでいた。女神さまが言っていた、「常に一定で過ごしやすい気候」という常識はお伽噺レベルの昔の常識であると気付かぬままに。
「火のダンジョンはかなり遠いけど、この時期は気候への影響が強くなっちゃうみたいで暑くなっちゃうのよね。さらに今回はいつもより暑くて、もうホントまいっちゃう。それで、領主様が魔法使いの人たちを駆使して人工の貯水池!その名もプールを用意しちゃうわけなのよ」
「なるほど、それで商品に水着があるというわけかの。しかしそれがなぜ良いとこの出に結びつくのかが今の話ではよくわからんのじゃが?」
「むむむ、手ごわい、プールも知っているとは…。んーとね、プールを用意してくれるのはいいんだけどね、利用料がかなり高いのよねぇ。絶対に手が出せない料金ってわけでも無いんだけど、これの為だけに水着を買って、さらに数刻の為だけに銀貨をーとなるとね」
「なるほど、高級な避暑の手段じゃったのか。しかし、その口ぶりであれば水着やプールなぞ誰でも知ってそうじゃが?」
「んふふ、そうね知ってはいるわね。でもね、これを一目見て珍しい下着だと勘違いするのが当たり前の中、水着だと一発で見抜くってことはそれだけ水着に慣れ親しんでるって訳よ。んでんで、高級なお遊びに慣れ親しんでいるってコトわぁ」
「ふむ、確かに良いところの、それこそ姫君と言われても過言ではないと…」
「それでそれでぇ?買ってくれる?」
ずずいっと詰め寄って来たフィーが、両手をかわいく組んでまるでおねだりをしているかのように聞いてくる。
「そうじゃのぉ………」
「で?なんで俺たちがここにいるんだ?水着なんて高価なもん買ってもらった上に、ここの入場料も全部持ってもらって聞くのも何なんだがよ」
フィーに詰め寄られたあと久々に泳ぎたいという欲が湧いてきて水着を注文した後、さすがに一人で行くのも寂しいし折角だからカルン達四人も呼ぼうと思い立ち、どうせ水着など持っていないだろうという結果的には正しかった偏見の元、水着を買い与えてこの場に連れてきたのだった。
プールといっても魔法で作り出したらしい二十五メートル程度の岩の内側を削り出した中に、これまた法術で作り出した水を溜め、保冷や浄化の魔具を四隅に設置した簡素なものだ。それでも、幾人もの魔法使いを動員して作り出したそれはおいそれと手が出るほど安いものでもないが。
「一人で泳ぐのは寂しかろう?それにお主等もせっかく砂漠から戻ったのに、こっちも暑いと愚痴っておったではないか」
そういうワシは、黒い布地のストールを首の後ろから胸の前で交差させ、背中で結んだようなデザインのホルターネック。下は尻尾を出すために紐が斜めについたローライズのビキニスタイルという実に煽情的な水着を身に纏い、いつもは下ろしている髪をアップスタイルでまとめ上げ、それを日焼け止めの魔具がついたバレッタで留めた格好のまま、腰に手を当てるドヤ顔スタイルで胸を張っている。
「えっえっと…すごく…きれいです」
「ふふふ、そうじゃろうそうじゃろう」
真っ赤になって何とかそう声を絞り出すカルンに、そうなるのは青少年として健全な反応じゃなと特に気にもせず、世辞の一つも寄越さぬ粗暴な野郎どもとはやはりカルンは違うなと一人満足するのだった。
「ん?何変な運動してるんだ、入らねぇのか?」
世辞も寄越さぬ粗暴な野郎一号のアレックスが、さすがに誘ってくれたホストを差し置いて先に入るのは気が咎めたのか、準備運動をしているワシを振り返って尋ねる。
「戦う前の準備と同じじゃよ、体をほぐしておらぬと動きが鈍くなる。何より水中では地上に比べ圧倒的に動きが阻害されるからの。体を温めぬまま入って溺れた挙句死ぬなんて事も十分あり得るからの。娯楽じゃからと気を抜いておると痛い目を見るぞ」
「そんな危ないもんなのかよプールって!!」
人目があるためさすがに叫んではいないが、明らかに恐ろしいものを見る目でプールを見ているカルン達四人に脅かしすぎたかと反省する。
「あくまで可能性もあるという話じゃよ、コケて頭を打って死にそうな目に遭うことがあっても周りに誰ぞおれば助けてもらえるじゃろう?ここはそういう場所じゃしの。じゃからといって体をほぐすのを怠れば怪我はするぞ」
「そ、そうか。じゃあその変な運動をしっかりしとくか」
あからさまにほっとした表情で変な運動…ストレッチをしているワシの動きに追従する。
動きを見るということは、自ずと体をじっくりと見ることになるわけで…カルンが真っ赤になり顔を逸らそうとするが、しっかり動きを見てちゃんと準備運動をしないと、とでも思っているのか百面相をしている様に自然と笑顔になってしまう。
そして胸を凝視してくるジョーンズはとりあえず沈めようとも考えるのだった。
飛び込み禁止というのは世界が違っても一緒という事なのか、待ちきれないとばかりに飛び込んだアレックスが厳重注意を受け、高級な娯楽ということで他の人は優雅に過ごしている中、泳げないにも関わらず煩いほどにはしゃぐアレックスをジョーンズ共々沈める。ようやく静かになったところで、もふもふの尻尾が浮き輪の代わりとなりそれに背を預ける形でぷかぷかと仰向けに浮かぶ。その横ではスズリが犬かきのようにして気持ちよさそうにちょこちょこと泳いでいる。
宿に置いていくのはさすがにかわいそうと思い、万が一でもあればと入口で訊いたが、ペットの分の料金も払えば利用するのは問題はないと言うことで、一緒に入れることを心底ほっとした。
「どうじゃカルン、おぬしも楽しんでおるかの?」
「はい、すごく気持ちいいです。今日は連れてきてくれてありがとうございます」
泳ぎの指導まではできないが浮かぶコツくらいは教えれたので、それに従って浮かんでいたカルンは、ワシが声をかけるとちゃぷんと立ち上がり姿勢を正してお礼を述べてくる。
「気にするでない、カルンにはダンジョンでもずいぶん助けられたしの。少しでもそれの恩返しが出来ればそれでよいのじゃよ」
空を見つめたままそう答えカルンを見ればまたも顔を真っ赤にして下を向いているカルンの奥でニヤニヤしている三人組。
プールに沈む人数が三人に増えたころ日も沈みかけ、さすがにこれ以上は寒くなるだろうと名残惜しそうにしている四人を従えプールを上がることにした。
各々着替えて、水から上がったあと特有の全身を包みこむような、じんわりとした疲労感を懐かしみながら合流すると。
「おぉおおぉ、なんだこれ、大して動いてないのに何でこんなに疲れるんだ…街中とはいえこれは大丈夫なのか?」
宝珠持ちはマナの濃い地域であれば、疲れ知らずで動く事ができる。逆に街中などの普通の地域では一般人よりは体力が多いほう程度で、疲れるときは普通に疲れる。
「言うたであろう?水の中は地上より動きが阻害される、とな。少し動くのにも普段より沢山の体力が必要なのじゃよ。その上水の中じゃと体が軽く感じられるからのぅ、疲れが実感し辛いのじゃよ」
半端な知識だから大体こんなところだろうと当たりをつけて説明する。どうせこの世界の人には、とりわけアレックスのように基本感性で動く人種相手に浮力や水の抵抗がどうのと解説したところで理解はされないし、ワシ自身もそこまで詳しいわけではない。
「な、なるほど…で、この疲れはいつまで続くんだ?」
「さての、それは各々の体力次第じゃの。そういえばプールで泳いだ後はご飯がおいしいと知り合いが言うておったのぉ…」
「そうか!」
しみじみと言えば明らかに後半に対してのうれしそうなアレックスの反応に苦笑いを返しながら宿屋へと帰る。
夕飯を一緒に取っている最中に四人が船を漕ぎ出したのにはさすがに嘆息するしかなかったが、熱いスープに顔を突っ込ませるわけにもいかないとカルンの肩を優しく叩き、残りには拳骨を喰らわす。
頭をさするその姿に呆れはしても、それだけ楽しんでくれたということなので自然とまた笑顔になるのだった。
無いのなら
造ってしまおう
ホトトギス
本来はもっと短いはずでしたが興が乗っていつの間にやら本編より長く…。
それはそうと今回みたいに魔法理由に何でもかんでも出来てしまいますが自分としては無制限にそれは流石にと思ったので。
今回は金持ち連中しか気軽に利用できない程高価に、という制限を入れてみました。
こういう制限の設定考えるのとても楽しいです。




