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女神の願いを"片手ま"で  作者: 小原さわやか
女神の願いで…?
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439手間

 ここのところ夢見が悪い、内容は覚えてないのだが何かせっつかれているような押し付けられているような、起きた途端その疲労感がどっと押し寄せてくる。

 おかげさまでまた風邪がぶり返し、まだまだベッドの上から動くことは出来なさそうだ。幸いな事にワシの良く知る風邪と違い、こちらの風邪は体内のマナの異常によって引き起こされるので他人にうつる心配がないということか。


「あー、スズリのおなかふわっふわじゃぁ……」


「キュキュッ」


 ワシがこの屋敷の部屋にいる間は殆ど人が寄り付かないので、人見知りなスズリも積極的にワシの尻尾から外に出てきている。

 今はベッドに横を向いて寝ているワシの顔に何が面白いのかお腹の毛を押し付ける様に覆いかぶさってきており、本人? もご機嫌な様子で喉を鳴らしている。

 ワシもスズリの頭を撫でつつお腹の毛を顔中で堪能しているとコンコンとノックの音が部屋に響き渡る。


「はて…このような頃合いに誰か来るのかのぉ?」


 朝の薬を届けに来た養父様(おとうさま)もすでに城に帰っている、アニスも先ほどワシの身の回りの世話と暖炉の火の管理を終えて部屋を辞している。

 二人ともワシが安静にしているのを優先しているようなので、そうそう日に何度も火急の用でもない限り来ることは無いだろう。

 そんなことを考えているとノックの音に驚いたスズリが尻尾に隠れると同時、ノックの主が部屋に入ってきた。


「あぁ、セルカ起きてたの。どう? 気分は悪くない?」


「クリスかえ…学院はどうしたのじゃ?」


 既に随分と日は高い、本来は学院へ行ってなければならない頃だ。となるとサボりだろうか?


「今日は休みだよ、それでセルカの様子を見に来たんだけど……」


「けど?」


「その…尻尾から生えてるものはなんだい…?」


「尻尾?」


 丁度ワシはクリスの方を向く形になっており、首を回して尻尾を確認すると尻尾から突き出る様に直立で、前足を胴にちょこんとつけた可愛らしい恰好でクリスを窺っているスズリの姿があった。


「おや? おぬしが人前に出るとは珍しいのぉ。この子はスズリじゃ…昔からワシと一緒におるのじゃ」


「そ…そうなんだ。でも今までどこに?」


「ワシの尻尾の中じゃ、この子は極度の人見知りでのぉ…まず誰かがおったら出てこんのじゃが」


 珍しい事もあるものだと、じっとクリスを観察しているスズリを観察する。

 すると一通り観察し終わったのだろうか急に顔だけをワシにスズリがキュッと向ける、くりっとした目が眼窩の影響で心なしかキリリと見える可愛らしい面立ちに思わず頬が緩むが、何となくその視線に生温かいモノを感じる。

 不快ではないが何となく腹立たしい気持ちになるのは夢見のせいだろうか…そもそもそう思うのも夢のせいかもしれない。


「ふむ、覚えてないんじゃがのぉ」


「何か言った?」


「あぁ、いや。なんでもないのじゃ」


 どうやら口から漏れてたらしく、いつの間にかベッドサイドに置かれた椅子に座ったクリスが心配そうに声をかけてきた。


「それにしても、本当に大丈夫なのかい?」


「うむ、少し熱と体がだるいくらいじゃの。それよりもじゃ、ちゃんと学院では授業を受けてるのかえ?」


「うーん、実を言うといま学院でやってる所は家で昔に教えてもらった範疇でね、正直に言うとあまり本気で受けてないよ」


 法術というのはある程度は教わらずとも何とかなる、別に泳ぎ方を教わらずともある程度は泳げるようになるとの同じように。

 しかし、ただ泳ぐよりもきっちりと手の使い方、力の入れ方などを教わった方が速く泳げる、その速くなる方法を今初等科では教えているのだ。

 だが高位貴族の子弟は大抵、学院へ入学させる前に家庭教師などにその泳ぎ方を教わるのだが、今更息継ぎの仕方を教わってもつまらないと…確かにその気持ちは良くわかる。


「むー、それはいかんのじゃ。そういう者は大抵その既に習った範囲でつまずくのじゃ」


「ははは、似たようなことをエヴェリウス侯爵にもいわれたよ」


養父様(おとうさま)に?」


 感覚的なことなので一度覚えれば問題は無いだろうが、一時期子供にモノを教えていた身としては一応釘は刺しておくかと言ってみたが既に養父様(おとうさま)に言われた後だったようだ。


「セルカもエヴェリウス侯爵が来た時に教わっているんだろう?」


「すぐに仕事じゃといって城に帰ってしまうからのぉ、教わっておるというよりも補習させられておる気分じゃ」


 養父様(おとうさま)に教えてもらっているのは、如何に体内のマナを正すかという方法。

 正すというのはマナを上手く動かすかにかかっているので、これが上手くなれば法術の効率が上がる。

 そして風邪というマナが乱れ切った状態を正すことによって早く治癒するというわけだ、だからこそ丁度いいということで教えてもらっているのだが。

 養父様(おとうさま)からその話を聞いた時は、ならば一瞬で風邪を治してやろうと意気込んだものだ。

 しかし、結果はこの通り。多少症状は軽くなっているものの完治するにはもう少しかかるだろう。


「やること自体はワシにとってはなんてことは無いモノなのじゃが…封印の影響かのぉ。凄く重い鉄球でも手足にはめられておるような、そんな感覚なのじゃよ」


「そうか…」


「そんな事よりも学院で友達でも出来たかえ? 前まではワシにかかりっきりでろくに人付き合いしておらんじゃたろう?」


「失礼な、前からちゃんと繋ぎは作ってるさ。といっても皆に比べて私は絶対に上だからね、皆は慇懃に接してくるから友達というよりも将来の人脈といった感じだね。私みたいな身分の者は乳兄弟でもない限り友人は無理だろうねぇ」


「ふーむ、貴族というのも面倒なもんじゃのぉ…。その割にはワシには気安く接しておる様じゃが?」


「なに、セルカは特別だからね」


「ふふん、ワシが特別のぉ」


 クリスの特別という言葉にむふーっと鼻を鳴らしているとスズリが横になってるワシを踏み越えてワシの胸の前に来ると立ち上がり、ワシのマネでもするかのように前足を胴に付け胸をはる。


「くふふ、よほどクリスはスズリに気に入られたようじゃのぉ。ようやく…という気がしないでもないが」


「ずっとそばにいたから慣れてくれたのかな?」


「こやつはずっと傍にいたからといって慣れる様な奴ではないんじゃがの、マナとかその辺りを見ておるんではないかのぉ」


 その証拠にクリスよりずっと長く一緒だったカルンには一切懐かなかった。というよりもスズリが懐いたのはワシを除けばあの人以来、ようやくの二人目である。

 その後もスズリを挟んで二人で仲良く喋っていると暖炉の様子を見に来たアニスが部屋に入ってきた途端、尻尾に隠れるスズリに二人して笑ってアニスに不思議な顔をされたりなどして、夢見のせいで感じていた精神的疲労などその日の内にあっという間に吹き飛ぶのだった…。

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