473手間
杖を利用した法術の訓練が開始されて数日、数回に一度という頻度の者も含めれば、ヘロヘロボールながらも皆的に火種を当てれるようになってきた。
クリスは流石というべきか、少々山なりながらもほぼ真っすぐに的へと飛んでいる、例えるならば他の者たちがまだおっかなびっくり投げている素人ならばクリスのものはプロの投球だ。
ワシのモノを例えるならば砲弾だろうか、法術を飛ばすということに悪戦苦闘してる彼らに比べワシは『狐火』として以前から使ってきたのだ、法術を飛ばすなぞ実に慣れたもの。
「うーむ、しかしこれでは目くらましにしかならぬのぉ…『狐火』には遠く及ばぬ」
「きつねび?」
「うむ、ワシオリジナルの法術じゃな。といっても法術と同じやり方なだけで消費するマナの量も威力もけた違いじゃがな」
「ふぅん…それはいま使えるの?」
「無理じゃのぉ、どこぞからマナを引っ張って来ればやれんでも無いじゃろうが」
「あ、ほらマナを溜める魔導器を使えば」
「うぅむ、どうかのぉ。そもそも魔導器を使うのならば杖を使こうて魔法を使った方が良いと思うのじゃ」
「む、それもそうか」
『狐火』は端的に言えば力こそパワーなゴリ押しな法術、杖を使って疑似的に魔法が使えるのであれば同じ量のマナを使いもっと大規模な魔法が使える。
だがしかし、火種に狐火を乗せることは出来るんではないかと考え込んでいると、すくい上げるようにクリスがワシの髪を触る。
クリスは少しその手の中でワシの髪を弄ぶと、そのまま口付けするんじゃないかと思うほどその顔に近づける。
「セルカ」
「な、なんじゃ?」
「ちょっと法術をあの的に当ててくれないか?」
「このままかえ?」
「あぁ」
髪を一房持たれたままというのは中々恥ずかしい、控えめながらも一緒に訓練をしている令嬢方から黄色い声まであがっている。
そんな状況で法術を使えとはいったいどういうことだろうか、しかし使わねばこの状況から脱することも出来ないだろう、ワシは嘆息してからクリスに言われた通りに的へと火種を当てる。
「やっぱり…見間違えじゃないか」
「どうしたのじゃ?」
「セルカが法術を使う時に髪が光ってる」
「なんじゃそれは!?」
「私も初めは陽の光でも反射してるのかと思って見とれてたんだけどね。何度か見てたら陰になってるときも光ってたから、もしかしたらと思って今使って貰ったんだけど見間違えじゃなく光ってたよ」
法術を使ったら髪の毛が光るとはいったいどういうことだろうか、ワシほどのものがそんな風になれば絵にもなるだろうが、何でそんな事になってるかはさっぱり分からない。
ふーむふーむと唸っていると遠くからカーンカーンカーンと今まで聞いたことない鐘の音が響き、途端ワシ以外の人たちが今までのゆるゆるとした雰囲気から一転ピリピリとした空気を発し始め訳の分からないワシは一人おろおろとするのだった…。




