41手間
魔術と魔法の名称が似ているため混同してしまうので。
魔術を法術に名称を変更しました。
今は街から出て、馬車で四日ほど進んだ場所にある荒野で野営中だ。
三日目あたりから青々とした木々や草木が減り始め、
今や周りにはまるで乾季のサバンナの様な景色が広がっている。
「カルンはもう大丈夫かの?」
張ってある三つのテントのうちの一つから出てきたアレックスに声をかける。
「あぁ、あの様子なら明日にはもう大丈夫だろう。こっちの方に初めて来た奴は、一度はあの病気にかかるし仕方ないさ。セルカは平気そうだが、こっちは初めてじゃないのか?」
日中移動している間、カルンがアレックスの指導の下、御者の練習をやっているときに倒れた。
症状を見る限りでは軽い熱中症の様なので、早めに野営の準備を行い休むことになった。
恐らく練習に夢中になるあまり、水分をとることを忘れてたのだろう。
そもそも、この世界の人は熱中症の事をこのあたりの風土病だと勘違いしている節がある。
人から人にうつらないが、水を多く取らないと掛かるから、水のマナが急激に減る病気なのだろうとかそんな感じの認識だった。
「ワシもこっちに来るのは初めてじゃが、ヒューマンとは体のつくりが違うのじゃよ」
確かに、獣人の体は寒暖の差などの環境の変動に強い。
しかし、それ以外にもなるべく日陰に入り、水分をこまめにとる。
などなどしっかりと熱中症対策を行っていたからだ。
どの世界でもこの手の対策は有効なのだなぁと、しみじみとわかる。
「一応大事を取って、明日はアイツの練習は無しだな。というわけで明日一日はセルカだけだから、お前は倒れるなよ?」
道中カルンと交互にアレックスらに教えてもらいつつ、御者の練習を行っていた。
おかげでアレックスらの補助ありとはいえ、ある程度は馬を操れるくらいになった。
「言うたであろう?体の作りが違うと。それにワシはしっかり水はとっておるからの」
普通というか前世であればこのような乾燥地域では水の確保が死活問題になる。
しかし、この世界では法術で水を取り出せるため、非常に助かっている。
ダンジョンの影響で火の因子が強く出ているのか、普通の地域よりは水を取り出し難くはあるが。
とはいえ以前、宝珠が変化した頃からマナをかき集める能力が格段に向上したのか、その辺りは苦にもならない。
「確かに、お前が体調不良で倒れるとかは想像できないな。ま、今日の遅れを取り戻すから明日は早く出るぞ、さっさと寝ろよ」
「それはそれで腑に落ちぬが、まぁよい。それにワシは今から見張りじゃさっさとは寝れぬの」
「まったく、相変わらず年不相応な口の回り方だこって。そいじゃお先におやすみ」
「んむ、おやすみなのじゃ」
いつもはカルンと二人で見張りをするのだが、カルンがダウンしてるため今回は一人だけだ。
歳が近いしカルンは見張りに慣れてないから、という事だったのだが、そんなにニヤニヤしながら提案することだったのだろうか。
「見張りとゆうてものぉ…この地域は魔獣が少ないし野生動物は火を恐れるしの…しかし、見れば見るほどサバンナのようじゃの。あ、ライオン」
遠くにライオンの様な…正式な名前はしらないが、りっぱな鬣を持った動物が見える。
しかし、顔や胴はライオンの様なのだが、トカゲのように足は体の横から突き出し、さらに草食だ。
「捕食するもんが寄ってきてもいかんし、火は強くしとくかの」
このサバンナに似た乾燥地帯と呼ばれる一帯は、ダンジョンのせいでマナに火の因子が異常に現出している影響でこうなっている。
そのため、夜になったからといって急激に気温が低下…などということはなく、一日中熱いままだ。
夜間に熱いからと火を消したり弱くしたため、肉食の獣に襲われたなんて話を世界中を旅している間に聞いたこともある。
魔獣が少ないのは、ただ単に元々の動物の数自体が少ないためだ。この環境に適応している動物はまだまだ少ないのだろう。
日記を書いたりと暇をつぶしていたらインディが起きだしてきたので、見張りを交代して自分のテントで睡眠をとる。
翌朝、焚火を念入りに消した後に出発する。順調に行けば、昼過ぎには砂漠の町へと着くそうだ。
馬の手綱を持ちつつ、横で見ているアレックスに砂漠の町の事を聞いてみる。
「のう、いままでの口ぶりからして砂漠の町へ行ったことがありそうじゃが、色々教えてくれんかの?」
「あぁ、何度かダンジョンに行ったこともあるからな。そうだな…砂漠の町ってのは文字通り砂漠地帯とこの乾燥地帯の境目にある町なんだが、木が少ないから砂や土を固めた建物が並んでんだよ」
その先があるのかと少し待ってみたが、特に何もない。
「うん?それだけなのかの?他に…ほれ、観光するところとか特徴とかおすすめのお店とかの?」
「あー、他…?うーん、そうだな…町の中央に池があって、その周りだけ草が生えてるな」
「ほれほれ、その調子じゃ。他には他には?」
「う~ん、観光つっても砂見てなにが楽しいんだって感じだしな。おーい、ジョーンズは何か知らねぇか?」
「さぁ、そんなもんじゃねーの?砂漠の町なんてよ、ダンジョンいくだけの町だしな」
幌のついた馬車内にいるジョーンズにアレックスが話しかけるが、似たような感想しか出てこない。
「はぁ、これじゃから男どもは…あぁ、サンドラがいればのぉ…」
「んなこと言ったってよ、ダンジョン行くだけの町にそんなもん期待しないって」
「その辺りはギルドで聞くしかないかのぉ…」
結局、中央にオアシスのある中東やアフリカの砂漠にありそうな町っぽいということしか判らなかった。
その後は何度か休憩を挟み、お昼を一刻ほど過ぎたあたりで漸く砂漠の町が見えてきた。
荒野にはちらほらと砂が混じりはじめている。まさにその名の通り、砂漠との境目にある町なのだろう。
「ほほう、あれが砂漠の町かの…確かに土や砂と同じ色をしておるのぉ」
「んじゃ、着いたらとりあえず宿とってギルドだな。何か変わりがあってもいけねぇしな」
見えてきた砂漠の町に何があるのか、ダンジョンには何が待っているのかワクワクしながら馬を進めるのだった。
熱中症が怖い季節になってきました。
みなさんも十分お気を付けください。




