454手間
そして数日後、養父様の紹介により魔導器のその中でも、この国独自の形である杖専門の職人がやってきた。
「お初にお目にかかります、エヴェリウス侯爵閣下そしてセルカお嬢様。私はブロワ魔導器店のブロワ、ヘイゲル子爵の娘ブロワ・ヘイゲルと申します」
客間のソファーに座ったまま目の前で恭しく礼をとるブロワを、ワシはまじまじと思わず眺めてしまう。
「何かございましたでしょうか?」
「おぉ、いや何。職人と聞いておったからの…てっきり」
「勝手に用意するなら兎も角、誂えるのだ、女性の方が良いと思ってね。」
もっと年嵩の者が…と続けよとしたら、勘違いしたお父様がそう続ける。
目の前のブロワと名乗った女性の見た目は二十代後半ほど、子爵位の者は平民と寿命が変わらないはずなので、職人としてはかなり若いのではないだろうか。
だが見た目こそ若いものの、貴族の令嬢という雰囲気はなく少し色黒の平民に混じっても違和感のない朴訥とした顔に、耳に少しかかるくらいに短く切り揃えられたダークブラウンの髪の毛。
その雰囲気はすでに熟練の職人といった感じだ。
「この度セルカお嬢様の杖を作る名誉を頂き光栄至極。若輩の身ではありますが、必ずやお気に召していただく物を作る所存でございます」
「彼女は若輩などと言っているがね、杖を作る腕は確かだからね。彼女の父親であるヘイゲル子爵が引退しようかと考える程だ」
「ほほう、それは楽しみじゃのぉ…」
養父様曰く、ヘイゲル子爵家は代々杖を専門とする魔導器職人の家だという。
その中でも稀代の名工と言われるらしい現当主ヘイゲル子爵、彼が引退を考える程とは。
それほどの職人を呼んでくれたのだ、ワシに杖の良し悪しなど分かるはずもなく、とりあえず壊れなければ良いと考えていることは黙っておこう。
「早速でございますがそれではまずマナを流す癖を見させて頂きますので、この杖の先に灯りを灯していただきたく」
そう言ってお互いを挟む形にあるテーブルの上に、見た目はさして他と変わらぬ突いて使うには短いが指揮棒よりは少し長い位の杖をブロワが置いた。
「ふむ、これに灯りをともせばよいのじゃな」
「はい、それでその者のマナを流すときの癖が見れますので」
ふむ、と頷くと杖を左手で取り、ぽうっと杖の先に灯りの法術で火を灯す。
「セルカお嬢様は左利きでいらっしゃるのですか?」
「いや、そういう訳では無いのじゃがの。何故か杖を使う時は右手では上手くいかなくてのぉ…」
魔手の影響なのだろうか右手で使おうとすると、途中でかき消されるように法術や魔法が発動しない。
しかし、杖を介さない普通の法術では問題ないのだから不思議なものだ。
「ところで、これは何時までやっておけば良いのかの?」
「もう大丈夫でございます」
そういって恭しく差し出されたブロワの両手の上に杖を返すと、職人の眼光と表現するに相応しい鋭い眼差しで杖をしげしげと隅々まで見始める。
それを見て、どんな風に判断するのだろうかと楽しそうにワシも彼女を眺めるのだった…。




