533手間
今日一日、体調を崩した騎士たちの為に休憩するはずだったが、襲われたことで血の匂いに惹かれて獣が来ないうちに急遽移動する事になった。
既に二名ほどは先行しているらしく、残りの護衛八名と使用人や侍女ら十数名と天幕を畳み出発する頃には、もうしばらくしたら陽も真上に昇りきろうかという頃合いだった。
一番近い宿場町へは、今いた野営地から丁度朝に出て夕方着く距離らしく今日も野宿となる。どの道予定通りでも今日は野宿だったので問題は無いと思うのだが、急な移動を挟むので休む時間が減ることが騎士としては気がかりだったらしい。
それも騎士自身のではなく、ワシとクリスの……という辺り何とも騎士らしいと言うか、賊をボロ雑巾よりも酷い状況になるまで拷問した者たちと同一人物とは思えないほどの紳士っぷりだ。
「しかし宿場町のぉ、今更じゃが修行がどうのと言うておったから、神都までの間には無いと思うておったのじゃが」
「あぁ、宿場町は商人の為だよ、巡礼の人は宿には泊まらず聖堂で一夜を過ごすんだ。次の聖堂までの食料なんかもそこで貰うんだよ」
「ふむ? 食料とな?」
流石にただのヒューマンが飲まず食わすで数日歩き通しなど不可能だろうが、巡礼と聞くとその手の事に厳しいようなイメージがあったので、馬車の中で暇ということもありついつい聞き返してしまう。
「今は猊下が表に出てこないから少ないけども、普段はそれなりの数の巡礼者が居るから、次の聖堂にたどり着くには少し少ない程度の食料だけどね」
「ふむ、少ないとはいえ食料が貰えるのじゃ、食うに困ったものが巡礼者を装って貰いに来るとか無いのかえ?」
「ははは、それは大丈夫だよ。食料を与えるのはこの結界内の聖堂だけで、巡礼者を装わずとも聖堂で一日奉仕すれば、その日の分の最低限の食べ物と僅かなお金を貰えるからね。もちろん下手に巡礼者を装えば罰せられるっていうこともあるけどね」
「なるほどのぉ」
結界内だけというのは宗教上の理由か、結界内が安全だからこその余裕のどちらか……いや両方の理由でだろう。
「なるほどのぉ、食料をあまり用意できん者でも巡礼をしやすくという事かえ、なかなか考えられとるのぉ」
「いや、巡礼者は結界内では聖堂で清められた物以外は、身一つで居なきゃならない決まりだからだよ。一応獣を追い払うための武器であれば、清めて貰った物であれば持っても大丈夫だけどね」
「結界内では……なのじゃな」
「流石に結界の外じゃ魔物に襲われるからね、護衛を雇うも馬車でくるも結界の外までは自由なんだよ。ちなみに身につけている衣服も自分の居た所か、道中の聖堂で清めてもらうんだよ」
「ふむふむ、しかしそれでは獣は追い払えても盗賊の格好の的では無いのかえ?」
「それも大丈夫さ、巡礼者を襲うのは相手が例え平民であろうと貴族を襲う並みの重罪だし、喜捨の為のお金くらいしか持ってないからね。敬虔な者を襲えば神罰が下るし、盗賊は験を担ぐから襲わないんだと父が言ってたんだよ」
「ほほぉ」
流石に宗教国家だけあって、その手の者に手を出すのには、さしもの盗賊も尻込みするのかと感心する。
しかし、馬車でも数日はかかる道のり、徒歩で身一つとなれば中々に大変な行程だろう。それほどの苦労をしてまで行きたい神都とは一体どんなところか、否が応でもワシの期待は高まりそれがまさに期待通りと気付くのは数日後の事だった……。




