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女神の願いを"片手ま"で  作者: 小原さわやか
女神の願いで…?
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395手間

 救出された人々が、バルドたちに護衛されながら遠ざかっていくのを見送る。

 その光景をひとしきり眺め満足すると乗っているモノからえいやと降りソレに振り返り、右足でその腹をガシッと踏んでやる。


「さておぬしには…っと、ほれなんぞ言わんか」


 踏んでも話しかけても反応が無いので片眉をあげ、デアラブ侯爵の顔を覗きこめば白目をむいて気を失っていた。

 鎧を着ている為に呼吸をしてるかどうかは見た目からは分かりづらいが、鼻でも詰まっているのかフゴフゴといびきの様な音を出しているので生きてはいるだろう。

 とりあえず死んでないのを確認すると乗せていた足をどけ、やれやれと首を振る。


「はー、全くあれしきで気絶とは実に情けないのぉ。まぁよい、さておぬしらの中でコレの次に身分の高いものは誰じゃ?」


 侯爵軍に向き直りつつ、コレといってデアラブ侯爵を足蹴にして次席の者は誰だと言えばその場でへたれていた中から一人が立ち上がった。


「私がハデライ伯爵の長子で、この軍の取りまとめを…」


「ふむ…ここで呆けておるのがおぬしらの全てでは無かろう?」


「はい、一応後方や魔物の警戒要員を残しております」


「では、早速陣へ戻り降伏したことを告げるのじゃ。あぁ、それとここの者たちも侯爵の陣へと戻るがよい、あと魔物対策に必要な者だけ武装を許すのじゃ。もちろんワシらに…王軍に再度刃向けることは許さぬ、もし違える者が一人でもおれば…その者だけでなくおぬしらも全員、係累まとめてこうじゃ」


 そういってスッと首の前を水平に手を横切らせれば、ハデライ伯爵の子息だけでなく他の者たちも、ガクガクと壊れた人形の様に首肯している。

 これだけ脅せば、バカなことをしようとする者を彼ら自身が必死に止めてくれるだろう。

 本来であれば王軍側の陣へ連れて行って拘束するのが良いのだが、さすがに千人近い侯爵軍を受け入れ監視する余裕はない。

 だがデアラブ侯爵だけは連れて行かねばならない、抱えて持っていくのも嫌だしとデアラブ侯爵の足首を掴んで引きずりながら、数歩あるいてから思い出したかのようにくるりと侯爵軍に首だけ振り返る。


「そうじゃ、これだけ脅してもこんなことをしでかした奴らじゃ、阿呆な計画を立てる者もおるじゃろう止めても聞かん者もおるじゃろう。その場合はじゃ、ワシらに事前にその計画を伝えに来るがよい、さすれば伝えに来たものは減刑を考えんでもない。もちろん虚偽を伝えれば分かっておるの?」


 相互監視と報酬をちらつかせた密告の推奨、よくある手だがこれで全体の蜂起を抑えることが出来るだろう。

 計画を立てても誰かが密告するかもしれない、人数が多ければ多い程その疑念は消えない。

 後ろめたいことをすでにやらかした連中であれば尚更だ、それに少なくともここに居る連中であれば、ワシに逆らうのがどれほど愚かしいか多少なりとも理解していることだろう。


「ではの、くれぐれもこれ以上ワシらの手を煩わせんことじゃな」


 それだけ言い残し、ずりずりと未だ気絶したままのデアラブ侯爵を引きずって王軍の陣へ歩きはじめる。

 結局陣に着くまでデアラブ侯爵は目を覚ますことなく、ワシより先に人質も陣に着いたことにより侯爵軍の凶行もまた知ることとなり、陣中を引きずられるデアラブ侯爵は容赦なく兵らの冷たい視線に晒されることとなった。

 そして護衛の兵を傍に侍らせた王のもとまでくると、ポイッとお菓子でも放り投げるかのようにデアラブ侯爵を王の眼前へと投げ捨てる。


「こたびの事の首魁を捕まえてきたのじゃ」


「首でも持って来ればと思っていたが…生きて…いや、これは生きているのか?」


「うむ、生きておるのじゃ。こやつのしでかしたことを考えれば、あの場でひき肉にしてやってもよかったのじゃがな。こやつに僅かでも…戦場で死んだなどという名誉を与える訳にはいかんかったのでな、無辜の民を残虐にも殺し己が欲の為に王を弑しようとした大罪人、それがこやつに相応しいのじゃ」


「然りであるな、ところで侯爵の私軍はどうしたのだ?」


「うむ、誰一人殺してはおらぬのじゃ、流石に一人二人はと覚悟しておったが平民は兎も角、他の者は思いのほか腑抜けぞろいでのぉ…。それで今は魔物対策だけ許して向こうの陣で待機してもらっておる、たしか…ハデライ伯爵の長男とかいうのが……」


「ハデライ伯爵…? あぁ、デアラブ侯爵の腰巾着か……ふむ、親はアレだが息子の方に悪い噂は聞かなかったが」


「親には逆らえんかったとか、その辺りではないかのぉ」


 ハデライ伯爵、見たことも聞いたことも無いが領地にでも引っ込んでいるのだろうか…まぁ、今は如何でも良い事か。


「しかし問題はこれの治めていた領地の運営よ、これの家は家名共々取り潰しは当然として…ふぅ頭が痛いな……」


「その辺りはワシには判断できぬからのぉ」


 さて、後は神国側をどうするかなとのんびり構えようとしていると、その神国が陣取っている方向からドーンという腹の底にビリビリと響くような音が轟いてきたのだった…。

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