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女神の願いを"片手ま"で  作者: 小原さわやか
女神の願いで…?
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465手間

 モルティフェルムの葉の煎汁を飲んだ翌朝、当然一杯飲んだ程度では大して効果が出るものでも無く、寝る前のマッサージの際も心持ち動かしやすいか? と思う程度だった。

 毎晩続けていたマッサージなどのおかげか、以前よりも足が動く様になったものの、まだまだ体を動かす程の力は入らない。

 いつもより起きるのが早かったのだろうか部屋の中は薄暗く、外は風が強いのかビョウビョウと身を震わせる声が聞こえる。


「おはようございます、お嬢様」


「うむ、おはようなのじゃ」


 ぐるりと部屋の中を見回してるとワシが起きたのに気付いたのか扉がノックされ、ややあって侍女たちが中へと入ってくる。

 ワシの身支度を整える為に部屋へ入り、恭しく礼を取る侍女たちにの中にアニスの姿は無く、今日は非番かなどと起き抜けのぼうっとした頭で考える。

 そのアニスであるが、ワシがクリスと正式に婚約した折にエヴェリウス侯爵家からヴェルギリウス公爵家に移り、ゆくゆくはヴェルギリウス公爵家の侍女長という大出世を果たした。

 そしてヴェルギリウス公爵家からワシを大事にしているというアピールと未来の侍女長であるアニスの予行練習の為か、両手の指では到底足りぬ人数の侍女が送り込まれ学院内の屋敷であるにも関わらず、ここも随分と賑やかになった。

 クリスに言わせればこれでもまだ少ないそうなのだが、いったいどこまで増やすのかというよりも公爵家には侍女だけでいったい何人いるのだろうか。

 そんな詮無いことを考えている間にも、テキパキと侍女たちがワシの身支度を整えていく。


「本日学院はお休みですので、朝食はいつお召し上がりになりますか?」


「ふむ、いつも通りクリスと一緒に食べるのじゃ」


「かしこまりました」


 学院が休みであるのなら、身支度を終えていそいそと朝食をとる必要もない。

 なので身支度を終えのんびりしてから朝食という事も出来るのでその確認なのだが、そこではて今日はお休みの日だったろうかと首を傾げる。


「休日は今日では無かったと思うのじゃが、何かあったのかえ?」


「はい、本日は天候がすぐれないためお休みとなりました」


 そう侍女の一人が言い、手すきの侍女がカーテンを開けば窓から見える景色は猛吹雪の真っ最中だった。

 確かにこれでは学院はお休みかなどと一人納得している内に、暖炉で温められた水が入った桶が持ってこられ洗顔などの準備が整う。

 顔が洗われさっぱりとし目が覚める、お次は洗顔で少し濡れた髪がきれいに拭かれ、ワシの場合寝ぐせもくせ毛も無いので殆ど撫でる程度に髪が梳かれる。


「お嬢様の御髪はいつ見ても、銀がその身に価値があるのかと嘆くほど輝かんばかりにおきれい…で……?」


「どうしたのじゃ?」


 尻尾と並び髪の毛もワシの自慢、たとえお世辞であろうと誇らしい。

 しかし、今日も言ってて恥ずかしくないのかと思うような美辞麗句を侍女が述べている途中、何かあったのか言葉が途切れる。


「輝いて…おりますわね?」


「えぇ…」


「確かに…」


 ざわざわと周りの侍女たちも、ワシの髪を見ては神妙な面持ちで頷いている。


「お嬢様、お体の調子はいかがでしょうか?」


「ふむ、特に変わったところは無いのぉ」


 侍女に言われて考えるも、これといった体調不良は感じない。


「何かあったのかえ?」


「えぇ…その、いえお嬢様ご自身で確認なされた方が分かりやすいかと」


 そう言ってワシの髪を梳いていた侍女が、ワシの髪を一房持って見やすいようワシの前へと出してくる。


「ふむ? 特に変わったようなところは……あるのぉ…これは、どういうことじゃ?」


「私どもにもさっぱり」


 流れるような銀糸の髪、その半ばから徐々に鮮やかなグラデーションで毛先に行くにつれ銀に翡翠を混ぜたかのような美しい薄緑に変わっていき、グラデーションになっている辺りからまるで蛍のように薄ぼんやりと発光している。


「お嬢様、本当にお体に何も差しさわりは無いので?」


「うむ、不調も何もないのじゃ、むしろ調子が良いくらいじゃの」


「では、これはいったい……」


 ここに髪の毛を染めるという風習は無い、それを知っているワシにはメッシュという言葉が浮かぶが髪染めにありがちな不自然さも無く、ともすれば生来この髪色では無いのかと勘違いしそうなほど自然なグラデーションとなっている。


「御髪が宝石のようにお綺麗ではあるのですが…。申し訳ございません、この様なことにお詳しい方を私どもは存じ上げませぬ」


養父様(おとうさま)はどうかの?」


「エヴェリウス侯爵閣下が、神都を御立ちになったという知らせは受け取っておりませぬので、お帰りはいつになるのか」


「ふぅむ…神都で養父様(おとうさま)が滞在しておる場所は分かるかの?」


「はい、エヴェリウス侯爵閣下はご自身のお屋敷をお持ちですので恐らくはそこに居られるかと」


「では、そこにこたびの事で手紙を出して欲しいのじゃ」


「かしこまりました」


 早速用意するのだろう、一人侍女が部屋を辞するのをみなで見送る。

 今回の原因は分かりきっている、ちらりと目線をやる先には昨晩煮だしたモルティフェルムの葉の煎汁の残り。

 体内のマナの流れから考えるに、これは髪から晶石の粉が舞い散るものの強化版というのが一番近いだろう。

 ならば直接の害はないだろうし、何よりモルティフェルムの葉の煎汁に何らかの効果があることが分かった…ならばやることは一つ。

 モーニングティーの代わりとばかりに、冷めたほうじ茶のような見た目と香りの煎汁を、盛大に顔をしかめながら飲み干すのだった…。

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