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女神の願いを"片手ま"で  作者: 小原さわやか
女神の願いで…?
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538手間

 坂を登り門をくぐった先には千人は余裕で入れるのではと思うほどの広場、どうやら馬車で入れるのはここまでのようでクリスのエスコートで馬車から降り、改めて周囲を見回す。

 千人広場は馬車の小さな窓から見るよりも広く感じ、正面には五階はあるコの字型の立派な宮殿、壁材は白、屋根は朱色と色味や建材自体は街中の建物とそう変わりないが、白い壁面には細やかな彫刻が施され正に白亜の宮殿と呼ぶに相応しい威容だ。

 その宮殿の手前、千人広場の入り口の門から見て左右には宮殿よりも少し装飾が抑えられた同じ様式の四階建ての建物。

 さらに顔を巡らせば、門から流れ出ていた水は城壁に添うように流れ、その先を辿れば左右の建物の裏側を周り宮殿の裏手側から流れてきているようだ。

 それらの建造物が山の麓を逆さまにしたコップでごっそりと削り取ったかのような地形の中に納まっている。

 上空から見た訳ではないが、目の前の宮殿はちょうどその円状の地形の中心から下方向に少し外れた辺りにあるのだろう、宮殿の屋根の向こうに少し木の頭が見えているので裏手には森を内包した広大な庭園があるのかもしれない。


「すごいのぉ……」


「正面の宮殿が私たちが住む場所で、左右の建物が執政を行う所だよ」


「ほうほう」


 騎士たちに囲まれ宮殿に移動しながらクリスが指さしながら教えてくれる。確かにいわれてみれば左右の建物からは人の気配が多く感じる気がする。

 クリスに手を引かれて宮殿のちょうど中央、コの字のへこんだ部分にある豪奢な入り口に向かうのかと思ったのだが少しそれ、コの字の突き出た部分のワシから見て左手側にある中央のモノより幾分か落ち着いた雰囲気の入り口へと進む。


「む? 入り口はこっちなのかえ?」


「中央の入り口を使えるのは猊下だけだからね」


「ふむ」


 なるほどと感心しているとワシらを囲んでいた八名の騎士たちが左右に別れ、入り口を警備していた二人の騎士を先頭に、内側を向いて剣を胸の前に掲げ道を作る。

 あまりにも仰々しい出迎えにざっと一歩引いていると、いつものことなのかクリスは特に気にすることなく騎士が作った道を通り扉の前に立つ。

 すると一体どこでこちらの動きを見ていたのか、中から侍女が扉を押し開き素早く脇へと下がって頭を下げる。


「おかえりなさいクリス」


「ただいま戻りました母上」


 中で待っていたのは、くしゅくしゅと指で握ったようなウェーブの付いたプラチナブロンドの髪を肩まで伸ばし、トロンとした群青色の瞳をした露出の少ないシンプルな若草色のドレスに身を包んだ女性。

 クリスが母と呼んだその女性の手には一歳くらいだろうか、ふわふわとした綿菓子を金に染めたような髪に群青色の瞳をぱっちりと開いたかわいらしい女の子、フリルたっぷりの薄紅色のドレスを着ているからかその子を抱く母の若草色のドレスと相まって草原の中にパッと花が咲いたようにも見える。


「母上、その子は?」


「この子はステファニー、貴方の妹ですよ」


「おぉ、そうなのですか」


 子供の見た目からしてクリスが学院やらに行っている間に産まれた子なのだろう、初めて見る妹にクリスが相貌を崩す。


「それで、私にはその子を紹介してくれないのかしら?」


「彼女は私の婚約者のセルカです」


「はじめましてなのじゃ」


「はじめまして」


 紹介しろなどと言っているが、ワシを見た時の落ち着きなどからすでに聞き及んではいるのだろう、ただニッコリと微笑む瞳の奥でワシを観察しているのは親としての性だろうか。

 ひとまずお眼鏡には適ったのか、その場では何もなく立ち話も何だからという彼女の言葉を合図に脇に控えていた少し白髪まじりの黒髪をピシリと後ろに撫でつけた、モノクルが似合いそうな家令の案内で宮殿の中の一室へと通されるのだった……。

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