57手間
翌朝、砂漠の町のギルドへと全員で赴く。そのギルド内はダンジョンが再構成されたという話が伝わった為か、まだ朝早い時間というのに最初に来たときは閑散としていたのが嘘のように人でごった返していた。
そんな中、ダンジョンを踏破した証となる魔晶石の欠片を受付で提出すると、即座にギルド長と会う段取りが整えられた。正直、検査などするのに時間がかかると思っていたので拍子抜けだ。
ギルド長室へと向かう途中で職員にその事を聞けば、ここの職員は見てすぐわかるような人が詰めているとのこと。やり方は企業秘密ということで教えてはもらえなかった。
「さすが二等級が率いるパーティと言う事かな?驚くべき早さだ」
ギルド長室に入るなり開口一番、正面の執務机の椅子に腰かけた人、素早くは動けないだろう程度には肉付きのいい、口の周りにはどこぞの黒い海賊のように髭が生えた禿頭、ハンターのまとめ役というより商人と言ったほうが良いような見た目の人がニッコリと話しかけてくる。
「別にワシが率いとると言う事でもないんじゃがの」
「他の人にとっては同じことですよ。ま、立ち話もなんですしどうぞ腰かけください」
長という割に腰の低い対応の、恐らくギルド長が手でソファーへと促す。
「おっと申し遅れました、私がここの砂漠の町のギルド長を務めています、マーチスです。どうぞよろしく」
「向こうからジョーンズ、インディ、アレックス、カルン、そしてワシがセルカじゃ。こちらこそよろしくの」
全員がソファーに座ったのを確認するとギルド長のマーチスが自己紹介をしてきたので、長いソファーの右から座っている順にこちらも自己紹介を終える。
この部屋、ギルド長、執務机、ソファー用のテーブル、ソファーといった順番という変わった内装をしているが、きっとギルド長の趣味かなんかだろう。
そんなことを考えていると、再度ギルド長が口を開く。
「さて、今回ダンジョンを踏破したということですが、何か成果はありましたか?」
この成果というのはダンジョンの情報、そして回収した遺物の事だ。
「んむ、それについてはワシらが出会った限りの魔物、そして最短かは知らぬが道順も分かっておる。そして遺物は一つだけじゃの」
「遺物は一つだけですか…。いえ、それを除いても最上階までの魔物の情報と道順はかなりいいですね。それではその情報は売っていただいても構いませんね?」
ギルドに情報を買い上げて貰うと、それ以降は勝手にその情報を売ることは禁止される。特に契約書もなく、書いてもそれを監査する第三者機関なぞもなく、契約の魔法もとうの昔に失われている。例外はあるらしいが、この世界の契約は基本的に口約束だ。紙がそこまで安いものでもないし、書いたとしても精々忘れないための予防措置程度でしかない。しかし、ハンター同士の噂話は即広まる。言ってしまえばハンターによる相互監視状態だ。ハンターの主な娯楽など、買い物か酒場かなので噂の力も侮れない、悪評なぞすぐに広まってしまう。
話がそれてしまったが、要するに売ったらもう喋るなよ…と。
「じゃあ、魔物の情報は俺が。道順はこのインディが覚えている」
「では、情報はあちらの人と値段などはこちらの秘書と話し合ってください。遺物も一緒でいいですかね?」
アレックスの申し出を受け、マーチスが近くに立っていた男に指示を出す。
「んむ、遺物はここで出してもよいのかの?」
「えぇ、問題ありませんよ」
その言葉にニヤリとして今回唯一手に入れた遺物、金剛杵の様な動力装置とやらを取り出す。
「そ…それは………」
「ふっふっふ。見事に鳩が豆鉄砲を食ろうたような顔してくれたのぉ」
ギルド長だけでなく、秘書の男も目を点にして口を開けて固まっている。
「はと?まめでっぽ? いや、いまはそれはどうでもいいですね。それはどこで?稼働は…いえ、それは後で調べましょう。とりあえずそうですね…」
マーチスは言葉を切り、顎に手を当て目をつむって何やら考え事を始める。しばらくして考えがまとまったのか目を開いて話し出す。
「あなた達はこの後どうされますか?ダンジョンへ戻りますか?それとも他の街に行きますか?」
「ふむ、そうじゃの。早ければ今日にもカカルニアの街に戻ろうかと思うとる。遅くとも明日には出るの」
「そうですか。では、カカルニアのギルドまでこの動力装置の輸送を依頼したい。もちろん報酬もあります。輸送ルートはこちらで指定させていただきます」
そう言い切ると机から紙を取り出し何やら書き込んでいき、それを封書にして秘書に渡す。
「この封書に詳細は書いておきました。指定依頼ということで、知ってはいると思いますが報酬額の相談は受け付けていません。それとルートなのですが中央が使えなくなりましたので、多少日時はかかりますが東のルートでお願いします」
「中央が使えなくなったとはどういうことじゃ?」
「実は小規模ですが魔獣の氾濫が確認されました。踏破できるほどの実力者、普段でしたらそっちに向かってほしいのですが、今回はものがものですからね」
「魔獣の氾濫とはタイミングが悪いの…それならば致し方ないの」
「氾濫が起きたタイミング…と言うより場所が悪かったと言ったほうが正しいですね、これはあまり知られてないことですが、稀にダンジョンの再構成されたタイミングに合わせて、魔獣や魔物が活性化することがあるんですよ。この辺りの地形や気候はダンジョンの影響によるものですから、魔獣などにも及んでいるのでしょうね」
「なるほどのぉ…。相分かったのじゃ。ワシらが確実に届けてみせようぞ」
「さすがは二等級のハンターですね、実に頼もしい。」
その後、秘書から封書とダンジョンの情報料などを受け取り、お昼には町を出発できるよう各自準備をするために町へと散らばることにした。