390手間
カルンとエドワルド二人とも楽しそうに話しているところに悪いが、そろそろ現実に戻ってもらおう。
コホンと一つわざとらしく咳ばらいをし、て二人の間に強引に割り込む。
「積もる話もあるじゃろうが、それは一先ず後にしてもらおうかの?」
「う…む、そうだな」
エドワルドが父親から国王の顔になったのを確認し、ワシらが先んじてここに来た経緯を話す。
「デアラブ侯爵は何ということをしてくれたのだ…」
「嘆くのはいつでも出来るじゃろ、ともあれ今どうするかじゃの。現状はどうなっておるのじゃ?」
「そう…だな、一言でいえば訳が分からない。神国の者たちは不気味に沈黙しているがこれはまだ分かるのだ。恐らくは杖の到着を待っているのだろう。しかし分からぬはデアラブ侯爵だ、奴は不敬にも余の首を差し出せと…な」
「ふむ…予想通りというか、何の捻りも無い奴じゃのぉ。それで黙って首を差し出す訳ないであろう?」
「当然である、とはいえ民を盾にされてはな…先ほどまでどうするか紛糾しておったのだ」
「見捨てるか見捨てないかで…といったところかの?」
ワシの言葉によほど議論は堂々巡りだったのだろうか、国王は徒労を思い出したかのようにため息を吐きゆっくりと首を縦に振る。
「このままではらちが明かぬからな、朝議にてデアラブ侯爵に決闘を申し込み、民を開放するよう要求する腹積もりだと諸侯に伝える」
「ふーむ、民を見捨てぬというその気概は良いのじゃが…果たしてその話を受け入れるかの? 」
「もっともな話だ、しかし奴らは千に届こうかという兵と、その陣の前面にまるで馬柵の様に人質を置かれては下手に手出しも出来ぬ」
「ん? 人質は文字通り人の盾として孤立しておるのかの?」
「孤立と言っていいかどうかは分からぬが、自棄になった民からの反撃を恐れているのだろう逃げ出しても襲ってきても大丈夫程度の距離を取り、弓兵で脅しをかけておるようだ」
「ほほう…それはよい事を聞いたのじゃ」
もちろんそれが人質全員という訳でもないだろうが、一か所に纏まりしかも侯爵軍からは一方からしか手出しできぬ場所に居る。
分かりきってはいたことだが、デアラブ侯爵とその取り巻きはよほどの馬鹿と見える、いや事実王の頭を悩ませているのだから一定の効果はあっただろう。
「くふふふ、ワシには人質を無事お返ししますと言っておるようなものじゃな!」
「どういうことだ?」
「何、ワシにいい考えがあるということじゃ、人質とデアラブ侯爵らめはワシに任せて欲しいのじゃ。まるっと無事とは流石に保証できぬが見事助け出して見せるのじゃ!」
ドヤッと胸を張りそう宣言する、ワシの力を知っているカルンと国王はそれならば任せようと安堵したようにうなずいてくれた。
「これで目下の懸念は取り除かれたといっても良いが…何もデアラブ侯爵たちまで相手にする必要はないのだぞ?」
「いやなに…あ奴らにはちぃとばかしワシも恨みがあるでのぉ…」
ワシ自身が何かをされた訳では無い。しかし先ある若者を母の腕で抱かれるべき赤子を…己が欲の為に血に沈めた罪は重い。
何時に無く低いワシの声とざわりと漏れるマナに気圧され、カルンとエドワルドがだらだらと冷や汗をかいてるとは露知らず、さてどうしてくれようかと一人仄暗い炎を燃やすのだった…。




