535手間
タタンタタンと規則的な車輪の音が聞こえる、クリスの言う通り神都の一つ手前の町からの街道は舗装された石畳の道で元々少なかった振動が殆どなくなりかなり快適に過ごせている。
ただ、窓から見える景色は遠くに薄く雪が積もった蒼い山々と、槍の穂先を幾つか重ねたような見た目の木々の林が続くだけで代わり映えが無い。
クリスの話によれば湖はそれなりの大きさらしいのだが、進行方向にあったら見えないのが残念だ。
「それにしても、この辺りは木が多いのじゃなぁ」
「セルカの見ている方の山々から吹いてくる風は酷く冷たいからね、昔の人がその風を防ぐために木を植えたからね。昔の人も結界で天候はどうにかできているけど、風ばっかりはどうにも出来なかったらしい。そういう理由もあって、その林の木々は迂闊に伐れないんだよ。落ちた枝や倒木ならば問題ないけれども、許可のない伐採は罰せられるのさ」
「ほほう、なるほどのぉ」
天候が安定しているとはいえ気温は暖炉から火を消すには至らない、そこまで密度の高い林でも無さそうだし、毎日消費される薪目的で伐採したら一気に禿げてしまいそうだ。
それこそ寒さ対策に寒い風を防いでいる林を消してしまえば本末転倒、勝手に伐採したら罰せられるのも納得だ。
クリスが話しかけてくれたついでに窓から目を放し、クリスの居る方、進行方向を見て左手側の窓をちらりとみるがそちらはかなり近い、というかすぐそこに見える山々と林の代わりに川があるだけでそこまで風景に違いは無さそうだ。
「ところでクリスや、神都へはあとどの位で着くのかえ?」
「そうだね……山と川もかなり近づいてるし、そろそろ湖が見えてくるはずだよ」
ちらりと外を確認したクリスの言葉通り、すぐに川幅が広がり奥は一気に山が沈むのではと思うほどの麓まで、手前は段々と街道に迫ってきて広がる湖から逃げるように街道は湖畔を迂回するように曲がっていく。
今まで変化の殆ど無い景色を見ていたこともあり夢中で外を見ていると、まるでこれでお終いとばかりにカーテンを閉める。
「む、なんじゃ良いところじゃったのに」
「良い所だからさ、ぜひとも近くから見て欲しいからね」
「むぅ」
仕方が無いので反対側の窓から、再び山々と林、時々すれ違う馬車などを見ていると不意にクリスがワシの肩を叩いて呼ぶ。
更に指をさし窓を示しているので外を見れば五階建ての建物ほどありそうな巨大な壁、これが神都の城壁なのだろうか。
「おぉ、ようやく神都に着いたのじゃな」
「そうだね、といってもここは神都の入り口にあたる街で、正確には神都ではないんだけどね」
「ほう?」
つまり神都にはまだ遠いという事なのだろうか? そんな疑問が顔に出ていたのかクリスが首を横に振る。
「説明……はちょっと難しいから実際に見てもらった方が早いだろうね」
クリスと話している間にも馬車は街の中へと足を進め、窓からは高くとも三階建てほどの白い壁面に土を焼いた物なのだろうか朱色の屋根が可愛らしい建物が、湖へと続く緩やかな坂道にそって立っており湖畔の街に相応しい優雅な光景が広がっている。
「おぉ、これは良い街じゃなのぉ」
「ふふ、そうだろうそうだろう」
街を褒めれば、クリスは我が事を褒められたように鼻を高くする。
水辺に向かってゆく坂道の街というと、王国の港町も似た構造だったがやはり海と湖だと建物の雰囲気も変わるのか、こちらは港町に比べて随分と柔らかい印象を受ける。
だが、神都と呼ぶにはいささか荘厳さが足りないような気もするが、クリスの口ぶりでは直ぐに着くような事を言っていた。
さてどういうことなのだろうかと、街の景色を眺めながらワシは首を傾げるのだった……。




