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女神の願いを"片手ま"で  作者: 小原さわやか
女神の願いで…?
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429手間

 あちらこちらから上がるキャッキャとはしゃぐ黄色い悲鳴。

 黄色い声は聞こえずとも、令嬢たちの熱い視線の先を辿り忌々しそうに舌打ちする音。

 しかし、そこは腐っても貴族の子弟、どちらもすぐ傍に居ない限りは聴こえはしないだろう、ワシの耳を除いて…。

 ワシを左右から挟むようにしてそんな声や音を発生させている元凶の下に居るワシは、逃げることも出来ず彼らに倣って周りに悟られぬようそっとため息をつく。


「どうしてこうなったのじゃ……」


「えぇ、えぇ。ですから感謝しておりますとも、クリストファー・フォン・ヴェルギリウス殿」


「いえいえ、感謝などそんな…私が望んでやっていることですから、カルン・フォン・ラ・ヴィエール王太子殿下」


 カルンとクリス、二人ともニコニコと声音も穏やかで、今にも握手からのハグでもしそうだが雰囲気は真逆の今にでも殴り合いにでも発展しそうだ。

 馬車のトラブルで遅れていたカルンが来たというのをガイウス先生から聞き、では早速と本日の授業が終わった所謂放課後にカルンのいる教室へと向かう途中、向こうも同じことを思ったのか廊下でばたったりと出会ったのだ。

 それがなぜこうも険悪な雰囲気になっているのか…ただ、その険悪な雰囲気はワシと醸し出している当人たちだけが感じている様で、野次馬たちはいまだにキャッキャッとはしゃいでいる。

 確かに二人ともタイプは違えども女子ならば一度は甘い言葉を囁かれたいイケメンだ、カルンはどうしても息子とか弟とか弟子とかそんな感覚が優先されてしまうが、はしゃぐ彼女らの気持ちはよく分かる。

 カルンはワシが育てた! とドヤ顔で言いたいところだが、書類上は何故か同い歳にされているのでぐっと我慢する。


「ですので、彼女は私のお借りしているお屋敷で引き取りますよ。元とはいえ婚約者だったので当然でしょう」


「いやいや、王太子殿下のお手を煩わせる訳にもいかないでしょう。セルカに快く仕えてくれる侍女も居ますし荷物なども多いですからね」


 元…というのはクリスから聞いていた。元々公式に発表はしておらず、そもそもカルンの虫よけとしての偽りのモノだったのだから惜しくは無いが。

 ただそれを聞いた軍の連中が随分と嘆いていたと聞いて、ちょっと悪いことをしたかなとは思う。


「私が、ね…セルカの車いすを押しますよ」


「王太子殿下にその様な些事をさせる訳には、それに女性のエスコートは紳士の嗜み。ならば紳士の者である私がエスコートするのは当然のことかと」


「聖ヴェルギリウス神国が紳士の国とは初耳ですね、であれば私はそれ以上の紳士として立ち振る舞わねばならないですから」


「交流も無かったので当然でありましょう? それに決めるのは王太子殿下ではなくセルカでしょう?」


 にこやかな表情の裏でさり気なく毒を吐く。カルンや、いつの間にそんな腹芸を覚えたのか…ワシかなしい。

 そしてクリスや、ワシに振るでない。当然僕にやらせてくれますよね? と言わんばかりのカルンの視線が痛い。


「あー、うむ。カルンや…おぬしは王太子じゃ、ここに居るのは貴族の子弟とはいえ皆爵位…要は正式な身分を持っておらぬ、おぬしを除いての。つまりおぬしがこの学院の生徒の中で一番偉いと言っても過言では無いのじゃ、それなのにクリスが横で見るだけでおぬしが車いすを押すとカルンが…ひいては王国が軽んじられることになるからの…」


「つまり…?」


「今まで通りクリスにお願いするのじゃ」


「でも、ねえやを養女にした家も侯爵でクリストファー殿の家より下では」


「ははは、いやなに。紳士として女性をエスコートするのは嗜みと言ったでしょう? そこに身分など関係ないのですよ、紳士として当然のことむしろ身分が違うからとエスコートしないほうが侮蔑の対象になります」


「じゃあ、僕も車いすを押したっていいじゃないか」


 カルンの表情やらはまだにこやかに保っているが、口調が段々と崩れてきた。


「カルンや…クリスが車いすを押す場合はワシとクリスという間柄じゃ女性をエスコートする紳士という奴じゃの。しかしカルンが車いすを押すとなるとワシとカルンではなく、クリスとカルンという関係に公爵令息と王太子殿下になるからダメなのじゃ」


「ぐ…ぐぬぅ」


 王太子殿下に車いすを押させる公爵令息、神国側としては暗に自分たちの方が力関係は上だと知らしめれるので好都合だろう。

 生徒たちはそこまで考えないかもしれない、しかしその親がどう考えるのか…皇国と王国の様に友好国であればそこまで問題ではないかもしれない。

 だが王国と神国はついこの間まで敵対国だったのだ、友好的になりたいと考えている者が多いからこその今だろうが、それでもやはり急進派というきな臭いことを考える者は未だいるのだ。


「それでは我々は屋敷に還りますのでこれにて御前失礼します、カルン・フォン・ラ・ヴィエール王太子殿下」


「いや、どうせ馬車に乗るまでは一緒なのだ、そこまでご一緒しようクリストファー・フォン・ヴェルギリウス殿」


「…好きにせい」


 さっと車いすの取っ手を掴むクリスとその横に立ってバチバチと火花を散らすカルン、そんな二人を振り返って本日何度目か分からないため息をつく。


「それはそうと、元気そうで何よりです」


「それを今言うかの…」


「す、すみません…」


 以前と違い車いすに座っている者に、そして何よりそれは最初に言うべきだろうとの意味を込めて言えばそれを分かったのかカルンが言葉に詰まる。


「まぁ、よい。それで随分と予定より遅れたようじゃが大丈夫じゃったのかえ?」


「えぇ、それは。多少遅れてもいい様に出発したのですが、慣れない環境で馬が随分と弱ってしまいましてね…」


「なるほどのぉ」


 ワシらが動き出すとさり気なく囲んでいた壁が割れる、未だにクリスとカルンは火花を散らすような会話をしているが表面上は仲良く三人で会話してるように見えるのか、道々ですれ違う令嬢の視線が痛い。

 何せ傍から見ればイケメン二人をワシが侍らし更には楽しそうに会話してるのだから、それも彼女らからすれば何としてでもお近づきになりたい上玉二人。

 正直いらぬ恨みも買いたくないがもう無理だろう、これだけ見られれば絶対噂になる。

 多少のやっかみは甘んじて受け入れるしかないかとまだ言い争ってる二人もあり、深呼吸に隠し大きくため息をつくのだった…。

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