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女神の願いを"片手ま"で  作者: 小原さわやか
第二章 女神の願いでダンジョンへ
52/3462

50手間

 十五階層。ボスに遭遇することも、誰も大きく負傷することも特になく、食料なども十分残っていたため、十階層と同じく転送装置の傍でキャンプを行い、今まさにこれから出発しようというところだった。


「う~む、なんぞ人の悲鳴のようなものが聞こえたんじゃが」


「聞こえたか…?セルカ以外聞こえてないとするとかなり離れているな。問題があったとしても、俺たちが駆けつけるのは無理だな」


 アレックスが皆に問いかければ、ワシ以外聞こえてないと首を横に振る。聞こえた悲鳴も微かに耳に入った程度で相当な距離があるのがわかる。確かに今から救援に向かったとしても手遅れだろう。

 それに、万が一魔物が獲物をおびき寄せるための鳴き声だったら目も当てられない。とはいえ断末魔じみた鳴き声なぞ、引っこ抜いたら絶叫するという伝承のマンドラゴラぐらいなものぐらいしか思い浮かばぬが。

 そんな魔物がいるとも思えないし、第一植物は魔獣にはならないし、ましてや魔物になることはない。


「念のため聞くのじゃが、悲鳴に似せた鳴き声で人をおびき寄せる魔物なぞおらんじゃろうな?」


「なんだその物騒な魔物は。俺が知る限りでは、そんなやつは見たことも聞いたこともないな。みんなは?」


 皆知らないとばかりにまたも首を横に振る。とそこで最初の人の悲鳴という件から若干そわそわしだしていたカルンが口を開く。


「あ、あの。悲鳴が聞こえたのなら急いで救援に出発しませんか?もしかしたら間に合うかもしれませんし」


「いや、悪いが今までと同じペースか、場合によってはさらに慎重に進む。セルカだけに聞こえたとなると相当な距離だ。急いでも手遅れだよ」


「で、でも」とアレックスにカルンが詰め寄る。


「ワシもアレックスと同意見じゃな。聞こえたといってもほんに微かじゃ、魔物の雄たけびを聞き間違えたと言われたとしても否定できん程に微かな程にの。それに人の悲鳴だったとしたら、聞こえたのは断末魔の類じゃ。アレックスの言う通り手遅れじゃよ」


 カルンはその言葉を聞き「そんな…」と悲しいような失望したような顔を浮かべる。


「そんな顔をするでない。ワシとしても、近くにおるんならできる限り手は差し伸べたいとは思うのじゃ。けれども場所もわからぬ、距離もわからぬ、まして人の悲鳴だったのかもわからぬでは…の」


「そうですか」とうなだれるカルンの背中をアレックスが思いっきり叩く。


「ハンターが、ましてや男がいつまでもそんな女々しい事いってんじゃねーよ。きっちり割り切ってるセルカの方がよっぽど男らしいじゃねぇか!!人死になんざハンターやってたら幾らでも出る、落ち込んでたらきりがないぞ」


 背を叩いた手でそのままカルンの頭をワシャワシャと乱暴になでながら諭す。その言葉に何か感じ入った事があったのか、カルンは一度ぎゅっと目を瞑り杖をしっかり握り締める。


「はい!僕もセルカさんに負けないくらい男らしくなります!」


「よし、それじゃいつまでもここで突っ立ってないで出発するか」


「男らしい…のぉ…」


 カルンの決意を込めた目を見て満足したとばかりにアレックスが大きく頷いて出発の声をあげるが、その二人の会話にいろんな意味で苦笑いするほかなかった…。

 ひと悶着あったが無事出発するも、最初の角を曲がったあたりから今までのダンジョンとは全く違う様相にまたも足を止めるのだった。


「これは何ともまぁ…」


 今までも一部崩れて溶岩が流れているということはあったのだが、まるで冷え固まる直前の溶岩でできた鍾乳洞の様な場所と、今までの階層で散々見ていた白い石材で出来た通路を無理やり融合させたような、奇妙な光景が広がっていた。

 一部蒸気が吹き出たり、壁面から溶岩が滲み出しているところまである。固まった溶岩部分に念のため水をかけてみるが、ジューっという音とともにゆっくりと蒸発はしていくので、接触してしまった場合でも火傷くらいはしても即座に命に関わるほどの温度ではなさそうだ。


「一応は大丈夫そうじゃし、進むしかないの」


 ワシのその一言でジョーンズは再度先へと進みだす。有毒ガスでも噴出していたらどうしようもないが、鼻をつく刺激臭も無いし火山性というわけでもなさそうなので、そのあたりは諦めるしかないだろう。

 一人ため息をつき、みんなに遅れないようにと歩き出すのだった。











50話と7000ユニークアクセス、ここまでこれたのも皆様のおかげです。



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