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女神の願いを"片手ま"で  作者: 小原さわやか
女神の願いで…?
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433手間

 どんな世界でも人数が多ければそれだけ変な人も混じるのは当たり前のこと、カサンドラ元男爵令嬢もそんな一人だったのだろう。

 彼女もワシを誘拐というか人気のないところまで連れ去ったはいいが、言ってることは褒められたものでは無かったもののワシに手をあげることは無かった。

 流石にそこまでしたら危ないと思ったのか、それとも手をあげるという選択肢が出ないほどに狭い世界で生きていたのか…。

 かの令嬢の実家は当主が借金により奴隷に堕とされ家名は剥奪、令嬢自身も特に優秀という訳でもなかったので退学処分となったまでは知っているがその後のことは知らない。

 かわいそうではあるが、ワシはお蔭で今後低位貴族からも下手なちょっかいはかけられなっただろうし、前例が出来た為に学院も過度な借金を負ってまでの入学は禁止するという文が入学条件に追加された。

 手をあげられていたら違っていただろうが、口先だけだったので三文芝居を見せられた気分だった以外は特に害も無く、結果は益を残していったと万々歳なのではあるが困ったことが一つ。


「セルカ様、こちらは我が家で商っております新作のレギネイの花をイメージした香水でございます、もしお気に召していただけましたらぜひともカスラ商会をご贔屓に」


「ふーむ、考えておくのじゃ。アニスや」


「ありがとうございます! それでは私はこれで」


 カスラ商会の令嬢がアニスに香水の瓶を渡し一礼をして去っていく。

 こんな風に実家が商いをしている家の子弟が、ひっきりなしとは言わないものの頻繁に来るようになった。

 恐らくは公爵家の者であるクリスが直接(・・)ワシを助けにきたということで、それなり以上の繋がりがあると見てワシからクリスに口利きされるのを目当てに来ているのだろう。

 とはいえ皆揉み手ごますりで取り入ろうとする者は居らず、何かしらの商品を携えて真っ向勝負で来ているので悪い気はしない。


「やはり皆、必死のようじゃのぉ…」


「資産が一定値を割った家は家名を剥奪される、なんて噂が流れたらねぇ」


 実際は先の通り借金で首が回らなくなったための自業自得の末なのだが…。

 とはいえそれからも分かる通り貴族だからといって皆が皆、贅沢な暮らしが出来る訳では無い。

 むしろこの国ではそんな貴族は少数派、広大な領地を持つ家か商いなどで大成した家くらいなものだ。

 だからこそその少数派の家一つであるエヴェリウス侯爵家令嬢のワシに売り込みに来ているのだろうが、そしてあわよくばクリスにも…と。

 もちろん貰えるだけ貰ってはいさようならなんて事はせず、気に入ったものがあれば今後は買おうとは思う。

 ワシ狙いだからか化粧品や装飾品関係が多いので、継続的に買うことになるだろう…養父様(おとうさま)が。

 ワシとしてはそういうのはどうかと思っていたのだが、養父様(おとうさま)曰く金持ちが無駄遣いせねば下の者が食い詰めるとの事。

 確かに使わねば金は回らない、それが巡り巡って養父様(おとうさま)のもとにもどってくるのだから問題はないかと今は思っている。


「それにしても見事に持ってくる品がレギネイに関係した物ばかりじゃのぉ」


「そりゃ…ねぇ」


 今回もらった香水も本人が言っていたようにレギネイモチーフのもの、レギネイ自体に香りと呼べるほどのものは無いのでイメージなのだろうが。

 確か前に貰ったのは髪飾りにもなるレギネイの花が彫られた櫛、その前はレギネイの花の根付。


「あげた身としては嬉しいけれども、皆が知ってしまうのはそれはそれで何とも言えない気分だ」


「良いではないか、ワシが好きになったのはクリスが贈ってくれた花が切っ掛けという事は変わらぬのじゃからのぉ」


 何でワシがエーデルワイスに似たレギネイの花を好んでいるかを知っているかというと、入学式に付ける為に貰ったレギネイの花のブローチをほぼ毎日、今も着けているから。

 これで好んでないと思う方が難しいだろう、何にせよその切っ掛けはあの日貰った鉢植えの花なのだからとクリスに笑顔を向ければ、当の本人は顔を背け口を手で覆い「ずるい」などと呟いているのでワシは首を傾げる。


「クリストファー様、お嬢様、そろそろ…」


「ん? あぁ、そうじゃな」


 アニスの声で我に返ったクリスに押され、最高学部へと向かう。

 そこに来ている養父様(おとうさま)の診察を受けに行く途中で先ほどの者に捕まったのだ。

 今のところ進展は無いものの週に一、二度ほど養父様(おとうさま)に診てもらうことが習慣となっている。

 行くたびに血をまたくれとせがまれるのには困ったものだが…。


「今日もある意味異常なし…だね、前回倒れた時の影響も無いようだ」


「残念ではあるのじゃが、異常がないだけ良しとするかのぉ…」


 診察の為に乗せられていたベッドからクリスがワシを車いすに移し、いつも通りの診断結果を養父様(おとうさま)から聞く。

 何もしていないのだから当たり前ではあるが、前回のことを考えるとうかつに何かするのも危険なことだけは分かっている。


「幸いな事に足の機能が死んでいる訳では無い、毎日マッサージしていれば歩けるようになった際に楽になるはずだよ」


「かしこまりました旦那様、私が後ほど屋敷の侍女たちにも伝えておきます」


「そうしてくれ」


「ところでワシの血を使って何か分かった事とかはあるのかえ?」


 血をくれと突撃される度に養父様(おとうさま)やクリス、アニスが追い返しているのだが、如何せん「何故」なのかが致命的なまでに抜けている。

 検査に必要とあらば、非常に…ひっじょーに嫌ではあるが提供することにやぶさかではない。


「聞いた話では血液からは異常は見られ無いそうだ、病気などではないから当たり前ではあるが」


「ではなぜ奴は血を欲しがるのじゃ? 物語の中の怪物でもあるまいし」


ここ(最高学部)は…まぁ秘密主義と変わり者が多くてね…」


「秘密主義は知らぬが、変わり者が多いのは分かるのじゃ」


 同じ学院、同じ貴族なはずなのにここ(最高学部)だけ雰囲気というかいる者の質が違う。

 高等部までが学習機関なのに対し、最高学部は研究機関に近いからであろうが…。


「セルカの血から出来た結晶、あれが何かしらの触媒に有用らしくてね…」


「お…おぅ…」


 恐らくはあの珊瑚の様になったモノの事であろうが養父様(おとうさま)の口をきいた途端、部屋の暖炉にはしっかりと火が入り暖かいはずなのに背筋にうすら寒いものを感じた。

 致死性の高い病気の特効薬になるとかならば兎も角、あの迫りようを見るにきっとろくでもないものにちがいない。

 マッサージの仕方をアニスとクリスが聞いている中、ワシは何に使うか教えてもらうまでは決して血はやらぬと心に決めるのだった…。

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