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女神の願いを"片手ま"で  作者: 小原さわやか
第二章 女神の願いでダンジョンへ
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40手間

 宿の食堂で朝食を食べつつ、いつ出発するかを話し合った結果。

 準備ができ次第出発という、急いでいるのかマイペースなのかよくわからない事になった。


「ダンジョンに最も近い砂漠の町まで一か月かかるのじゃろ?その分の食料などとなると、相当な量用意せねばのぉ。」


「いやいや、一か月もかかんねーよ?馬車なんかだったら四、五日ってとこだよ。」


 ワシの呟きに対し、アレックスが手で顔の前を扇ぐような仕草で否定してくる。


「ふむぅ。しかし、砂漠の町までは乗合馬車も出とらんという話じゃったが。」


「町に行く商人もいるっちゃいるんだが、護衛は領主が衛兵にやらせてっからな。」


 ダンジョンからの遺物の発掘は、この領地を保つために重要な事。

 攻略の橋頭保となる砂漠の町への物資輸送を担ってくれる商人は、領主が責任をもって保護する、という事らしい。


「どっちにしろ徒歩かのぉ…面倒じゃ…。」


 馬車と違い徒歩だと、襲ってくる野生動物や魔獣の数が段違いに多いのだ。

 馬車のような大きな動くものと違い、やはり歩く人は襲いやすいのだろう…それを相手取る事を憂いていると。


「心配すんな、馬車はもう買ってある。あとは馬だけだな。」


「ほほう、ずいぶんと手際が良いようじゃが、いつの間に買うたんじゃ?」


「あぁ、偶然っちゃ偶然だが、元々はこいつに世界中を見せてやろうと思ってな。」


 そういってアレックスが横に座っていたカルンの頭をぐしゃぐしゃと乱暴になでる。


「俺たちもあっちこっち回ってるといっても、護衛依頼で回ってるだけだし、せいぜいがこの街の周辺地域だ。セルカの様に、もっと色んなところに連れて行くのもいい経験になると思ってな。(ついで)に俺達も行ったことのない北の街とか見てみたいしな。」


「なるほどのぉ、確かに良い経験になるじゃろうな。もっともワシの場合は十五までの暇つぶし目的じゃったから、そんな殊勝なもんでは無いがの。」


「暇つぶし?」と今まで黙って話を聞いていたカルンが口を開く。


「あぁ、こいつはずっとダンジョンに行きたがってたんだが、俺たちと会った時はまだ十二だったからな。三等級以上って条件はクリアしてたんだが、年齢制限の方に引っかかってな。」


「え!十二で三等級に!?すごい!」


 そういってカルンがキラキラした目でこっちを見るが、目が合ったとたん、バッっと真っ赤になって俯いてしまった。


「経験を積ませる前に、人見知りを如何にかしたほうが良いと思うんじゃがのぉ。」


 その呟きをアレックスがニヤニヤして眺めていたが、とりあえず進めようと別の話をする。


「その旅、面白そうじゃからワシも着いていくのじゃ。それに使う馬車をすでに買ってしもうとるなら、ワシは馬を買おうかの。」


「あー、別に気にする必要はないんだぜ?馬車だって長旅用だし確かに安いもんは買ってないが、それでもみんなで金出し合って買ったもんだしよ。」


「皆で金を出し合ったんじゃろ?ならワシにも金を出させろということじゃよ。」


「なら、お言葉に甘えてお願いするわ。馬車を買った店によると、北門のとこにある馬屋がおすすめだそうだ。あと馬は一頭だけで大丈夫だ。」


「了解したのじゃ。ところで食料などはどうするのじゃ?」


「それは各自用意でいいんじゃないか?余裕をもって十日分買っておけば、多少トラブルで遅れても対応できるし大丈夫だろ。」


「んむ、ではワシは馬屋に行ってくるかの。」


 その言葉を契機に席を立ち、各自準備をするために街に散っていく。

 道中十日分の食料などを買い込み、教えてもらった馬屋へと向かう。


「おぉ、さすがに色んな馬がおるのじゃ。」


「こんにちは、お嬢ちゃん。お馬さんを見に来たのかな?」


 奥から出てきた馬屋の人に、客ではなく馬を見に来た子供扱いされたが、よくあることなので特に気にもしない。


「んむ、一頭引きの馬を見に来たのじゃ。足は速ようなくても良いから、丈夫で体力のある馬がよいのじゃ。」


「ほうほう、それじゃあこっちの馬がいいかな。」


 商人の顔に切り替えた店の人に連れていかれた先には、農耕馬ほどではないにしろ、がっしりとした体格の馬が並んでいた。


「どの子もよい面構えじゃのぉ。」


 並んだ馬はどれも毛並みもよく素人目にも上等なもので、どれを買うか決めかねていると、頭に乗っていたスズリが突然飛び出していく。


「こりゃ、スズリどこへ行くんじゃ。」


 駆け出したスズリを店の人と共に追いかけた先では、スズリが一頭の馬の頭に乗っていた。


「ほう、こやつは…。」


「ははは。スズリ、でしたっけ?動物同士わかるのでしょうかね?実にお目が高いですな。彼女はうちの店でも一番の馬なんですよ。ですが…。」


「ですが…?」


 店一番、うちの自慢の名馬だと言いつつも、最後で言いよどんでしまう。


「見ての通り純白の白馬なのですが、額の星がですね…そこだけが黒く残念だと言われてしまい、買う方がいないのですよ。」


 確かに足元の泥汚れ以外、まさに白馬というにふさわしい威容。そのせいで黒い額の星だけが悪目立ちはするが…気にする人は気にしてしまうのだろう。


「いや、よい。ワシはそやつが気に入った。何よりスズリも懐いておるようじゃしの、こやつを買おう。」


「おぉ、それはありがとうございます。よかったなお前、大事にしてもらうんだぞ。」


 そういって心底嬉しそうに店の人は白馬をなでる。


「ところで彼女は名前はあるのかの?」


「いえ、今のところ名前はありませんね。ぜひともお客さんがつけてあげてください。」


 代金を店の人に渡しつつ名前を聞いてみるがまだ名無しだった。


「ふむ…さすがにすぐには思い浮かばぬの…後ほどゆっくり決めさせてもらうのじゃ。」


 いくつかの馬具をサービスといって付けてもらい、アレックス達の馬車があるという南門に馬を引いてゆく。


「おぉ、待たせてしもうたかの?馬を買うてきたのじゃ。」


 すでにワシ以外のメンバーは集まっていたので手を振り話しかける。


「俺たちは南門に向かいつつ買い物したからな。それにしても、こいつぁ立派な馬だな。」


「んむ、こやつをスズリが気に入っての。まだ名無しじゃから、名をどうするかなのじゃが…。」


 馬の頭に乗っかっているスズリを見上げつつ名をどうするか聞いてみる。


「いやー、それはセルカが決めればいいんじゃないか?俺たちが金出したわけじゃないしよ。」


「ふむ…しかし、名前か…どうするかのぉ。」


 額の星、黒い点をみて画竜点睛という言葉が思いついたが雌なので似合わない気がする…。


「スズリが気に入っとるし、書道繋がりの名がよいじゃろうか…ふむ、硯と合わせて墨…スミにするかの!」


 白馬という点ではなく、ワシの宝珠と同じ黒い星が気に入ったためそう名付ける。

 ブルブルと名前が気に入ったのか馬が…スミが頬を擦りつけてくる。


「ほっほ、気に入ってくれたかえ?それならよかったのじゃ。」


「よし、名前も決まったならとりあえず、そこの宿を取って厩に入れてもらおう。出発は明朝だな。」


 門前宿を親指で示しつつアレックスが出発時刻を告げる。


「それはよいのじゃが、御者はどうするのじゃ?ワシはできんぞ?」


「それは大丈夫だ、俺とジョーンズ、インディが出来る。後々覚えてもらってもいいしな。」


 そう言われれば、アレックスは最初に会った時も御者をやってたなと思い出す。

 宿屋の人に馬を預け、明日は早くに出発するということなので、まだ少し早い時間だが休む事にするのだった。


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