617手間
足早に奥へ奥へと廊下を進んでいると、左手の扉から光が漏れているのが見えカルロがぶつからないようゆっくりと足を運ぶ速度を緩め、カルロが持っている光の玉を後ろを見ずに消す。
突然手の平に浮かばせていた光の玉が消えたことで驚きの声をあげたカルロだったが、何故そんな事をしたのかすぐに理解したのだろう、声はせいぜいちょっとした呻き声程度で抑え静かにワシの後ろに付いて来ているようだ。
足音を立てないよう扉の前に立ち、耳をそばだてながら中の気配を探れば最低でも四人ほど居るみたいだが、侵入者に備え手ぐすねを引いて待っているようなピリピリとした雰囲気は無い。
聞こえてくる音もカチャカチャと何かを弄っている音と、ガサカサと何か小さなものが動き回る音、他にも雑多な音が聞こえるが、それもただの生活音といった感じでやはり何かを待っているという印象は受けない。
これならばと思い扉に手をかけ勢いよく手を引いて扉を開く。
「そこまでじゃ! 動くでないぞ!」
急に扉が開かれ響いたワシの声に、部屋の中に居た四人はギョッとした表情でワシを見た姿勢で固まっている。
彼らに脅威は無いと断じ、部屋の中を眺める前に入り口の影から気配も殺気も無く伸びてきた、その手にナイフを持つ腕を捕まえ廊下側へとうつ伏せに引きずり倒しねじり上げ、ナイフを持った腕を襲ってきた者の背中に回し取り押さえる。
「ふむ、なかなか気配を断つのが上手い様じゃがまだまだじゃの」
「クソ、なぜばれた。私の隠形は完璧だったはずだ」
「隠形が何かは知らんがのぉ、完璧と言うてもその姿を消せるわけではないからの、見てから捉えるのなぞ余裕じゃ。ところでカルロやおぬしが言っておった陰気な男とはこやつかの?」
「あぁ、そいつだ。そいつがここの取り纏め役といってもいい」
「カルロ? カルロだと? 貴様裏切ったのか!」
ワシが首元を押さえているせいで首が回らない男がカルロの名前を聞いて喚きだす。
「裏切った訳では無いさ、契約の違反による契約終了と別口での契約ってやつだな。ったく毎度毎度ケチってくれやがって、どっちみち今回の契約期間が終われば手を引く予定だったんだ。それにおたくらどうも悪事に手を染めてたっぽいし?」
「クソッ、我々に手を出したのだ、貴族どもが黙ってはいないぞ!」
「ほほう、それはこわいのぉ。是非とも黙っておらん貴族の名前を言うてくれんかの?」
「はっ、誰が言うか」
「それもそうじゃな。とりあえず中の四人が妙な事をせんよう、見ておれカルロ」
「あいよ」
「さてと……おぬしの主はもう捕まっておる。このままではおぬしらに待つのは破滅だけじゃ、このまま座して身の破滅を待つも良し、さておぬしはどうするかのぉ?」
カルロが部屋の中に行くのを確認し、ワシは丁度良いところで良い者を捕まえたと口角を上げながら、取り押さえた男の腕をギリリと更に締め付けつつ、その耳元で少々意地悪く呟くのだった……。




