400手間
ずくずくと痛む頭を押さえながら、ゆっくりと体を起こす。
まとわりつく不快感でぼーっとしながら、何が起きたのを思い出そうとする。
「ワシは…そうじゃ、つぅ……」
ワシは何かされ倒れて、と思い出したところでズキリと鋭い痛みが走り、眉根を寄せぐっと額を押さえる。
「しかし、ここは何処なのじゃ?」
ワシはあのあと助けられたのだろうか、それにしてはと辺り見回す。
今いる場所は、何処かの一室それは分かる。
けれども、その何処かというのが皆目見当がつかない。
ワシが寝かされていたベッドは、白地の布に春色の淡い糸で繊細な草木の刺繍が施された立派なもの。
壁はマーブル模様が美しい磨きあげられた石材で覆われ。
ワシが小柄なことを除いても明らかに不必要なほどに高いであろう天井から、落ちたら下にいた人はただでは済まないであろうことは間違いない豪華なシャンデリアが部屋を照らし出している。
「うぅむ、まるでお城の部屋のようじゃ」
サイドチェストをはじめとした部屋に置かれている家具は、艶やな飴色で壁の白との対比で一層鮮やかに映る。
床に敷かれた真っ赤な絨毯は、ワシの尻尾には数段劣るだろうが、見ただけでも思わず頬ずりしたくなりそうなほどのもの。
更に何かないかと体ごとぐるりと周りを見渡せば、耐熱性の関係だろうか周りとは色味の違う、濃い灰色の石材で作られた暖炉の中で、パチリパチリと控え目な音を出し赤赤と炎が踊っていた。
「うぅむ、この時期暖炉はいらんはずじゃが…」
要らないとはいったものの、朝夕肌寒い頃には火入れることもある。
だが、ここまで炎が踊るほど本格的に薪をくべることはない。
更によくよく見れば、暖炉の脇、薪が置いてあるような場所には鉄の籠に入った、見慣れぬ黒っぽい乾かしただけのレンガのようなものが入れられている。
「窓は無いのじゃな…」
いくら首を回そうとも、この部屋には窓が一つも見当たらない。
「なんとなく高い所というのは分かるのじゃが、王国にそんな場所あったかのぉ?」
ワシが知らないだけというのは十分にありえるが、少なくとも沼地付近は平原地帯のはずで、いつの間にやらワシは随分と遠いところまで連れてこられたのだろうか。
「誰ぞ、だれぞおらんかのー」
部屋の中にワシの声がこだまするが、誰かが来るような気配はない。
「これはもしや、ワシ攫われたのかの? いや流石に攫った者をこんな上等な部屋に入れる意味がわからんし無いじゃろうな」
相変わらず抜けない不快感のせいで、ベッドから抜け出る気力はまだない。
一先ずここは安全なのだろうしと、体を丸めもう一眠りとくぅくぅ寝息を立て始めるのだった…。




