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女神の願いを"片手ま"で  作者: 小原さわやか
女神の願いで…?
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450手間

 目の前で、男二人が実に物騒な話をし始めた。

 クーデターなぞよそでやって欲しい、できればワシのあずかり知らぬところでひっそりと…。

 そう思い頭を抱えていたのだが、ふと違和感に気付いて悪だくみをしている二人をじっと見つめる。

 ヴェルギリウス公爵とエヴェリウス侯爵、二人は確か急進派と穏健派のトップだったはず。急進派のトップは神王ではあるがそれが見罷ったつまり死んだのなら王弟がどういう立場なのか知らないが、ワシの知る限りであればヴェルギリウス公爵が今のトップであろう。

 何せそれが原因でクリスが喧嘩してエヴェリウス侯爵 ――養父様(おとうさま)のお城に来ていたのだがから。

 しかし、しかしだ。養父様(おとうさま)の話では急進派は神王を除いての最高位は伯爵ではなかったのだろうか…。


「のう…ヴェルギリウス公爵は急進派なのじゃろ? しかし、急進派は伯爵が貴族の中では一番上だと聞いたのじゃが…?」


「ん? その話、誰から聞いた」


 思わず口からついて出た疑問に、ぐるりとヴェルギリウス公爵が顔を向け口を開く。


「えっと、伯爵が一番上というのはおと…エヴェリウス侯爵からで、ヴェルギリウス公爵が急進派というのはクリスからじゃ」


「クリス…ほぅ…。クリストファー、手が早いのは結構だが短慮は駄目だと昔から言っておろう」


 ヴェルギリウス公爵は甘く怜悧な王様といった雰囲気のまま、何故か面白ことを聞いたとばかりにクリスをちらりと見る。

 短慮がダメなのは同意するが、手が早いのもある意味ダメだろう。いや、手が早いとは何をもってそう判断したのだろう? え? 実はクリスってナンパしまくってるのか?


「で、ですが…戦はやはり回避すべきものだったかと…。それなのに父上は猊下を御諫めすることも無く、私が出ていくのも止めなかったではないですか」


「それでか…まず第一にお前が出ていくのを止めなかったのがその先がエヴェリウス侯爵の城だと知っていたからだ、私にある程度意見出来て見知った家と言えばここしかないからな。それにどうせ学院に入学させるのだ、ならば近くにいた方が都合が良いだろう? カルン王太子殿下の様にトラブルで遅れる可能性もあるのだしな」


 流石父親、クリスの行動範囲などお見通しという訳か。


「それと私は…いや、ヴェルギリウス公爵家は中立でなければならぬ。そして神王猊下のお言葉は絶対でなければならぬ、人である我らが意見出来る訳が無かろう?」


「しかしそれでは…」


 そう、神王などと持ち上げてはいるがそれは彼らの宗教での事、ただの人がちょっと行き過ぎた神授王権をやっているだけなのだから。

 武力や恐怖に頼らない、ある種の独裁者ともいえる。今までそれこそクーデターが起きなかったのは奇跡か宗教ゆえにという奴であろう。


「そうだ、だからこそ次の神王には玉座に座らせぬ。神王から神と王を分けさせる、これには神王弟殿下も同意していただいている、かの方は神と王の重責で弱っていくお姿をすぐ傍で見ていたからな…」


「神の座は神王弟殿下が継ぐという事ですか? では玉座には何方が」


 堂々とこの国の歴史を宗教観を変えることを言い切るヴェルギリウス公爵に、クリスがもっともな疑問をぶつける。

 今まで一人に任せていた役割を分けるのだ、二人必要なのは当然であろう。


「そうだ、そして玉座にはこの私が座る。継承の儀の際に新たな啓示として賜る予定だ」


「なる…ほど、父上のご判断であれば。しかし、話は戻りますが神王猊下のお言葉とはいえ、出来る限り戦を回避すべきだったのではないのでしょうか」


「抑えることが出来なかったのだ。伯爵までの下位の者たちゆえ上から押さえつけることは容易い、しかし数が多いゆえにそれも限界だったのだ。矛先が民に向いてはかなわないからな…デグブロ伯爵が確実な勝算があると言っていたのもあってな、まさか猊下に奏上したエヴェリウス侯爵を(けい)を将に猊下が据えるとは思わなんだが」


 確かに下のモノを抑え込んだ挙句に滅んだ国などこちらでは知らぬが幾らでもあるだろう、しかし聞き捨てならないことを言っていたな。


「そのデグブロ伯爵が言っていた確実な勝算とは何なのじゃ?」


「流石にそこまではな、あれの縁者が王国に居ることは知っているので、それ頼みだとは思うのだが…」


「ほう…」


 ヴェルギリウス公爵の様子から本当に彼は知らないようだ、だがワシには一つ思い当たる事がある恐らくはデアラブ侯爵の蛮行の事だろう。

 ワシの口からため息とも唸り声ともつかぬ声が漏れ、ガタリとクリスと養父様(おとうさま)が腰を浮かせるが、ヴェルギリウス公爵だけは涼やかにワシを見つめている。


「その様子では何をしたのか知っているようだな」


「さてのぉ…心当たりはあるが証拠がないからの」


「そうか、だがそうだな…その勝算とやらで他の者を焚き付けたのは事実、デグブロ伯爵には何らかの処罰を受けてもらう。死者が出なかったとはいえ戦には敗けたのだからな、魔導器が六機全損…彼の資産ですべて賄えるかな?」


 先ほどクリスに見せたのは別種の面白いモノを見つけたような顔で、ニヤリとヴェルギリウス公爵がワシを見るので思わずついっと視線を逸らしてしまう。

 確かにアレは高いと一機で家が建つといわれていたが、たった六つで伯爵でしかも人を焚き付けれるくらい立場の強い者の資産を食いつぶす程とは…家って屋敷のことだったのだろうか。

 何にせよあの蛮行に及んだデアラブ侯爵は処罰され、それを唆したらしいデグブロ伯爵も罰されるという。なればこれ以上あの街の住人以外は怒ることは出来ないだろうと殺気を収めるのだった…。

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