6手間
お約束の盗賊に襲われる馬車を見つけた。
しかし、このお約束イベント、逃す手はない。
何しろ今は無一文の素寒貧、しかも街どころか村もどこにあるかわからぬ里からのおのぼりさん。
という設定のワシには実に好都合、助けてあわよくばお金と道案内ゲット。
それに見捨てるというのも夢見が悪くなりそうだ。
そういえば、ワシお金のこと教えてもらっとらんのぉと一人思案していれば…ついに、戦士が膝をついてしまった。
これはまずいと有り余る身体能力で駆け抜け、ちょうど一直線に並んでた盗賊どもをナイフでもってすれ違いざまに首を刈る。
まさに一刀両断、転がり落ちる首、吹き出す血、崩れ落ちる体。
魔手ではオーバーキルすぎるとナイフで切り付けたが、これはこれでやりすぎた。
戦士の人なんて驚いて血を浴びてるのにも関わらず、口をぽかーんとあけ腰が抜けてる。
今まで隠れていたのか、荷台からおっさんがガタガタ震えて、盗賊だったものを見つめている。
貴重な第一第二村人発見、ここはフレンドリーに…とりあえずナイフの血を払い鞘に納める。
ちらりと自分を見ると返り血で真っ赤になってる、これはあかん。どう見ても化け物だ。
慌ててポンチョを出し入れして綺麗に。やっぱりこの機能は便利だ。
幸いまだおっさんと戦士は盗賊だったものに目を取られてこっちにまで気が回ってないようだ。
周りを確認してごほんと咳払いする、幸い盗賊だったもの以外は倒れてるものはとりあえずない。
「大丈夫じゃったかの」
「「ひぃ」」
おっさんと戦士の悲鳴が見事にハモる。
おっさんは荷台に引っ込み、戦士は剣を果敢にも構えるが腰は抜けたまま。
剣は面白いくらいガタガタ震えている、この状態でも剣を向けれるのは天晴か?
相手からしたら突然首が飛んだ、それをやらかしたのは鬼か悪魔かってところなのだろうが…。
「ひぃとはなんじゃ、ひぃとは!はぁ…わしは敵ではないのじゃ〜…」
なんてかわいらしく肩をがっくり落としてみる。
戦士はそれを見て己を取り戻したのだろう、恥ずかしさからなのか何度か咳払いをして、
「あ、あぁ、ありがとう助かったよ」
「んむ、見たところ犠牲はおらんようじゃし、間に合ったようじゃの?」
「ん、そうだな、この馬車には俺とおっさん以外はいないからな。改めて助かったよ」
「おい、おっさんもう大丈夫だ」と戦士が馬車に話しかけると、おっかなびっくりおっさんが顔を覗かせる
一瞬驚愕という表情を張り付けただけで、先ほどとは違い穏やかな顔に戻り、
「おぉ、私はバックス商店の店主、バックスだ。助けてくれてありがとう」
馬車から降りて若干大仰に喜びつつ、中肉中背の実に人の好さそうなおっさんがお辞儀する。
「そういや名乗ってなかったな。俺の名前はアレックス、三等級のハンターだ」
そう言ってバックスより背が高くがっしりとした実に頼りがいのあるおじさんが答える。
「そういやお嬢ちゃんはなぜここに?」
「む、ワシはお嬢ちゃんではないぞ。セルカ、十二歳じゃ!」
女神さまからもろうた名じゃと心の中で追加する。年齢を言ったのは何となく。
ちなみに十二歳なのは女神さまの趣味なのと、ハンターギルドの登録の下限がそれだから。あと女神さまの趣味。
ギルド登録は十二歳なのだが、ダンジョンへ入るにはこの世界の成人年齢である十五歳から。
三年間はハンターの経験と情報を集めろということなのだろう…たぶん。
むふーと胸を張ってると、アレックスが頭をわしゃわしゃしてくる。
むむむ、頭を頭をなでるでない、なでるでなぁむふー。
一通りなでることに満足したのか、モフモフやべぇとか言いつつ手を放し。
「お嬢ちゃん…じゃねぇや、改めてセルカはどうしてここに?」
「んむ、ワシは里から出てきたばかりでの。街に行こうと森を抜けて街道に出たところで、おぬしらの馬車が襲われてるのを見つけたのじゃ。ところで良かったら、街まで連れて行ってもらえんかの?お金は持ってないからの…さっき助けたので支払いということにしてくれんか?」
「あぁ、いいぜ。と言いたいところだが、それは俺の一存じゃ決めれねぇな。おい、おっさんどうするよ。俺は是非ともだけどよ」
いつの間にか荷台に戻り積み荷を確認してたのか。
こちらを背にしてたバックスはわざわざ降りてきて。
「えぇ、こちらとしても願ったりです。あの強さ、寧ろ護衛としてお金を支払ってでもお願いしたいところですが、実のところ商品を卸す前なので新たに雇うほど余裕も無いのですよ。それにギルドとの協定で勝手に雇う事もできませんし、なのであの盗賊の首級金をすべてあなたに、あと入門税もこちらですべて持つといったところでどうでしょう?」
首級金?入門税?うーむこれは道中聞けばいいかの?
「んむ、と言いたいところじゃがワシはお金の事とんと知らんのじゃよ、あとしゅきゅーきんとにゅーもんぜい?これを教えてくれんかの?」
「わかりました。その位、お安いものです。道中お話しますので荷台にどうぞ」
では、とバックスが手を出してくれるのでそれをとって荷台に乗り。
「それじゃあ出発するぜ」とアレックスが御者台に乗り手綱を引けば、パカパカと馬が歩き馬車を曳いていく。
「さてと、どこから話しましょうか」とバックスが思案するのを後目に空を見上げれば。
異世界に来たのだなと実感させる、二つの太陽はまだまだ中天に上りきらず。
一刻半も森を歩いてたと思ったが実際はもっと短かったじゃろうかとひとりごちる。