46手間
順調に二階層目まで来たワシらであったが、そこからも一階層目が通路だけの構造だけだった所に小部屋が所々に追加された程度で、何の変わり映えも無い光景が四階層目まで続いていた。
話によればこの様な小部屋に遺物が置かれてたりするそうだが、元々無かったのか先に攻略をしてる人たちが持って行った後なのか一つも無かった。
「ふ~む、この小部屋の感じ、あの洞窟の施設にそっくりじゃのぉ…」
「ん~?いわれてみりゃそんな気がしないでもないな」
そう言って今まで休憩に使っていた小部屋の扉を、後ろ手で閉めつつアレックスが答える。
「しかし、何事もなく四階層まで来てしもうたが、火のダンジョンとはこの様なものなのかえ?」
「いや、俺が前に来た時はもっとこう…火の川も流れてて向こうに通路があるのに行けないとかよくあったな。少なくともこんなまともな状態じゃなかったはずだ」
「ワシも話にしか聞いたことは無いしのぉ。たまたま完璧に近い形に修繕されたと考えておくのが良いかの…。魔物も蛆虫の数が増えとるだけじゃし。とはいえあの通路一面の蛆虫は心が折れるかと思うたわい。ほんにカルンが居てくれてよかったのぉ」
そう言ってカルンを見れば、花が咲いた様な笑顔のカルンと、ニヤニヤ顔のインディとアレックスが目に入りとっさに顔を逸らしてしまった。
「なぜカルンの話となるとあやつらはニヤニヤするんじゃ」と独りごちながら先に進むジョーンズの後ろを歩いて行く。
その後もしばらくは通路、蛆虫、小部屋と続く中、今までと違うものをジョーンズが見つける。
「おい、あそこの扉だけ両開きでしかも豪華な感じだ。なんかお宝でもありそうじゃないか?」
指さす先に行ってみれば、そこにはまるで社長室とでも言わんばかりの装飾の施された両開きの扉が存在していた。
「なんぞこの先に偉そうな人でも居りそうな感じじゃのぉ」
「いやいや、やっぱお宝だろ。こんな豪華な扉なんだぜ、期待できるってもんよ」
「ワシならお宝はこの様な無駄に豪奢な扉でなく、堅牢な扉の先に置くがのぉ…。どちらにせよ開けぬという手は無いの」
ゲームではトラップ必至じゃがのと心の中で呟きながら、両開きの扉を押し開く。
その先は真っ暗な部屋で、通路から入る光以外では唯一部屋の一番奥が明るく、そこだけがまるで暖炉であるかのように炎が揺らめいていた。
「お宝部屋…というわけでもなさそうじゃの」
全員が部屋に足を踏み入れた途端、バタンと音を立てて入ってきた扉が勢い良く閉まる。
ついに通路からの光も閉ざされ、暖炉の炎だけが部屋を照らしていた。
「閉じ込められたということかの?トラップは無いという話ではなかったのかえ」
「あぁ、トラップは無い筈だ…いや、一つだけあったか、閉じ込めるタイプのやつが…それは」
アレックスが言い切らぬうちに暖炉の炎が一気に燃え広がり、その火柱の中から何かがゆっくりと姿を現す。
「なるほどのぉ…」
何かが全身を現したのと同時に炎は消え去り、まるでそれを待っていたかのように部屋に明かりが灯り全体を見渡せるようになる。
「ボス部屋…というわけかの」
全員が杖や剣を構えた先に居たもの、それはまるで炎で出来た、翅を広げたら六メートルは超えそうなほど巨大な蛾が飛んでいた。
頭の上で今の今までぐでぐでしていたスズリは、慌てて尻尾へと隠れる。
「炎の中から出てくるならフェニックスが良かったのぉ…もしかして、道中おったのは蛆虫ではのうて芋虫じゃったかの」
その独り言は、まるで無駄話はそこまでだとでもいうかのように、鱗粉の代わりに火の粉を孕んだ蛾の起こす熱風によって掻き消され、誰に届くでもなしに戦闘が始まるのだった。
「カルンとインディは翅を狙うのじゃ。墜ちれば俎上の魚よ!」
「はい!セルカさん!」
背後からの気持ちのいいカルンの返事を合図にジョーンズ、アレックスと共に燃え盛る蛾に突っ込む。
「セルカ!あいつは虫だぜ?」
「比喩じゃばかたれ、まぁ地域によっては虫を食うところもあるらしいがのぉ」
「うげぇ、マジかよ」
ジョーンズと軽口を言い合いながらも間合いへと入り込む。
先ほどから氷柱が翅目掛けて飛んできているが蒸発してしまっているのか直撃しているものは無かった。
「なれば直接!」
アレックスが中央から、ジョーンズは右の翅をワシが左の翅に爪や剣を突き立てようとした瞬間、蛾が大きく羽ばたき炎の渦を生み出す。目の前に迫ってきたそれを横っ飛びに回避して地面を転がる。
「アレックス!ジョーンズ!無事かの!」
「俺は大丈夫だ」「こっちも掠っちゃいない」と二人の声が炎の渦の向こうから聞こえてくる。
炎の渦は消えるも追撃を警戒し、少し離れた場所から三人で囲みつつ隙を伺う。その間にもどんな仕組みかは知らないがホバリングをするその翅からまき散らされる火の粉がちりちりと肌を焼く。
「えぇいウザったいのじゃ!」
煩わしいとばかりに魔手で振り払えば、火の粉がかき消えてゆく。
「ん?おぉそうか、そうじゃったの。魔物と戦うのは久々すぎて忘れておったわ。『ファントムエッジ』」
ニヤリと笑いながら魔手を振りかぶり、一足飛びに間合いへと突っ込んでいく。その姿に蛾はこちらに体を向け、また大きく羽ばたき炎の渦を発生させる。
「ワシにその手はもう効かぬ!」
ぐっと足に力を籠めると背後に回っていたアレックスとジョーンズが、ワシの射線上から飛びのくのがちらりと見える。
そのまま裂帛の気合とともに炎の渦ごと蛾を切り裂けば、その体は六つの炎となりそのまま宙に消えていく。
「はじめからこうしておればよかったの」
残った魔石を拾い上げれば部屋の奥の壁の一部が、ズズズズという重いものを引きずる音と共に下がっていき階段が露わとなる。
「ボスを倒せば道が開くというわけかの、最初のボスじゃから弱くて助かったのぉ」
「いやー弱いわけじゃないと思うぜ?まったくセルカと一緒だと、毎度おいしいところは持ってかれるな」
肩をすくめつつもしっかりと、ジョーンズは階段の先の安全を確認している。
「よし、特に魔物も居ないし、さっさと登っちまおう。この先は転送装置のある場所だから、ここよりは安全なはずだ」
そう言いつつお先にと階段をジョーンズは登っていく。後ろを振り返れば歩いてくるインディと、まるで憧れのヒーローでも見るかのようなキラキラした目を向けてくるカルンの眩しさについついまた顔をそらし慌てて階段を登ってしまう。
「あー、つかれた!それじゃおやすみ」
五階層目の転送装置の認証を終え、一度管理小屋のキャンプに戻ろうという話になった。
かなりの時間ダンジョン中に居たようで、外に出たときはすでに日が落ちていた。そのため急いで戻った後はすぐに夕食を済ませジョーンズの挨拶を皮切りに皆、テントへともぐりこむ。
「あと十五階もあるのかぁ…無事に終えれるとよいのじゃがのぉ」
独りごち砂漠に来てからは珍しく丸まって寝ているスズリを一撫でしてから眠りにつくのだった。
ダンジョン内で遺物はロッカーとか棚の中に保管された状態で発見されます。
ロマンがないね!!




