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女神の願いを"片手ま"で  作者: 小原さわやか
女神の願いで…?
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537手間

 パシャリと時々魚が跳ねる湖面を眺め、橋を行き交う人々を観察する。

 威厳のためかワシの乗る馬車の速度は徒歩の人たち以下、そんな馬車とすれ違い追い越していく人々の格好は、決してみすぼらしくは無いものの決して華美とはいえない質素なものばかり。


「ふーむ、随分と飾らぬ者が多いのじゃなぁ……」


「彼らは巡礼の者ではないけれど、礼拝の行き帰りだからね。基本的に神都に住んでる者がこの橋を使う時は乗合馬車に乗ってるから、徒歩は乗合馬車とのタイミングが合わなかったか、巡礼者や礼拝しに来る人たちなんだよ」


「ほほう、なるほどの」


 徒歩以下の速度になっているとはいえ、それなりに移動している筈だがまだ湖を渡り切っていない、散歩がてらにというのであればよい景色だが、それを毎日などとなれば少々煩わしく感じるかもしれない。

 確かに言われてから観察すれば、すれ違い追い抜く馬車の大半は何かの荷物を積んだ荷馬車だが、その中に幾つか後ろに乗り込むためのステップが付いた幌馬車が混じっている。


「乗合馬車は誰でも乗れるけど、神都に住んでいる者ならば無料で乗れるんだよ」


「ふむ、日常の足という訳じゃな」


「そうだね、神前街で働いてる人やそこに買い物に行く人の為にだね、以前は彼らもお金を払わないとダメだったけど、父が毎日一往復する値段より安めのお金で税に上乗せする形で支払うようにしたんだ」


 なるほど月額利用料というやつかと考えていると、幕が引かれるように景色が街中へと切り替わる。

 白い壁面に朱色の三階建ての建物と見た目自体は対岸の街、神都の前の街だから神前街というらしいがそこと大して変わらない、だがなんと表現すればよいだろうか神前街を快活なと言うならば、神都は楚々としたといえば良いだろうか。

 だが決して活気が無いという訳では無い、祭りや宴の様な大声をあげ人夫が歌を歌うような活気でこそ無いものの、静かな大河が流れるようなそんな雰囲気を感じる街だ。


「ほう、これが神都かえ、ほうほう……」


「すごいだろう? 神都は城と遺跡の部分以外は全部湖の上に建っているんだよ」


「おぉ、それは何とも雅じゃのぉ、もしや家々が水路で繋がっておったりするのかの?」


「全部の建物ではないけれど、確かに水路側に荷上場や玄関がある家もあったりするけど誰かに聞いたのかい?」


「いや、何となくそう思っただけじゃ」


 神都と仰々しい名が付いていなければきっと水の都と呼ばれていたことだろう、その予想に違わず水路の関係か、うねる様に街中を進むたび大小さまざまな水路を越え、その水路を通るこれまた様々な荷や人を乗せる小舟に胸躍らせる。

 街であるからには当然であろうが、神前街ほど賑わってははいないものの神都側にもお店はある、閑古鳥が鳴いているという訳では無く皆静かに買い物を楽しんでいる風だ。

 神前街の喫茶店がワイワイと話を楽しみながらお菓子を食べるのに対し、神都の喫茶店はゆっくりと落ち着いてお茶とお菓子の風味を楽しむ、どちらもワシは好きだが強いて言えば前者だろうか。


「神都に住んでる人でも結構そう言う人は多いからね、だから基本的な買い物はこちらで出来るにもかかわらずわざわざ神前街まで足を延ばす人も多いんだよ」


 よほどワシが興味を持ったモノは分かりやすいのか、クリスがワシの横から外を確認しつつ色々と説明をしてくれたので、街中を移動する時間は今までで一番早く過ぎたように感じる。

 そうしてようやくたどり着いたお城の前、クリスが言うにはここから陸地らしく少し坂を登った先に四階建ての建物に匹敵する城壁と門の左右からゴウゴウと街の水路へと流れ落ちる段々となった小さな人工的な滝。

 坂の上にあるという事もあり城壁の高さは本来の高さ以上の威容を感じ、お城の姿をすっぽりと覆い隠してしまっている、城に近づくほどにまるで体が軽くなる様な高揚感を感じ、一体どんな場所なのだろうかと年甲斐も無く目をキラキラとさせるのだった……。


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