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女神の願いを"片手ま"で  作者: 小原さわやか
女神の願いで…?
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406手間

 ふっと目を覚まし、かるくゆすられているような不快感に顔を歪めながら、ゆっくりと体を起こす。

 ぼーっとする頭を一度振り、あたりを見渡せば暖炉の火の世話をしている侍女の後ろ姿が目に入った。

 その後ろ姿に「のう…」と声をかければ、彼女は火の世話をする手を止めてくるりと振り返りワシに向かってにっこりと微笑んだ。


「お目覚めになられたのですね」


「うむ…」


 ほっとしたという事がアニスの声や表情から感じられ、ちょっとした罪悪感を感じつつベッドから出ようとすると、ワシの行動をアニスが慌てたように止める。


「お待ちくださいお嬢様、旦那様より安静にさせるよう申し付けられておりますので」


「むぅ…では仕方ないのぉ」


 医者の言う事であれば仕方ない、倒れたのは事実であるしベッドの上を這おうとしていた体をもどしポスンと頭を枕に投げ出す。


「それでは私は旦那様に、お嬢様がお目覚めになったとお伝えしてまいりますね」


「うむ」


 ワシが寝ころんだのを確認するとアニスは火の世話を止め、パタパタと下品にならない程度に急いで部屋を辞していった。


「ふぅ…なんぞ最近は倒れてばかりのような気がするのぉ……」


 そもそもここに連れてこられた原因も倒れた為であるし、一瞬老いか? という考えもよぎったが自身のマナを見る限りそれは無いかとため息を漏らす。

 この身に宿るマナに陰りは無く、ただ今はあの忌々しい魔導器のせいで直接マナが扱えないというだけ。

 少し足に違和感を感じるが倒れた時にでも捻ったかしたのだろう、今はマナによる増強が効いていない状態なので現在のワシは少し丈夫で身体能力の高い小娘でしかない。

 そう考えると行き当たりばったりな脱出は、危険で時期尚早だったかと一人反省する。


「うーむ、どうにかしてこの封印のような状態を解かねばの。ふぁ…とりあえずもうひと眠りしておくかのぉ」


 ワシの尻尾に劣るとはいえ、ふかふかのベッドに横になっているというのはそれだけで十分眠気を誘ってくる。

 もぞもぞ体を動かして丁度いい場所を探り、パチパチと控えめに爆ぜる泥炭の音を子守歌にすればすぐにでもくぅくぅという寝息をたてはじめる。

 どれほど寝ていたのだろうか、肩や腕をぽんぽんと叩かれているような感覚にゆっくりと瞼をこじ開ける。


「起きたかね、では寝起きのところを悪いが診察をするので仰向けになってくれるかね?」


 どうも叩かれていたのはワシを起こすためか診察するかためだったらしい、いつの間にかベッド縁に移動させられていた体をエヴェリウス侯爵のいう通り寝ころんだまま仰向けにする。

 するとエヴェリウス侯爵はスチャっとあの板海苔の様なサングラスをかけると、手のひらより少し長いくらいの棒の先に木製のどんぐり型のこぶが付いた道具を取り出してワシの全身をたたき出した。


「ふむ……何か違和感を感じるかね? 叩かれている強さが違うなどの」


「ふーむ…? いや、どこも大体同じ強さで叩かれているように感じるのじゃが?」


「そうか」


 ワシがそう答えると、エヴェリウス侯爵はサングラスを外し腕を組んで、何事かを考えているのか眉根を寄せている。

 その表情は何といえば良いのだろう、痛ましいものを見ているというか苦いものを思い出しているかのようだ。


「ワシの体になんぞあったのかえ?」


「そうだね……いや、まだ詳しいことは少し調べなければ。とにかくしばらくは絶対安静だ、ベッドから出ないように。食事もすべてベッドの上で摂らせるようにしたまえ」


「かしこまりました、旦那様」


「ではまた診察にこよう」


 アニスがエヴェリウス侯爵の言葉に礼をして応えると、彼はそのままスタスタと部屋を出て行ってしまった」


「それではお嬢様、ベッドの中央に戻させていただきますね」


「いや、もうそれくらいは自分でするのじゃ」


「旦那様に絶対安静と申し付けられたでしょう?」


「むぅ…」


 にっこりと微笑むアニスに言い様の無い威圧感を覚え、思わず反論が喉の奥に引っ込んでしまった。

 それを肯定ととらえたのかアニスは、ベッドの縁に居たワシを抱え赤子か反物でも抱えているかのように丁寧にベッドの中央にワシを降ろしてくれた。


「私は下がりますが、絶対安静でございます。ベッドから出ないようよろしくお願いします、何かございましたら部屋の前に誰か控えておりますのでこちらの鈴をお鳴らしください」


「うむ」


 絶対安静を強調していうアニスにコクリと頷き、その後体の横に置かれた鈴というには少し立派なハンドベルのようなものに目をやってもう一度頷く。

 優雅な所作で部屋を辞するアニスを見送って、まるで重症患者の様な扱いだなぁなどと思いつつ仰向けに置かれた体をごろりと横に向け、少しこの扱いに不安を覚え小さくため息を吐くのだった。

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