49手間
翌朝…かは分からないが、キャンプで一睡し食事を取ってから、更なるダンジョンの上層階へと向かうべく出発する。
ここも今までの階層と同じように、晶石のランプで等間隔に照らされた若干薄暗い通路が続くかと思っていたが、突き当りの丁字路に差し掛かったところ、ゴポゴポと何かが沸き立つ様な音が右の通路から聞こえてきた。
ジョーンズの耳にも聞こえていたのであろう、手で静止を伝えそっと角から右を覗いているその間、アレックスは左の通路から何か出てこないか警戒している。
「こっちは問題ない、火の池が出来てるだけだ。どうやら、こっから漸く本来の火のダンジョンっぽくなってきたらしいな」
その言葉を合図に今度はアレックスが左の通路を確認する。
「左も大丈夫そうだな、このまま進めそうだ」
左へと向かう際右の通路をちらりと覗けば、そこには一部の床が完全に崩れており時折ボゴンと飛沫をあげる溶岩の池が道を塞いでいた。
「跳んで渡れぬ距離ではないが、危険すぎるの」
そう呟いて、溶岩池を眺めている間に少し離されたジョーンズの後ろへ駆けていく。
しばらく進むも、構造自体は単純なものになっていたのだが、壁が崩れそこから通路に並走するように溶岩の川が…こちらの言い方に合わせるなら火の川が流れる。
その流れに道をふさがれ何度も引き返したり迂回を繰り返すことになり、結果として今までの階層よりも随分と次の階層へと登るのが遅くなってしまった。
しかも、川や池からは今までの階層にいた蛾に加え、全身が炎や溶岩で構成されたウサギが混じり始めていた。
「なんともまぁ、暑苦しいウサギじゃの。ジビエは好きじゃが、あの様子では丸焦げで食える場所なぞなさそうじゃな」
十メートルほど先の火の川の中から現れた蛾とウサギの混成部隊をみてひとりごちる。
「じび?………いやいや、食える食えない以前に魔物だろ!」
その独り言に、ジョーンズが至極まっとうなツッコミを入れてくる。
「冗談じゃよ冗談。カルン!インディ!蛾は無視してもよいから、あのウサギを優先的に倒してくれんか!」
「はい!」
カルンの元気な返事が聞こえ、前を向いてるため確認はできないがおそらくインディも頷いているであろう。
ウサギの様な外見をしてるとはいえ魔物は魔物だ。魔法を使ってくるかもしれないが、あの体での体当たりだけでも十分に脅威だし、接近される前に倒して損はない。
「溶岩を纏った体当たりを食らうなぞ想像しただけで恐ろしいの」
そういってる間にも、ぴょんぴょんと見た目だけは可愛らしい動きでウサギがこちらに迫ってくる。
初手で何もしてこないところを見るに魔法が使えないか、蛾のように極端に射程が短いのであろう。
ウサギの動きを観察していると『アイスボルト』と二人の声が聞こえ、ウサギ目掛けて氷柱が飛んでいく。
氷柱の内、何本かはウサギを貫き塵へと返したが、直撃を免れたか回避に成功した何匹かのウサギは未だこちらへと迫っている。
「魔法は使ってこぬようじゃな。あとはワシらで仕留める、体当たりなぞ食らうなよ!」
魔物同士で特に連携を取るつもりも無いのか、ウサギだけが突出してこちらへ迫ってくる。
その内の一匹がこちらに向かってきた。迫る勢いのまま頭を下げ、まるで猛牛の角のように耳を前に突き出し、ワシの足めがけて突っ込んでくる。
「ふむ、突進をするときは前を見据えぬと危ないぞ。そこにあるのは赤い布なぞではなく………」
狙われていた右足を引き、未だ足のあった場所めがけて突っ込んでくるウサギの目の前に右手を差し出す。
「ワシの爪じゃからの!」
ウサギは突進の勢いで自ら爪に切り裂かれ塵と化す。仲間が無残にも切り裂かれようと、意に介さないとばかりにほかのウサギも続々と頭を下げ突進してくる。
「魔法も使わぬ、首を狙わぬのならあとは叩き潰すまでよ!」
叩き潰し、時に薙ぎ払いウサギを一掃した頃、ようやく蛾の大群が追い付いてきた。
再度カルンやインディの魔法で間引き、その後に追撃を加えものの数分でウサギと蛾の大群は討伐された。
「ふぅ、まさに当たらなければどうということはない奴らじゃったの」
「掠りでもしたらやばいがな。その代わり脆いのか一撃で倒せるのが救いだな。ところで首がどうのこうの言ってたが、そういう奴に警戒したほうがいいのか?」
「ん?あぁ、ワシも話に聞いただけじゃが、耳が刃になっとるウサギがおっての?それが首を刎ねにくるそうなんじゃよ」
「うわ、えげつねぇ事してくるウサギだな…そんな奴に遭いたくないが、同じウサギだし警戒しておいて損はないな」
「そうじゃの、警戒しておいて損はないじゃろうの。とはいえそのウサギに遭う事なぞ無いじゃろうし、頭の片隅に留めておく程度でよかろう………ゲームの話じゃからの」
しかし、居ないと断定することも出来ないのがこの世界だ。たとえウサギだとしても、魔物であれば警戒しすぎても無駄にはならないだろう。
その後も十五階層を目指し、進むほどに段々と壁や床、天井は崩れて遺跡から地獄へと様相を変化させていくダンジョンを登っていく。
くびをはねられた




