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女神の願いを"片手ま"で  作者: 小原さわやか
女神の願いで…?
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401手間

 くぅくぅと寝息をたてながら寝ていると唐突に、部屋中にガラーンガラーンと鐘の音が響き渡る。

 ぐっすりと寝ていたところに鳴り響いた大音響に驚いて飛び起きると、ペシャリと後頭部に添うように耳を畳みそれを手で押さえて耳を塞ぐ。

 ワシが飛び起きてから三度ほど鳴った鐘の音が、微かに部屋を揺らすような残響と共に遠ざかる。

 恐る恐る耳を塞いでいた手を放し、ワシはまた鳴りはしないかと耳を澄ませる。


「ふぅ…うぅ、まだ頭の中で鐘でも鳴らされておるような気分じゃ…」


 寝て少し気分が良くなってきたところにこの仕打ち。

 若干、涙目になりながらそろそろ誰か現状を説明しに来てもいいではないかと、ぼやきながら唇を尖らせる。

 するとワシのぼやきを聞きつけたかのようなタイミングで、コンコンと先ほどの鐘の音に比べれば拍手して褒めそやしたい程の控えめなノックの音が聞こえた。


「中に入ってもよろしいでしょうか」


「あー、うむ。よいのじゃ」


 見るからに分厚そうな、木材を主に使いそれを鉄で補強したような扉の向こうから、鈴の音とは言わないまでも高音のハンドベルの様な声が入室の許可を求める声。

 ワシがそれに答えると、ガチャリと何か外すような音が聞こえた後に、ギギギギと見た目に違わず重厚な音を響かせて扉が開けられる。

 ゆっくりと開く扉から覗いたのは、灰色の混じった青が落ち着いた印象の枡花色(ますはないろ)のお仕着せを身にまとい、藍白色のフリルがたっぷりついたエプロンを身に着けた女性。

 ブリムの様な髪留めを使い色味の薄いプラチナブロンドの髪を後頭部で纏めた、いかにもメイドといった彼女が体当たりするかのような姿勢で扉を押し開けている。

 扉が内側に開ききると彼女はパンパンと体を軽く払い、何事かと未だベッドの上から見ているワシに向かってペコリと優雅な所作で一礼する。


「ふぅ…お見苦しいところをお見せしました。お昼をお持ちしましたので、体調がよろしければお召し上がりになりませんか?」


「そ、そうじゃな…いただくとするかのぉ」


「かしこまりました」


 もう一度、彼女がお辞儀をして右手首を傾げる様にして右肩の前あたりでパンパンと手を叩く。

 するとガラガラと部屋の外から、最初に入ってきた女性と同じようなお仕着せとフリルが付いたエプロンを着た女性が二人、二台のワゴンを押して入ってきた。

 一台目のワゴンには、銀色のクロシュ ―ボールを逆さまにして取っ手をつけたような蓋― が被せられたお皿が。

 二台目のワゴンには、ティーポットと注ぎ口が細いケトル、そしてカップとソーサーが乗っている。


「お嬢様、すぐにご用意いたしますのでこちらへ」


「うむ」


 確かにベッドに寝転がって食べる訳にもいかない、この歳でお嬢様などと呼ばれるむず痒さを背中に感じながら、指し示されたシンプルな形ながらも上品な雰囲気の木製のテーブルへつこうとベッドの上を移動する。

 ベッドの縁へつくとそこへ腰かけ、立ちあがった瞬間、立ち眩みともちがう力が抜けたかのような感覚と共にたたらを踏み危うく転ぶところだったが、お仕着せの女性に支えられ何とか踏みとどまれた。


「あまりご無理はなさらずに」


「助かったのじゃ。…あー、ところでじゃの」


 実に今更だが、転びかけた拍子に見えた自分の足元の違和感、簡単に言えば着替えさせられている。

 今ワシが着ているのは、軍服のようなカッチリとした格好では無く、ほんのりと青い卯の花色のゆったりとした袖の長いワンピース。

 せっかくだからと、また転ばないようにワシの手を取って歩くお仕着せの彼女に話を聞いてみる。


「以前のお召し物は汚れておりましたので、誠に勝手ながら私どもで着替えさせていただきました」


「そうじゃったか…」


「ご安心ください。お嬢様は旦那様とその御付の者がお連れしましたが、ご無体なことはされておりませんので」


 ちょっと考え込んだワシに何を思ったのかまくしたてる様に、ですのでご心配なくと彼女は言う。

 少しその言い方に引っ掛かりを覚えたが、寝ている内に着替えさせられたのだ大げさに彼女が大丈夫だと言うのも当たり前かもしれない。

 頻繁に忘れるが、一応ワシはカルンの…王太子の婚約者という建前なのだから。

 彼女のエスコートで、テーブルと同じデザインのシンプルな椅子へと座る。

 すると待ってましたと目の前でワゴンを押してきた一人が、既にテーブルに置かれていた料理に被せられたクロシュを取る。

 現れた料理は茶褐色の食欲をそそる香りのシチューと、クリーム色のマッシュポテトの様な付け合わせ。


「おぉ、これはおいしそうじゃのぉ」


「ささ、冷めないうちにどうぞ」


「うむ、そうするとしようかの」


 いただきますと銀製のスプーンを持ち、シチューを掬い口に運ぶ。

 肉が違うのか使っている香辛料が違うのか、ビーフシチューの様な香りの割にどちらかと言えばミルクシチューに近い味わい。

 だがこれはこれで絶品な味わい、何より少し肌寒いと感じていたので温かいシチューが美味しい。

 そこでまたもや違和感を感じ、ん? と手が止まるが、まぁいいかと再びシチューを掬い口へと運ぶ。

 暫くシチューを味わい、さてこの付け合わせはどのような味なのだろうと口直しに頬張れば、芋だった。

 素材の味そのままと言えば聞こえはいいが、芋としか言いようのない味だった。

 美味しかったシチューとの落差が酷いとは思うのだが、決してまずくは無いのだ…それなのに出された料理に文句を言うのも大人げない。

 ともあれ、ぺろりとシチューと芋を平らげて、食後に出されたお茶を楽しむ。

 少し渋みが強いが、それが丁度シチューでこってりした口の中をさっぱりと洗い流してくれる。


「ところでこの後の予定などはどうなっておるのかの」


「はい、この後は旦那様がいらっしゃられます。旦那様は医師でもありますので体調を見て頂いて、それ以降のことは旦那様次第でございます」


「ふーむ、そうかえ」


 確かに突然倒れそれが原因不明ときたものだ、真っ先に飛んできそうなカルンが来ないのも原因が分からない故に止められているのだろう。

 突如鳴り響いた鐘の音以外ここは中々居心地がいい、しっかり働き神国に恐らくは大打撃を与えたのだ暫くのんびりさせてもらうのも悪くないかとお茶のおかわりをもらい、旦那様とやらが来るまでのんびりと過ごすのだった…。


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