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女神の願いを"片手ま"で  作者: 小原さわやか
女神の願いで…?
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477手間

 砦へと到着して二日、その間はずいぶんと静かなものだった。

 おかげで万が一の際の避難経路の確認に加え、魔物が来た際のワシらの配置まで確認することが出来た。

 この配置確認の時、魔物が襲撃してくる側の城壁の上から見えた景色は魔物が跋扈する地域だというのに美しかった。

 麓まではここと同じ岩山だったのだが、そこから先は森や草原、湖や川が折り重なる光景、肥沃な大地という言葉がぴったりだ。


「ここからの光景、お気に召していただけましたかな?」


「うむ、ここから見ているだけでは、魔物が蔓延る地とは思えんほどじゃのぉ」


「この砦が外縁砦などと呼ばれるよりずっと昔は、あの辺りにも街があったそうです」


「ほう…ふぅむ、いわれてみれば確かに何ぞか崩れた跡が見えるのぉ」


 ワシとクリスの傍に控えていたノイマン伯爵が、景色に見とれるワシへと声をかける。

 彼が指し示す方を見れば、確かに木々や何らかの植物に覆われてはいるものの、その隙間から砦か城か何らかの建造物が崩れた物が見える。


「流石、獣人は目がよろしいですね。ここで日々見張りや巡回をする身としては羨ましい限りです」


「む? なれば獣人をここに置けば良いのではないかえ? ワシほど見えぬじゃろうが、それでもおぬしらヒューマンよりは目や鼻が利くはずじゃが」


「ご存知でしょうが、獣人はそれなりの数にならない一所(ひとところ)に留まるのは苦痛のようでして、巡回もここから見える範囲ではあまり魔物も出ませんから」


「ふむ? ここから見える範囲で魔物が出ぬのであれば、開拓しても良いような気がするのじゃが?」


 峠からの景色、見える範囲といってもかなり広大だ。

 魔物があまり出ないというのなら開拓するには最適、なのに彼らはここから動こうとしていないとはどういう事だろうか?


「えぇ、昔同じことを考えた方がおりまして、開拓に出た方が居たようなのです。拠点が出来るまでは仰る通り魔物は殆ど襲撃してこず、来たとしても駐在する兵で対処可能な範囲、ですがある程度拠点が発展しもうそろそろ町といっても差し支えない頃、今までとは比べ物にならない量の魔物の襲撃を受け一晩でその開拓拠点は滅んだそうです。見ての通りあの辺りは遮蔽物が少なく守り辛いのです、さらに開拓拠点にし易い平坦な場所であれば尚更…」


「なるほどのぉ…」


 あの廃墟はもしかしたらその時のものかもな、などとぼうっと考える。


「クリストファー様、セルカ様。そろそろ外は冷えます故、すぐに夕食の支度をさせますので中に」


「うむ、そうじゃな」


 ワシとクリス以外はそこまで景色に興味が無いのか、配置の確認が終われば早々に戻ってしまった。

 だからこそのんびりと景色を見れたのだが、そろそろ陽も陰りここは山の頂付近、そうなったら気温は一気に下がるだろう。

 今のワシは人並みに暑さ寒さを感じるので、ノイマン伯爵の提案に否やは無く客室へと戻る。


「よもやここまでのんびりする事になるとは思わんかったのぉ」


「そうだね、だけどその分焦らずに済んでよかったじゃない」


「それもそうじゃな」


 確かにワシにとっては魔物なぞ取るに足らない相手だが、クリスらにとっては初の戦闘、いや下手をすれば魔物を見るのだって初めてかもしれない。

 そんな状況でいきなり魔物の集団が来ましたなどとなれば、パニックになっていたっておかしくはない。

 とはいえここまでのんびりしてると逆に気が抜けて、襲撃されたときにパニックになることもあるかもしれない。

 クリスが使っている客室で一緒に用意された夕食を食べ、ノイマン伯爵の好意で譲ってもらった茶葉で食後のお茶を楽しみながら話していると、遂にその時がやってきた。

 カンカンカンカンと焦燥を音で表したかのような警鐘が砦中に響き渡る、それと同時微かにではあるが「敵襲」と叫ぶ兵たちの声。

 その雰囲気にクリスが身を固くしていると、ドンドンドンと少し乱暴に扉がノックされ、アニスが誰何する前に扉が開かれる。


「ご無礼をお許しください! 魔物がやってきました。見張りによればもう間もなく魔法の射程に入るかと、つきましては…」


「うむ、では急いで行こうかの。クリスも良いな?」


「あ、あぁ」


 クリスの声が少し震えているが武者震いという事にしておこう。

 手早く残りのお茶を呷ると、少々大股で歩くノイマン伯爵の後に続いて城壁の上へと向かう。

 物を城壁の上にあげる為か、そこまでの道がスロープとなっていたのは幸いだろう、でなければワシをわざわざ抱えて上がらねばなかっただろう。

 冷たい夜風にぶるりと身を震わせ、城壁の上から見下ろせば、ゆらりゆらりとこちらへ向かうまるで大地が動いているのではと錯覚するほどの魔物の大軍がこちらに向かっているのが目に入るのだった…。

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